2004年 12月 26日
いやあ、実に楽しく読めた物語である。凄くエンタメ、どこか極上のドキュメンタリーみたく、少しハードボイルドな雰囲気も醸しだす出色の娯楽小説である。 本書には西部劇と早撃ちの娯楽的薀蓄がイッパイイッパイ詰まっているが、評者のようにそういうものに特に興味のない読書人も、頁を繰るごとにその世界にドンドン引き摺りこまれていってしまうはず。例えば、本書には西部劇をテレビやビデオでしか見たことがない世代という表現が出てくるが、1962年生まれの評者もそのクチである。少なくとも映画館で西部劇を観た記憶はない。それでも『シェーン』や『OK牧場の決闘』やその他有名な作品は淀川長治解説つきで見たはずだし、幼い頃は忍者ごっこやチャンバラと同様に、決闘なる遊びをしていたことも記憶している。オモチャの銃を持って、二人背中合わせ。そこから10歩歩いて振り向いてバキューンって。あ!9歩しか歩いてないずるい!とか、こっちが勝っただのそっちが遅かっただの(^.^)あとマカロニウェスタンについて言えば、中学の頃だったと思うが、水野晴郎解説つきでジュリアーノ・ジェンマあたりをやたらと観た記憶が・・・相当流行っていたなあ、ジェンマ。そうそう、本書を読んで思い出したのだが、クリント・イーストウッドのガンマンスタイルも目に焼きついているわけで、なんだかんだ見てるんだなあ。しかし、マカロニウェスタンって、何じゃろ?イタリアが作った西部劇なのだが、あれは舞台がイタリアなの?やっぱアメリカ西部?どうでもいいけど。ジョン・ウェインは顔が角張ってどこが魅力的なのかよくわからなかったし、そうかヘンリー・フォンダも・・・というように、読みながら、なんだかんだの記憶がポロポロ脳みそから湧き上がってきた評者なのである。 西部劇に興味なかったからこそ、西部劇論も新鮮に映る。例えば射的場に行って、女子供が出てきたら撃っちゃいけないけど、インディアンが出てきたら撃っていい、そんな趣向はなんか当たり前だと思っていたけど、本書を読んでよくよく考えるとそれってメッチャ人種差別!だから、そういう人種差別論争にも巻き込まれた西部劇。そうだなあ、よく考えてみれば、西部劇も大きく二つに分かれるなあ。荒くれ者対主人公みたいなやつと、インディアン対主人公(騎兵隊)みたいなやつと。 ここまで言っても西部劇絡みには興味ないと思われる方も、ワイアット・アープとかビリー・ザ・キッドくらい知っているのなら読みなはれ。どういう人物だったのか知らなくともだ。ワイアット・アープもビリー・ザ・キッドも知らない、という方も“何々していい?”と訊かれ“OK・・・牧場の決闘”という伝説的なオヤジギャグを聞いたことあるという人も読みなはれ。たとえ『OK牧場の決闘』の映画を見ていなくてもだ。 で、本書の中身だが、著者が以前書いた◎◎『アリゾナ無宿』のよう西部劇小説では全然ない。かつての名監督が10年ぶりにメガホンを取って、日本人ならではの西部劇を撮ろうと考え、その実現の過程、経緯を描いた物語である。主人公はそれをお手伝いするはめになった、どこかハードボイルダーな物静かなライターである。ただそれだけの物語なのだが・・・いやはや、いいねえ。読んでいて楽しかったねえ。 で、読み終えて評者が何を考えているかというと、来年は西部劇を観るぞ!ということである。西部劇を粗方観たら、再度本書を読もうということである。ところが最近は、テレビでも勿論映画館でも西部劇はかからない。たまに衛星でやっているようだが、一人住まいの東京の部屋では衛星見れないし、ビデオで借りてきての再生装置もないし、身辺が重くなるので買う気もない。鹿児島の嫁さんに都度電話して録画してもらうにも、嫁さんは評者の書斎のビデオの扱い方は知らないと言うだろうし・・・ そうだ!!!なんのために、評者のPCにDVD機能がついているのか?友人から貰ったエロエロハメハメ天国みたいのを再生するためじゃないのだよ。今気付いた!!!ということで、来年は何本かDVD西部劇を買うことになります(^.^) とにかく本書『墓石の伝説』は、読むべし、読むべし、べし、べし、べし!の娯楽本なり~!!!(20041226) ※名作たちを制覇したらシャロン・ストーンの『クイック&デッド』なんかも観るべ(書評No452) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2004-12-26 13:23
| 書評
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