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「本のことども」by聖月

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2005年 01月 10日

◎「死の笑話集」 レジナルド・ヒル 早川ポケミス 2100円 2004/11

◎「死の笑話集」 レジナルド・ヒル 早川ポケミス 2100円 2004/11_b0037682_13192986.jpg ダルジール警視物を読んでいると、この存在感のあり過ぎる人物を真似して、つい教訓じみたことを余計な装飾と勝手なユーモアに包めて喋りたくなってしまう評者なのである。昨日もそう。小学4年生の上の娘に“人生真っ直ぐゴールだけ目指して努力するだけじゃだめ。たまには遠回りしながら辿りつくのもいいのである。”ということを伝えるために、例えばの話でこんなことを付け足したのである。“ほら、今日だってパパは菜の花マラソン、1時間16分もかけて走ったけど、本当は60分ちょっとぐらいでゴールすることもできたのだよ。でもね、走りながら喧嘩を始めてあたし死んじゃう!なんて女が言ってるようなカップルの仲裁をしたり、もう走れないし歩けやしないっていう老婆を救護車まで負ぶっていったり、コンタクトを落として人生の意味まで失ったような顔をしている金髪美女を助けたりしているうちに、あんな時間になってしまったのだよ。早くゴールに辿りつくより、なんと素晴らしいレースじゃないか!”って。娘が冷静な顔をしてこう言う“パパが今ウソついたのはわかっているけど、沿道の応援や、一緒に走っている人たちの裏側の人生や走る動機とか、色んなことを考えながらゆっくりゴールを目指すことは、そんなに悪いことじゃないってことは言外にわかったつもりよ♪”実にナイスな会話をする42歳男と10歳娘の図なのだなあ。

 そうそう、ダルジールの本書内でのセリフをそのまま当てはめていいような出来事も昔あったなあ。もう過去の書評内のどこかに書いたような気もしないではないが、上の娘が3歳くらいのとき、クッキー食べながら一生懸命テレビに釘付けになっていたシーン。小さなお皿の上のクッキー3枚をたいらげて娘“ママ~、もっとクッキー欲しい♪”そんなことを3回くらい繰り返しながら、またもや意識はテレビの中に。そうしている間にママはクッキーのおかわりを1枚だけお皿にサービスしたのだが・・・。テレビから意識が離れ、皿の中の新たなクッキーに気付いた娘がこう言ったのである“神様、ありがとう♪”知らない間にクッキーがそこに存在していることに気付いて、信心深い娘はこう言ったのである。本書のダルジールならこう返しただろう。“目の前に明らかな答えがぶら下がっているときに、魔法を探そうとしないほうが賢明だがなあ”と。

 ところで、本書の冒頭にこんな注意書きがある。「本書はダルジール警視シリーズの前作『死者との対話』の続編にあたります。『死者との対話』の結末に関する描写が多く含まれますので、未読の方はご注意下さい。」と。要するに完全なる続編なので、前作のネタバレが当たり前の下敷きになっているので、本書を読んでから前作読んで、なんだネタバレで面白くなかったとなっても知らないよということなのである。評者の場合は、傑作◎◎『死者との対話』を読んだから本書を読もうという気になったわけで、その点は問題がなく、逆にこの2冊を併せて通読できたことで、より読書の楽しみが満喫できたような気がする。前作を読んでいないと、魅力的な女性ライ・パモーナの人生の行き先の終止符の意味合いがわからないし、ダルジールより主人公的なパスコー警部とフラニーという犯罪的な人物の確執も理解しがたいものがあろう。そして前作の犯人の呼称ワードマンの亡霊的意味合いもチンプンカンプンに終わってしまうだろう。

 評者も重ねて言おう。シリーズの未読に関係なく、前作『死者との対話』を読むべし、読むべし、べし、べし、べし。そして気に入ったら、本書『死の笑話集』を手に取るべし。基本的にミステリー要素では前作のほうが面白いが、このヒルという作家、巨匠とかでは言い足らず、多分日本語的には文豪と言ったほうが適切だろう。ひとつとして退屈な文章はなく、多分頁がボロボロになるくらい読み返せば、それだけ深みが増していく。言葉に、行間に、魅力的で粋な意味を散りばめた壮大な物語なのである。評者も再度読めば、見落としていたユーモアや深みに気付くはずである。未だ読んだこともないシェークスピアが大学の講義の材料に使われるくらいなら、本書や前作を講義の材料に使っても遜色ないし、学生は喜ぶだろうと断言したい。例えば“サンタ・ファッキング・クロース”というお下劣な言葉も、日本人が聞いたらどこが面白いのかと首を捻るかもしれないが、本書の中でダルジールが同じ言葉を使った場面では、評者は・・・吹き出した、ププッ!!とにかく前作から併せて読むべし。2冊あわせて2段組1200頁超も苦もなく読めるぞ、楽しめるぞ!(20050110)

※読書が楽しいこの2冊(書評No458)

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by kotodomo | 2005-01-10 13:20 | 書評 | Trackback | Comments(2)
Commented by Hermaione at 2005-01-10 18:45 x
面白そう!私の好きな翻訳物だし。訳も悪くないのね。
しかし、ポケミスって2000円もしたかしら??
高くなったのねえ・・・・でも、読書が楽しいこの二冊とか言ってるし(笑)
手に入れないと。
そうそう、できれば次回よりは翻訳者の方の紹介もよろしく。
翻訳者で、全然違うから、翻訳物。重要ポイントなのです。
Commented by 聖月 at 2005-01-10 23:54 x
ハーマイオニーさん 先ほど東京へ帰ってまいりました。
なんでこんな遅い便予約したんだっけ?家族と一緒に居たいから?でも最後は嫁さんと空港までドライブ。食事をしてお別れでした。子供たちまだ小さいから久々の二人だけの外食(^^)v
いいですよ、ヒル。なんかですねえ、秋津さんという方ともう一人、二人で交互に訳しているようで。でもどちらも太鼓判。っていうか、ヒルの文章をあれだけ訳して解説まで入れてくれれば、もう本物。安心してお読みくださいな。
うん、ポケミスとしては最長の部類。でもあれだけのボリュームで2100円は安いかも。ハードだったら2800円くらい。お安いですよ、この値段。


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