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「本のことども」by聖月

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2005年 01月 25日

◎◎「流星ワゴン」 重松清 講談社 1700円 2002/2

◎◎「流星ワゴン」 重松清 講談社 1700円 2002/2_b0037682_7385090.jpg こんな本を読みたかった。心に沁みてきた。どこか切なく感じ、少し笑みが浮かび、心温まり、チョチョ切れそうな涙をこらえて読み終えた評者の心にあるのは、満足感に加え、少し増幅された優しさかな?感受性かな?

 本書『流星ワゴン』の設定自体は、ありふれた作り話。家路に向かう主人公。酒をひっかけ、マイホームのある駅に降り立っても、まだ家に足が向かう気にならず、コンビニでおにぎりとアルコールを買い、駅の前でぼんやりと考える。“このまま死んじゃうってのもありなのかなあ”と。会社ではリストラの対象。妻は理由も話さず離婚を求めてきている、リストラの前から。中学受験のためにあれだけ頑張っていた一人息子は、不合格の影響なのか、今では不登校、家庭内暴力まで。“このまま死んじゃうってのもいいのかなあ”と考える主人公の前に停まっていたワゴン車。それに乗って過去に遡っていくことになるのだが、過去はやり直せない、変えられない、ただ繰り返し、見るだけの旅。しかし、今まで見えなかったもの、見過ごしていたものも見えてくる。

 この主人公の場合、5年前、もしくは3年前でも、普通の幸せにくるまれた家庭生活を送っていた。じゃあ、何がその生活を変えたのか、主人公はどんな悪いことをしたのかというと、これといった原因もないし、悪いことも後悔するようなこともしていない。

 例えば評者の場合、小学3年生の長女と幼稚園年長さんの次女がいるのだが、二人ともスクスクといい子に育っているな、と感じている。新婚の頃ほど、お互いに関心を持たなくなったように見える嫁さんとの関係も、評者の食い散らかした秋刀魚の残りをごく自然に口へ運ぶ嫁さんの姿を見ていると、まあとりあえず順調なんだろうなと思う。今はそう思う。じゃあ、長女が中学にあがる4年後は?4年後はわからない。順調に行ければなあと思うのだけど、やはり未来はわからない。努力を続けても、どういう結果になるかはわからない。中学が荒れている居住区。多分、娘は私立の受験を希望するだろう。果たしてその時、経済的な余裕があるのだろうか。経済的なことは別にして、努力家の娘は受験のために頑張るだろう。評者は、“おう、毎日頑張ってるなあ”と声をかけたりするのか?それとも、好きなようにしなさいと知らんぷりを決め込むのか?万が一、受験に失敗したとき、今より感受性が豊かになっている将来の娘は、“パパが、頑張ってるなあと声をかけるのがいやだった、プレッシャーだった”言うのだろうか?“パパが、私の勉強に知らんぷりしてたのが淋しかった、悲しかった”と言うのだろうか?嫁さんまでも“あなたが、…だから”と言うのだろうか?頑張れと声をかけても、知らんぷりしても、落ちたときの娘は、評者を恨むのだろうか?実際に、家庭内暴力が顕在化している家庭においても、明確な原因なんてない家庭が多いのではないだろうか。あの時点、あの場所に戻ってやり直しすれば、こんなことにはならないといった明確な時と場所が存在するのだろうか。そんな思索を誘った本書である。

 そうそう、本書で忘れてならないのは、主人公と父親との関係。主人公は、親父の存在を嫌い、親父のやり方、考え方を嫌う。その父親も死の淵にいる。ただ、今回の過去へ遡る旅で、そういう父親にも思いを馳せることとなる。評者の場合も、父親とは全然打ち解けない関係にある。でも、でも、である。今、評者が娘たちを見つめる目。こういう目で、親父は自分のことを見ていたんじゃないだろうか、成長を育むような目で。評者が鹿児島から東京の大学に行くことが決まったときも、その後の大学生活期間中の仕送りを考えたときも、相当頑張ったんじゃないだろうか、親父は。そこまで思い至っても、やはり打ち解けない親子関係ではあるのだが。

 本書が思い出させてくれたもの。評者と、評者の父親の背格好は大体一緒である。幼いときは、たとえば動物園などで、よく肩車してもらったものである。肩車してもらうと、嬉しかったものである。評者と、親父の身長が大体一緒ということは、あのときの自分は、今の自分の目の高さより高いところから、幼い目には珍しい世の中を見せてもらっていたのだなあ、親父の肩の上で。

 年齢により、未婚、既婚により、また子供の有無により、感じ方は違うかもしれないが、それでもそんなのは飛び越えて、読め、読め、読めの一冊である。沁みて、痺れて、笑って、泣いて、そして心温まって本を閉じなさい。(20030512)

※買ってでも、読むべし、読むべし、べし、べし、べし。

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by kotodomo | 2005-01-25 07:38 | 書評 | Trackback(10) | Comments(6)
Tracked from アン・バランス・ダイアリー at 2005-03-14 08:40
タイトル : 『流星ワゴン』  重松清  講談社文庫
流星ワゴン『今夜、死んでしまいたい。 もしもあなたがそう思っているなら、あなたの住んでいる街の、最終電車が出たあとの駅前にたたずんでみるといい。暗がりのなかに、赤ワインのような色をした古い型のオデッセイが停まっているのを見つけたら、しばらく待っていてほ... more
Tracked from 評価チャンネル|お笑い/.. at 2005-04-18 15:43
タイトル : 【流星ワゴン】 重松 清 (著)
私は、この物語の主人公とは、年齢も家族構成も違います。それでも、共感できる主人公の父としての立場、そして息子としての想いが、この本を読み進める私の心に強く残りました。主人公と同じ立場のひとが読むとどう印象を受けるのでしょう?また、女性が読んだらどう感じるでしょう?読まれた方の感想を聞いてみたいところです。... more
Tracked from AOCHAN-Blog at 2005-10-20 13:06
タイトル : 「流星ワゴン」重松清
タイトル:流星ワゴン 著者  :重松清 出版社 :講談社文庫 読書期間:2005/10/03 - 2005/10/07 お勧め度:★★★★ [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 死んじゃってもいいかなあ、もう……。38歳・秋。その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして・・自分と同い歳の父親に出逢った。時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。やり直しは、叶えられるのか・・?「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた傑作。妻の浮気、...... more
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-11-14 02:13
タイトル : 「流星ワゴン」重松清
流星ワゴン発売元: 講談社価格: ¥ 730発売日: 2005/02売上ランキング: 6,456おすすめ度 posted with Socialtunes at 2005/11/10 「疾走」を読んだ翌日に読んだため、正直印象が薄くなってしまった。 やはり、他の誰かの、できればライトな小説を読んでリフレッシュしてから 読むべきだったかなあという後悔はある。重松作品は、後味の善し悪し問わず、 けっこう消耗するからなあ。 リストラ、冷えた夫婦仲、荒れる息子・・・、もう死んでもいいかなあ、...... more
Tracked from 苗坊の読書日記 at 2005-12-21 00:04
タイトル : 流星ワゴン 重松清
流星ワゴン 一人の男が電車を待っていた。 生きようという気力をなくした和樹。 妻の美代子がテレクラを頻繁に利用しており、息子の広樹はいじめに合った事でひきこもり、家庭内暴力をしている状態。 そして本人は、リストラにあった失業者。 もう死んでもいいかな。....... more
Tracked from ケントのたそがれ劇場 at 2006-08-31 21:28
タイトル : 流星ワゴン
 なんともはやマンガチックで、懐かしい響きを持ったタイトルである。この「ワゴン」とは、幽霊父子が運転するワゴンカーであり、ワインカラーのオデッセイのことでなのである。 そしてこのオデッセイこそ、『バック・トゥ・ザ・フューチャーでいうデロリアンであり、一種の... more
Tracked from ぶっき Library... at 2006-09-20 18:17
タイトル : 流星ワゴン (重松清)
年配のご婦人が、見ず知らずの若い母親に連れられている幼児の姿に、条件反射的に顔をほころばせる。そんな光景に出くわすと、人の愛する本能の瞬きに触れたような心持になる。これはありがちな光景で、ということは、世の中... more
Tracked from たこの感想文 at 2007-03-04 00:33
タイトル : (書評)流星ワゴン
著者:重松清 流星ワゴン価格:¥ 730(税込)発売日:2005-02 会社をリ... more
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2007-12-03 21:02
タイトル : 流星ワゴン 重松清
流星ワゴン この本は気楽に♪気ままに♪のんびりと♪のゆきさんにお勧めいただきました。ありがとうございました。 ■やぎっちょ書評 おおお。若い父親と現代を過ごすバージョンのお話。この設定は最近あったぞ!&好き設定。「異人たちとの夏」山田太一さんだ。過去に戻....... more
Tracked from 京の昼寝〜♪ at 2007-12-03 21:58
タイトル : 「流星ワゴン」(重松 清著)
 「流星ワゴン」(重松 清著)【講談社文庫】      僕らは、友達になれるだろうか?       38歳、秋。 ある日、僕は同い歳の父親に出逢った。 死んじゃってもいいかなあ、もう・・・・・・。38歳、秋。 その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。 そして 自分と同い歳の父親に出逢った。 時空を超えてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。 やり直しは、叶えられるのか? 重松 清さんの小説にはまっています 「カカシの夏休み」に続き、この「流星...... more
Commented by EKKO at 2005-03-14 08:39 x
望月さんの熱い想い伝わりました~
私も読みました。とても読みやすくて良かったです。
父と息子の関係って微妙ですよね。確かに肩車って母親にはできないなぁ~なんて思いました。
しっかり息子たちとコミュニケーションをとっていかねばならないとも感じました。
Commented by 聖月 at 2005-03-14 09:59 x
EKKOさん 本当に素敵な物語でした。
息子がいないのでわからないこと、息子なのでわかることありますね。
肩車、気持ちいいものでしたよ。
あと蓼科ですねえ。あそこに2年くらい居たことありますので、それも良かった。
良かったずくしの作品でした。
Commented by EKKO at 2005-03-18 22:11 x
聖月さん、勘違いしてお名前を間違えてしまっていました。
大変失礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。
何度も間違えたあと、今頃になって気づくなんてお恥ずかしいです。
あつかましいようですが、これに懲りず仲良くしていただければ嬉しいです・・。
Commented by 聖月(みづき)(^.^) at 2005-03-18 22:55 x
いや、EKKOさん、こういうのは間違われるような字面にして、初めてのご挨拶のとき振り仮名を振らなかったほうが悪いのです。
おかげで最近は深く反省し、初めてのご挨拶の際は“初めまして 聖月(みづき)と申します”と書いておるんです、はい(^.^)
娘の名前なんですよ。聖なるお月様=でも平仮名でみづき→じゃあパパはその漢字バージョンでHNをってのが始まりでした。
そういえば体調崩していたのでは?用心してください。今後も仲良くしてください(^.^)
Commented by 劇団銅鑼 at 2006-02-02 20:04 x
こんにちは。
突然失礼します。
東京都板橋区に本拠地を置く劇団銅鑼と申します。
重松清原作「流星ワゴン」舞台化のご案内です。
あの映画監督・行定勲氏も先日池袋公演をご覧になり、絶賛しました!!
2月3日~2月5日相鉄本多劇場(横浜)・2月9日兵庫県立芸術文化センター中ホール(西宮)で上演します。
公演の詳細は劇団銅鑼HP
http://www.gekidandora.com
をご覧下さい。
昨年東京で初演、高い評価を受け、口コミでSOULD OUTを出せた作品です。
お近くでしたら、是非ご覧下さいませ。
よろしくお願いいたします。

劇団銅鑼 制作 田辺素子
〒174-0064 東京都板橋区中台1-1-4
TEL:03-3937-1101
FAX:03-3937-1103
URL http://www.gekidanora.com
e-mail gekidandora@pop12.odn.ne.jp


Commented by 聖月 at 2006-02-02 22:15 x
広告宣伝、全然構いませんよ。記事に関することだったら。
しかし、劇ではどんなんかなあ?
少し、想像が難しいですねえ。


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