「本のことども」by聖月

kotodomo.exblog.jp
ブログトップ
2010年 01月 23日

聖月様が本屋大賞2010を決めるなら

ノミネート作品は10作。

『1Q84』村上春樹(新潮社)
『神様のカルテ』夏川草介(小学館)
『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
『植物図鑑』有川浩(角川書店)
『新参者』東野圭吾(講談社)
『天地明察』冲方丁(角川書店)
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)
『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)
『ヘヴン』川上未映子(講談社)
『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)

『船に乗れ!』藤谷治しかないでしょう。

この作品、『船に乗れ!Ⅰ~Ⅲ』まで3作あって、候補の末尾に数字が付いていないので、3作でひとつの作品と見做してるんでしょうね。

『1Q84』村上春樹も捨てがたい作品なんだけど、みんなに読んでほしいというより、
もうみんな読んでいるからいいんじゃないかな。


◎◎「船に乗れ!Ⅰ 合奏と協奏」 藤谷治 ジャイブ 1680円 2008/11

b0037682_9543956.jpg ああ、これって、青春小説の傑作!音楽小説の傑作!良書読みの押さえ本!である。いや、青春とか音楽とかそんな言葉に捉われない、ジャンルを超えた傑作だと言っておこう。読むべし、読むべし、べし、べし、べし!!!評者が書店員だったら、ポップをこさえて本屋大賞に売り込むし、直木賞の選考委員だったら滅茶苦茶推しちゃうし、結局は書店員でも選考委員でもないんだけど、とりあえずはその昔、少しは名の売れた書評ブロガー聖月様(この際、自分でそういうが)ということで、この記事を読んだ人のさざ波から大きなうねりを呼んで欲しい作品である。

 藤谷治という作家は、元々抽斗の多い作家で、ファンタジイを書いてみたり、ドタバタ小説を書いてみたり、少女視点の静かな小説を書いてみたり、つんつるてんを主題に趣向の違う2分冊の小説を書いてみたり、なんて色んな方向から小説というものを捻り出してきていたのだが、本書を読んで評者が感じたのが“今回は本気で書いている。マジで描いている”ということである。要するにこれまでは、こんな風に小説を仕上げたら面白いかしらん?なんて商業的に娯楽小説を生み出してきた藤谷治だが、今回は真剣勝負で小説というものを紡いでいるって感じなのである。

 本書を読んで感じたのは、本を楽しむってことは姿勢として気楽であるっていうことと、楽しめる本を生み出すっていう作家の真摯な姿勢は、気楽とは対極の位置にあるんだろうなあということである。読むには技量がいらないが、生み出すには相当の技量が要求されるんだろうなあということである。

 本書の中で、作者は音楽とかオーケストラというものに真剣に向かい合っている。多分、元々そちら方面に造詣は深いと思うのだが、それを作中に取り入れて、一般読者に読んでもらうためには、作家としての相当な技量が要求されるわけだが、本書ではそれを見事にやってのけている。

 どこかの書評で本書に触れているのもがあり、簡約すると“音楽の専門用語で満ち溢れ、凄く興味を持って読んだが、果たしてこれまで音楽に触れてこなかった読者がどこまで面白いと感じるか、そこが不安である”みたいなことが書いてあったが、それは評者の読書を通して証明できる話で、まったく杞憂としか言いようがない。専門用語の意味がわかったりわからなかったりするのだが、作者の咀嚼という技量によって、言いたいこと伝えたいことが100%沁みてくるのである。100%理解できなくても、100%沁みてわかってくるのである。主人公と一緒になって難しい旋律を克服し、主人公と一緒になって冷や汗を読者はかくのである。そして、上手くいったときは、主人公と一緒になってホッと胸をなでおろすのである。

 一部の読書人にわかりやすく伝えるなら、本書は藤谷版『DIVE!!』(森絵都)である。森絵都の『DIVE!!』シリーズは、飛び込みというスポーツを描いた傑作であったが、音楽以上に読む前から親しんでいる人のいない世界である。それなのに、多くの読書人が面白かったと評価しているわけで、どんなに特異な世界も、作者に相当の技量さえあれば、その面白さ、奥深さを伝えることはできるのである。

 本書の主人公は、高校1年男子生徒である。高校に入るまでの経緯も書いてはあるが、本当の物語は高校1年生の1年間にある。女子生徒ばかりの高校の音楽科で、チェロの腕を磨く主人公。どうやら素質はあるらしい。しかし、個人的資質がいくらあっても、高校に入って初めて体験するオーケストラ、アンサンブルというのは別世界だということに気付く。音を合わせなきゃいけないのである。チェロの裏拍をとる楽器とも合わせなきゃいけないし、チェロ奏者同士も合わせなきゃいけない。ましてや、個人演奏とは違い、そこには指揮者がいるわけである。読者は読みながら、そういう苦労を主人公と一緒に乗越えていくのである。

 また、本書の魅力としては、イベントの巧みな配置にある。普通、こういう青春物だったら、甲子園の優勝を目指すとか一点にあるものだが、本書の場合は、最大のイベントの前に初体験のイベントを配置したり、最大のイベントの後に最高のイベントを配置したりと、読者の興味、緊張感を途切れさせないのである。う~む、凄いぞ、これって。

 ところで、題名にⅠという数字がついているが、果たして続きはあるのだろうか?答えは、続きは“ある”(少なくとも作者はそのつもりで本書を完結させている)。実は、本書は、今の主人公が昔の自分を語っているという書き出しから始まり、なぜ語ることになったかという問題の人物を登場させているのだが、そこの理由までは本書では触れていないからだし、主人公の今後の人生の岐路をにおわせながら、結局そこまでは辿り着かずに終っているからである。多分、2年生、3年生と、シリーズⅢくらいまでの構想ではなかろうか。

 森絵都『DIVE!!』と同じ期待感がある。今後のシリーズ出版が、今から待ち遠しい。結局、この主人公はどういう道を辿っていくのだろう?そして、昔を語る今の主人公は、どういう立場、境遇にあるのだろう?傑作のあとに、傑作は続くのだろうか?興味のつきない読書人押さえ本の本書である。最後に、もう一度・・・傑作である。(20090215)


◎◎「船に乗れ!Ⅱ 独奏」 藤谷治 ジャイブ 1680円 2009/7

b0037682_6141359.jpg 評者はこのシリーズを藤谷治版『DIVE!!』(森絵都)だ!と、前作を読んだとき言いきったわけで、そう考えるとシリーズが何作まで続くのかが気になるところである。

 『DIVE!!』と同じく4作くらいが妥当だと思うし、ただ前作で高校1年での生活を、本作で高校2年での葛藤を描いたことからすると、3年を描いてシリーズが3作で終わることも考えられるし、現在の主人公が昔の自分を語るスタイル(此岸から彼岸を眺めるような視点)から推測するに、大学編とか社会人編とかフリーター編とか耳偏とか獣偏とか20作くらい続くのかもしれない(とは思わない(-。-)y-゜゜゜)。評者の気持ちとしては、5作くらいは続いてほしい楽しみなシリーズである。

 ところで、シリーズの第一作(前作)の副題が、“合奏と協奏”。音楽科の高校で主人公たちが集い、音楽を通じて高め合い成長していく、そんな意味での副題かと思う。シリーズ2作目の今回の副題は“独奏”。中々言いえて妙な副題といえよう。前半は、前作と同様のテイストで進行していくのだが、後半は一転、主人公の孤独な葛藤を中心に描かれるわけで、そういう意味で独奏なのである。特に本書の終盤あたりは、前作で考えられなかったようなノワール感が広がるので、今後の話がどういう展開になっていくのかが楽しみである。

 『DIVE!!』のシリーズを考えたときに、シリーズ各編で明と暗、挫折と栄光、そんな色合いに分けることが出来るだろう。本シリーズの場合にも、そういう暗転と陽転のタペストリーが考えられるし、暗転、暗黒、破滅への道が続くのかもしれない。というのも、どうも昔を語る現在の主人公の語り口が、苦い過去を振り返るような、そんな印象なのである。評者としては、楽しい学園ライフを、もっともっと描いてほしいのだが。

 前作を読んだとき、“これって青春小説の傑作!音楽小説の傑作!良書読みの押さえ本!である”と評した評者なのだが、もしかすると青春小説だとか、音楽小説だとか、そんな範囲に収まらないシリーズが展開されるのかもしれない。(20090919)


Ⅲは未読。今現在、図書館の順番待ち。
[PR]

by kotodomo | 2010-01-23 08:39 | メモる | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://kotodomo.exblog.jp/tb/12715120
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by 木曽のあばら屋 at 2010-01-30 21:01 x
こんにちは。はじめまして。
10冊中6冊読んでますが、
私も「船に乗れ!」しかないと思ってます。
第3巻は未読でいらっしゃるとのことなので内容には触れませんが、
まさに怒涛のフィナーレ、見事な結末です。
仰るとおり、青春小説とか音楽小説とか、そういう狭い範疇を軽々と飛び越えた傑作であり、
すでにして「古典」と言ってもあながち間違いではないような気さえします。
Commented by 聖月 at 2010-02-01 09:28 x
木曽のあばら屋さん。はじめまして。

多くの人に読んでほしい・・・そういう意味で、『船に乗れ!』が獲ると本当に嬉しいのですが。

『マリッジ・インポシブル』を読んだとき、藤谷治よ、おいおい、と思ったのですが、本書を読んで、藤谷治、来たねえ、って感じですね。

早く、図書館から第3巻がくると嬉しいのです。


<< 2010年1月に読んだ本のこと...      ◎「インドなんてもう絶対に行く... >>