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「本のことども」by聖月

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2005年 03月 13日

◎◎「愚か者死すべし」 原りょう 早川書房 1680円 2004/11

◎◎「愚か者死すべし」 原りょう 早川書房 1680円 2004/11_b0037682_21142192.jpg 本の評価なんて至極個人的な見解であって、自分が評価を下したものを人がどう評価しようがそれはそれで全然気にならないのだが、その評価が出揃ってきてある程度の傾向を示すとき、たま~に傾向を生み出した背景ってものを考えてしまうことがある。

 たとえば △『アフターダーク』村上春樹。評者は(記録を見ると)2003/9/19に初めての村上春樹◎◎『海辺のカフカ』を読んで感動し、それ以降村上作品を読み重ねてきた。村上春樹のことどもとして一覧でまとめているが、どれも水準以上に楽しく読め、さすが村上春樹!と今ではお気に入りの作家である。ところが、昨年出た『アフターダーク』。これは評者には合わなかった。元々は文芸作品読みから出発した自分の読書遍歴の観点からしても、村上春樹らしさという個人的思い込みの観点からしても、やはり読んでいる最中に読書の楽しみというのを感じず、低い評価となったのである。でも、巷では、いやこれはこれで面白いとか、中々の深み、とか評価する声がある。それはそれでよい。それはそれでよいのだが、少し高評価の人が多すぎるんでないかい?あれが村上春樹の作品でなく聖月という無名な人物の作品だったら、ようするに作品単体として作者名もそれまでの作品も関係なく評価したとき、はたしてそんなに評価され得るものなのだろうか。いや、文芸寄りの作品だから評価するのは構わない。しかし、それなりに面白かったという人が意外に多い。多すぎる。何か単体の作品以外の部分で評価に影響がある気がしてならない評者なのである。いや、反論する気はないです、ないです。個人的な見解の総意がそういう傾向にあるだけの話だから。評者が少し腑に落ちないだけの話なだけ(^.^)・・・でも、多分これから村上春樹がまだまだ作品を発表し、評者のように今頃からその作品を読み出す読者が増えれば、この作品の評価の傾向はもっと下がってくると思うのだがなあ。

 で、本書『愚か者死すべし』。こちらも大体の評価が出揃った感があるが、こちらは逆にパッとしない評価のほうが多い。1989年に直木賞受賞の傑作◎◎『私が殺した少女』に印象が及ばないからだというのだろうか?それとも1990年に『天使たちの探偵』を発表したまま長い眠りにつき、1995年に 〇『さらば長き眠り』を発表して眠りから醒めた振りをして9年ぶりに本書を発表したことは、6時半に目覚ましかけて、7時にママに“早く起きなさ~い”と言われ起きず、7時半に“早く起きなさい!”と再度きつく言われ“わかってるって。もう起きてんだから!うるさいなあ、もう!”と言って、結局夕方の5時になるまで起きなかった、どっかのダラシナイ子供と一緒だと言うのか?(言わんて)。そいでもって待たせた割には待たせたほどの味じゃないねえ、このレストラン、と、あなたは一緒に待ってくれていた彼女にごまかしの意味も含めて言い訳がましく言うのか?この店を選んだのは自分なのに?(って、そういう話じゃないって)。
 
 これも、作品単体ではなく、作者や過去の作品やそのブランクが影響しての評価の傾向ではないだろうか。だって、読んでいて楽しかったもん。気の利いた会話、先の読めない展開、面白かったもん。まあ、ミステリーとしての落とし方という点ではカタルシスのようなものはないのだけど、読んでいて楽しけりゃ評者は高評価なのである。だって、欠点とかで評価するのなら、『私が殺した少女』の親子の愛なんてそんなもんじゃないだろ!と納得いかなかったもん。でも、傑作は傑作なのである。

 だから本書も作品単体で評価しなさいって。作品単体で評価したら、相当な出来映えである(実は理論構築上、致命的な瑕もあるのだが・・・)。作品単体の評価方法として例えれば、“この聖月っち本♪がすごい”というセレクションがあったとしよう。選考者は評者一人である。ぶち込む作品は、このミス2005年版の国内20位までの作品と本書だとする。そしたら、間違いなく本書が1位・・・になるかと思ってランクイン作品眺めたら、それはちょっと言い過ぎでした(^^ゞ◎◎『臨場』横山秀夫◎◎ 『グラスホッパー』伊坂幸太郎に次いで第3位だ!個人的見解として。それだけ、読ませる完成度の高い作品なのである。多分、巷の評価がイマイチなのは、ミステリーとしてのまとめ方が好きくないということなのだろうと思うが、それじゃあ別の見方をしよう。『臨場』と『グラスホッパー』を除いた20位ランクイン作品と本書を、著者名を伏せ、新人賞候補作品として評価したとしよう。そうすりゃ、完成度とか、プロットの練り方の周到さ、筆致、そういう総合評価で、本書はブッチギリの1位だと思う!個人的見解だがなあ。

 『愚か者死すべし』読んでみるべしなのである。素直に単体作品として楽しむべしなのである。まあ一番いいのは、この際だから、再読組を含めてデビュー作 ◎『そして夜は甦る』から一気に読むべしなのだが。(20050313)

※表紙カバーからもわかるように、本書は新シリーズの第1弾らしい。なんとかシリーズ全1巻という本の存在も知っているので、また間が空いたら、新・新シリーズ第1弾で出せばいいんだよね(^.^)(書評No494)

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by kotodomo | 2005-03-13 21:14 | 書評 | Trackback(6) | Comments(6)
Tracked from でこぽんの読書日記 at 2005-03-14 00:30
タイトル : [読書]愚か者死すべし/原〓
ISBN:4152086068:detail ★★★★★ 私立探偵・沢崎が登場するハードボイルド小説。 いやいやいや。皆さんが待っていたというのが分かりますね。 ほんと面白かったです。 しかしカッコイイですね、沢崎。それになんだか可愛いし。えっ?こんなこと言っちゃったらいけなかったのかしら。だって、慣れない携帯電話も憮然とした態度で扱っているし、ボロっちいブルーバードに乗り回しているところなんか妙に微笑ましいのですが。 だけど、なんてったって寡黙な探偵はカッコイイですよね。 これが沢崎ねというところを...... more
Tracked from Ciel Bleu at 2005-03-14 06:52
タイトル : 「愚か者死すべし」原りょう
 [amazon] [bk1] 本当は海外物が絶好調なんですが、そっちは一休み。原りょうさんがほぼ10年ぶりに新作を出して、今度サイン会があるとのことで、行ける...... more
Tracked from ほぼ日刊【冬ブログ】 at 2005-03-25 00:08
タイトル : 原 ?氏の生き方論
原 ?と言えば、『私が殺した少女』や『愚か者死すべし』などで知られ、「日本のチャンドラー」の異名をとるハードボイルド作家です。1946年佐賀県鳥栖市生まれ、元フリージャズのピアニストという経歴を持つ彼ですが、しばらく前に新聞のインタビューでこんなことを語っていました...... more
Tracked from いっちゃんの日々 at 2005-05-11 09:46
タイトル : 愚か者死すべし/原りょう
ISBN:4152086068:image 聖月さんは傑作と推し、某大手出版社に勤める編集者の友人はガッカリだと貶したこの作品。 はてさて、どうなのかな?と思いながら読み始めてみて。 ボクの感想は、悪くはない。悪くはないけど、ガッカリだ。ゴメンなさい、聖月さん、たてつくつもりではないのですが(^^; 気の利いた台詞やニヤリとさせられる比喩、タフでクールで渋い私立探偵に、錯綜したプロット、意外な真相と、必要なアイテムはそろってる。 なのに最後までノレない。こんなはずじゃあないよなあ。と...... more
Tracked from 三匹の迷える羊たち at 2005-08-03 10:07
タイトル : 読書感想「愚か者死すべし」
読書感想「愚か者死すべし」 愚か者死すべし 【はてなダイアリー】http://d.hatena.ne.jp/asin/4152086068 【評価】★★★ ... more
Tracked from たりぃの読書三昧な日々 at 2005-11-08 22:08
タイトル : 「愚か者死すべし」(原?著)
 今回は 「... more
Commented by でこぽん at 2005-03-13 22:22 x
これは、めちゃくちゃ面白かったです。もう直球ど真ん中でした。トラバしようとしたのですが、何故かできませんでした。(;;)
「アフターダーク」は面白いです。もう何回も言っていますが(笑)。もちろんカフカも好きです。
Commented by 聖月 at 2005-03-14 00:21 x
文章を舐めるように読む楽しさがある本でしたね。
これが『私が殺した少女』のときは一層、『さらば長き眠り』のときはなりを潜めていましたが、今回はほどほど。
『アフターダーク』ぼっけえよだきい本でしたばってんがくさ(笑)
Commented by 四季 at 2005-03-14 07:04 x
本は本来単体でも十分楽しめるべきなんでしょうけど、シリーズ物となるとやはりそれまで積み上げてきたものもあるから、難しいですよね。積み上げてきたからこそ高評価になることもあるし、逆に低評価になることもあるし。
まあ、やっぱり最初から再読というのが正解なんでしょうねー。この人の作品は再読に値するし。でもたとえばシリーズ10作目ともなったら、なかなか再読は難しいでしょうけど… これから毎年新作が出るっていうの、どのぐらい信憑性があると思います?(笑)
Commented by 聖月 at 2005-03-14 07:38 x
四季さん おはようございます
いやね、読みながら思ったのは、この本も文庫本1000円くらいで出して、ハヤカワJA文庫でBOX出してもよかったのかと。
文体は前作よりは丁寧に作られていますね(^.^)

巻末であれだけ本人が言ってるんですから、2作目くらいまではあるのでは(笑)
毎年出して欲しいんですが、レベルは落ちてほしくないですね。
Commented by 成程 at 2007-12-24 01:22 x
文庫化でようやく読んだんですが、確かに話自体も、原りょう節もとても面白かったんですが、唯一若者描写にリアリティが全然なかったのが残念、というのが私の感想です。(著者自体も「リアリティ」にこだわっているのに、です。)登場人物は若者も含め皆丁寧に描かれていると思いますが、伊吹啓子、ひきこもり、藤青年の3人ともが「いやいやいや」っていう言葉遣い、立ち振る舞いで、まあ60絡みの著者にそれを求めるな、といわれればそこまでですが。。。
Commented by 聖月 at 2007-12-24 06:52 x
成程さん こんにちは(^.^)

それはですねえ・・・750円も出して買ったからですよ(笑)
私は図書館で借りたもんだから、タダ。些事は気にならなかった。

というのは冗談で、人それぞれ気になるところはありますよね。
そんな反応しないよ!とか、そんな風に言わないよ!とか。

先日読んだ『虹の谷の五月』船戸与一も、語りかけるような少年の視点が気になった聖月様でした。全体、面白かったのですが。


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