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「本のことども」by聖月

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2009年 01月 06日

▲「まず石を投げよ」 久坂部羊 朝日新聞出版 1890円 2008/11

▲「まず石を投げよ」 久坂部羊 朝日新聞出版 1890円 2008/11_b0037682_11264334.jpg 間違ったことはないのに、間違って憶えていた言葉は、間違って憶えていたかどうかも定かではないが、多分間違って憶えていたのだろう・・・えっ?意味がわからないって?・・・でも、次の説明を読んだら、意味するところがわかるだろう。

 本書『まず石を投げよ』の文中で、出くわした言葉である。“父上、母上、先立つ○○をお許しください”お定まりの遺書の言い回しだが、さて○○には、どんな言葉が当てはまりますか?評者の周りの文化人3人にも訊いてみたが、3人とも同じ答えだった。3人の答えは【不幸】。でも、本当の答えは【不孝】。よく考えれば、後者が正解なのはよくわかる。前者だと、誰が【不幸】を感じるわけ?両親?それとも本人?なら、死ぬのはよしなよ、って感じで意味不明なのだが、後者なら両親健在なのに、その息子や娘が死ぬと宣言するのは本当に親【不孝】な行為で、【不孝】を詫びながら文字を残すというのは、これはドラマなら納得できるシーンである。どうだろう?あなたは間違っていなかったかな?

 これが、冒頭の言い回しのことである。間違っていたような気もするし、でも一度も書いたことないから間違って使ったこともないし、っていうかドラマなんかで聞いても意識して漢字を考えたこともないし、でも意識しなかったってことは、多分【不幸】ってボンヤリした漢字が心の中にあったんだろうし、みたいな。

 さて、本題に入ろう。最近、医学ミステリーといえば海堂尊を挙げる人が多いと思うが、評者的には久坂部羊のほうを推したい。確かに『チーム・バチスタの栄光』をすっげえ面白れえ!と思って、多くの知人に薦めた評者だが、その後の海堂作品にはイマイチ面白さを感じず、新作が出ても最近では手に取らなくなってしまっている。一方、久坂部作品には手堅い面白さがあり、新作が出るたびに必ず読んでしまう。中でも『廃用身』には抜群の面白さがあり、医療界の問題も目新しく、ミステリー部分でも読者のミスリードを誘う手際は鮮やかで、注目度さえ高ければどこかのベストテンの1位になっておかしくないほどである。ただ、両者の作風にはそれぞれの持ち味があり、海堂作品はコミカルで肩の凝らない医療最新技術路線、久坂部作品はシリアスで衝撃的な医療界の裏側を描写する路線、そんな感じなので読者の好みが分かれるだろう。勿論、評者は両刀遣いである。

 今回は、医療ミスの現場が主題である。医療ミスというのは、大きく3種類にわけることが出来るらしい。①医療関係者、患者サイド、どちらから見ても明らかな医療ミス②患者にはわからなくても、医療関係者が見ればわかる医療ミス③執刀した本人にしかわからない医療ミス。そして、③が今回の主題中の主題となる。

 胃がんの摘出手術を受けた患者が死亡する。残された遺族は仕方のないことと諦めている。そこに執刀医が、自分の医療上のミスがあったことを申し出、多額の賠償金を支払う。主人公である女性ノンフィクションライターが、医師の真意を確かめるべく、何度もアプローチしようとするが、中々近づけない。あるとき医師のほうから、“尾行するような真似で、私を追うのはもうやめて欲しい”と言ってくる。確かに尾行まがいのことはしていた女性主人公だが、それを気取られた記憶がない。そこを確かめると、医師が同伴している少年が映像記憶能力の持ち主で、その記憶にあなたが三度も映っていると聞かされる・・・。

 中々に面白い設定から入っていくのだが、その後がいただけない。結局、この医師の真意は読者の判断に委ねられたような結末だし、医師の別れた元妻とか、敏腕女性プロデューサーとか強烈なキャラクターが登場するも、その人たちの物語上の役割や蓋然性がバランスを欠いているのである。勿論、映像記憶能力少年も、上手くその役割を果たしておらず、結果的にキャラとしても魅力を欠いているのである。読後感がイマイチなのである。

 この作品はお薦めではない。お薦めではないが、久坂部羊はお薦めなので、是非『廃用身』を手に取っていただきたいものだなあ、なんて思いながら2008年最後に読んだ本となってしまった。(20081230)

※結局、2008年は87冊読了。以前のように、年間150冊近く読む日々は、再び訪れるのだろうかなあ。(書評No850)

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by kotodomo | 2009-01-06 11:27 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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