2005年 03月 05日
これまで何回も書いてきたが、評者が今のように本の世界と付き合いだしたのは、5年ほど前からである。それ以前は、趣味:読書と履歴書に書くような人間ではあったが、どちらかというと純文学が文学であり小説であり本であり、ミステリーやハードボイルドを含む大衆小説をファッション的に好んでいなかった評者であり、趣味は読書といいながらも今読んでいる本が目の前に存在しない期間のほうが多かった、そんな似非本好きであったのである。要するに“新聞、何とってんの?ふ~ん、とってないの。え?日刊ゲンダイは毎日読んでるって?ふ~ん。僕は日経とってるぜ!”って自慢して、ほとんどその日経を読まずに過ごしている輩のようなものであった。だから、世の中でいうところの「面白い本の世界の地図」というものが、頭の中に存在しなかった評者なのである。 そういうことであるからして、5年前、ひょんなことから毎週BOOK-OFFを3箇所周るという習慣を始めた当初、お店に行くたんびに本書『私が殺した少女』の存在が気になりながらも、その意味するところがわからなかった評者なのである。つまり、どの店を訪れても10冊以上在庫が存在する『私が殺した少女』という本が、何ゆえにそんなに置いてあるのか全然わからなかったのである。よっぽど面白くないのに、よっぱど多くの人が買ったんだなあ、などと、真面目に思っていたのである。そして、そう遠からぬうちに「面白い本の世界の地図」の片鱗が見えてきた評者は、その現象の意味するところを理解し、奥付に1989年10月15日初版発行、1990年1月26日9版発行と書かれた馬鹿売れした本書を古書価格105円で仕入れたのである。そして5年間積読状態で眠らせていたのである。『さらば長き眠り』と抱き合わせで・・・シリーズ一作目の◎『そして夜は甦る』は生憎古書店に存在せず、図書館から借りたので返却期限が気になって読了したのだが、この2冊は買ってあればいつでも読めるという安心感のため、いつまでも読めないでいたのである。 本書は第102回直木賞受賞作品であり、このミス1989年版第一位の作品である。ということで、「直木賞-受賞作候補作一覧」を見ていこう。102回から直近の132回まで眺めてみよう。よくみればわかるように、ポッと出の作家では芥川賞と違い中々取れないのである。それをやってのけたのが、原りょうと第114回の藤原イオリンくらいのものである。これら二つの作品は、それだけ抜きん出ていたのである。無駄話を続けよう。眺めてもらえばわかるように、なんだかどうも可哀想なのが宇江佐真理である。何度も何度も候補に挙がって、そのたびに一升五合の自棄酒を飲む結果になっている。いや彼女が大酒飲みかは知らない。宮部みゆきだって苦労してるし、それ以外にも、何度か候補に挙げられながら、次第次第に遠ざかっていったような人も少なくない。このまま行くと、真保裕一も遠からず・・・。とにかく、本書はそれだけのものを持つ作品なのである。 で、そういう素晴らしいけれどいつまでも読めないでいた本を読む契機となったのが、昨年の『愚か者死すべし』の出版である。一作目から一気に五作目に飛ぶわけにもいかず、とりあえず一番の話題本だけは押さえようという魂胆である。 名作であった。『愚か者死すべし』を読もうと思うが『私が殺した少女』は未読よ♪と言う方は先にこちらを読むべし。古書店で105円出して。『愚か者死すべし』読んで面白かった(^O^)/でも『私が殺した少女』は未読よ♪と言う方もこちらを読むべし。〇『ロング・グッドバイ』矢作俊彦がハードボイルドで面白いらしいという噂を仕入れて、どうなのかしら?でも『私が殺した少女』は未読よ♪という方もこっちを先に読むべし。本書は正真正銘のハードボイルドである。やせ我慢探偵、へらずぐち探偵の姿に痺れる小説なのである。ハードボイルドというジャンルも侮るなかれ。下手に描写や展開だけに筆を費やした物語より、一言一句丁寧に描いたユーモア文体のなんと精緻なことよ。読みながら一語も疎かにするなかれ。 16年前の名作。読んだ人が多すぎて、古書店でもダブつくほどの粗筋を、誰が今から語ろうか。とにかく未読よ♪という幸せなあなた、あなたにこそこの言葉を捧げよう。 (20050305) ※文庫は1996/4ハヤカワ文庫JA714円。文中触れなかったシリーズ短編『天使たちの探偵』は少し後回し(書評No486) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-03-05 14:12
| 書評
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Comments(2)
Tracked
from ファミリー・アフェア
at 2005-05-07 17:58
タイトル : 原のピアノ
佐賀県は鳥栖市、JR鳥栖駅前から 線路沿いに10分ほど歩くと、 緑色の壁にジョン・コルトレーンの 顔が描かれた喫茶店がある。 店名は「コルトレーン・コルトレーン」。 「私が殺した少女」で直木賞を受賞した原氏の 兄が経営するジャズ喫茶である。 月に3回、店長をバンドリーダーとする 「ブルートレーンズ」が公開リハーサルを行い、 演奏を聴かせてくれる。 僕は5月5日に訪れた。 店内は10坪にも満たない広さ。 コルトレーンの写真が壁に掲げられ、 ジャズのレコードが所狭しと並ぶ。 8時の演奏開始まで待つ...... more
Tracked
from たりぃの読書三昧な日々
at 2005-10-05 22:19
Commented
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ぶひっっ
at 2005-03-05 18:44
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うーん、そんなに面白いのね…私も100円で買って、積んであるんです。読まなくちゃ。
↓わ、「間宮兄弟」借りるのね? 恩田陸も、もういい、とか言ってなかった? さすがに色々網羅していらっしゃる、という感じねぇ。私もマイペースで読みます☆
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やっぱねえ、やせ我慢ハードボイルドはいいよ~。
カッチョいいし。 ↓恩田陸はもういいんですが、周りの反響がどうも気になってねえ。聖月先生なんて呼んでくださる人もいるし、先生読んどかなきゃって。 初江國もねえ、なんか一応押さえみたいな。 だから、図書館なんて便利なものがあると、本命、押さえ、ダークホース読んじゃうんですねえ。 |
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