2009年 04月 13日
評者が小学校5、6年生の頃、なんかエッチな言葉を口にするのが年頃的に流行っていて、今も記憶に残っているのが、ひとつは“かまきり婦人”。五月みどりの日活映画ポスターが、当時いろんなところに貼ってあり、なんかエロい印象があったわけで、“かまきり夫人”と口にすることで、「どうだ!俺は今相当エッチなことをいったぞ!」と胸を張れたわけである。なんと幼く可愛いツッパリであったことか。 そして、もうひとつが“スェーデンポルノ”。なんかませたやつが仕入れてきた言葉で、みんな全然意味はわかっていなかったのだが、“ポルノ”なんて言葉より相当世間がわかっている大人が使う言葉のようで、“スウェーデンポルノ”と叫ぶだけで、当時はいっぱしの不良が気取れたわけである。ははは。 そして、本書『ミレニアム1』は、スウェーデンの小説なのである。ポルノではないが、結局、読書中もしくは読み終えたときに、うーむ、フリーセックスの文化だから生まれた小説だなと、妙に納得する文化背景がそこにはあるのである。これが舞台が日本だと、なんでみんなこんなに簡単にセックスするんだ!作者が都合よくセックスさせてるだけじゃないか!みたいになるわけで、そこは本場“スウェーデンポルノ”が舞台なので、さもありなんで終わるとこができるのである。 ところで、登場人物たちにヘンリック・ヴァンゲル、エディット・ヴァンゲル、リカルド・ヴァンゲル、ゴットフリード・ヴァンゲル、イザベラ・ヴァンゲル、マルティン・ヴァンゲル、ハリエット・ヴァンゲル、ハラルド・ヴァンゲル、イングリッド・ヴァンゲル、ビリエル・ヴァンゲル、セシリア・ヴァンゲル、アニタ・ヴァンゲル、グレーゲル・ヴァンゲル、イェルダ・ヴァンゲル、アレクサンデル・ヴァンゲル、グスタヴ・ヴァンゲルなんてのが出てくるわけで、どこかの感想を読むと“誰が誰だかわからない”なんて書いてあったが、心配することはない。途中で、このヴァンゲルは、あのヴァンゲルの叔母だっけ、従妹だっけ、なんて考えて読む必要はない。何も考えないで読んでいくと、必要な人物名は自然と入ってくるので、とにかく考えないで読むように。 で、この作品の本質の話なのだが、すこぶる面白いエンターテイメントミステリーである。随分と昔、ヴァンゲル家の16歳の娘が失踪する事件があった。年老いたヘンリック・ヴァンゲルは、ヴァンゲル家の誰かが殺したのだと思っているが、それが誰なのかを死ぬ前に再度洗い出したいと考え、ジャーナリストのミカエルに、家族史の編纂という表向きの仕事を与え、捜査を依頼するのである。 どこにでもありそうな出だしの設定なのだが、ミカエルの抱える現状、謎深きドラゴン・タトゥーの女の活躍、財閥ヴァンゲル家の不可解な歴史、そんなのが相俟って全体をハリウッド級の作品に仕上げているのである。ミステリーとしても、エンターテイメントとしても完璧である。すこぶる面白い娯楽小説である。読むべし、読むべし、べし、べし、べし!!!である。 特に、物語終盤が素敵である。広げすぎた感のある風呂敷を丁寧に、それも読者の納得する形で畳んでいくところが読んでいて快感。島田荘司にこの作者の爪の垢を飲んでほしいものだが、実はこの作者、50歳で既に亡くなっている。ということは、『ミレニアム2』『ミレニアム3』は出ないの?と寂しく想像してしまいそうだが、総てを完成させて発刊前に心臓の病で亡くなったとのことで、なんとも惜しいものである。 もう一度、終盤の収斂について触れるが、同様の終盤のテイストを持つ小説としては、最近では『数学的にありえない』アダム・ファウアーが挙げられるし、古いところでは『夏への扉』ロバート・A・ハインラインが挙げられるだろう。途中の何気ない伏線が、一気に収束していくあの快感である。 評者的には、次回のこのミス海外編の1位はこれで決まりである。これからも、どんどん面白い作品が出てくるとは思うのだが、他の作品が面白いからといって、比較して本書が下位にくるというような薄っぺらな小説ではないのである。本書の面白さは、本書の中にドスンと構えているのである。(20090405) ※NHKの週刊ブックレビューを見ない評者なので、中々児玉清に騙される機会は少ないが、それでもたまに雑誌の書評などで、児玉清には騙される傾向にある評者である。今回は、新聞書評の児玉清の記事に気になって、騙されたつもりで読み始め、序盤、騙されたかもなんていう気もしていたのだが、終わってみれば完璧楽しい読書でした。(書評No874) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2009-04-13 12:41
| 書評
|
Trackback(1)
|
Comments(0)
Tracked
from COCO2のバスタイム読書
at 2009-05-16 22:30
|
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||