2009年 09月 25日
三島賞候補にもなった表題作「エミリー」。悪くはないのだが、この作品で三島賞を受賞して、もう少し多くの一般的読者に読まれていたなら、どうだったんだろう?いじめ、ホモセクシャル、弱者同士の連帯、そういうものがあまりにも痛々しく描かれているので、あまり一般受けしなかったのじゃないだろうか。そういう意味では、再度候補に挙がった「ロリヰタ」あたりだったら、新機軸の作風として、是非受賞して、多くの人に読まれてもよかったんだろけど、こちらも結局は受賞まではいたらなかったわけで、まあ下妻物語あたりが本も映画もヒットしたからいいのではないでしょうか、賞なんかもらわなくても、などと勝手に思っている、娘の「ピチレモン」という少女ファッション雑誌を眺めるようになった最近の評者なのである。 「エミリー」は、まあ読んでみんなまし。痛々しい映像が想起されるので、これだけ読んだら、嶽本野ばらを敬遠したくなる読者は多いかもしれない。が、色んなところに作者の巧さが出ているわけで、舞城王太郎の『阿修羅ガール』が三島賞を受賞したことを考えれば、独特の技巧の光るこの作品での受賞もアリかなである。 本書には「レディメイド」短編、「コルセット」中編、そして表題作「エミリー」中編の順に3編の作品が収めれているのだが、「レディメイド」には感服、「コルセット」には非常に嶽本野ばららしさが出ていて大満足。3編併せた全体としては、読むべし、読むべしのお薦め野ばら本である。 とにかく短編としての「レディメイド」の完成度が素晴らしい。落ちのあるショートショートとか、雰囲気短編などとは一線を画し、手垢のついていない構成で読ませ、評者的にはこんな短編だったら、何作でも読みたいと思わせる作風なのである。女性主人公と、同じ職場の恋愛対象となるべき男性の会話を中心とした短編ながら、その中身は濃い。美術論、絵画論、観賞論とおよそ評者には日頃まったく関心のない事柄をモチーフに纏っているのに、これが実に読ませるわけで、理解してもいないのに、う~む、この作者のセンスには舌を巻く、みたいな読後感なのである。まあいいから、騙されたと思って読んでみてください。 そして「コルセット」は、これいつもの野ばら流野ばら節。キミと僕が出逢って冒険し、ファッション流儀の設定が微妙に心地よい作品なのである。僕は少し精神が参ってしまって、精神科の病院に通うのだが、ついでに言えば近々自殺する予定だし、どうせなら死ぬ前に気になる受付の女性とデートでもしちゃえ、誘っちゃえ!そんなところから、この恋の冒険の物語は始まるのである。そして、この人の作品の中でよくある風景で、評者の好きな場面であるところの、女性に似合うファッションの一品を見立てて買ってあげるところあたりがよろしいのである。 などと書きながら、実に最近は嶽本野ばらに嵌っている評者などは、「ピチレモン」を眺めていたら、娘に“パパってそんなの読んだら変態だよ!”と言われながら、なるほど女学生に人気の ※次は『ハピネス』あたりを読もうかしら。(書評No916) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2009-09-25 16:18
| 書評
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