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「本のことども」by聖月

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2005年 03月 20日

△「水晶のピラミッド」 島田荘司 講談社文庫 1020円 1991/10 

△「水晶のピラミッド」 島田荘司 講談社文庫 1020円 1991/10 _b0037682_2114273.jpg 評者が島田荘司に期待しているのは、『異邦の騎士』を超える物語性である。もしくは、それに近い紡ぎ話である。そうった意味では『魔神の遊戯』あたりが、ちょっとばっかし面白く感じたほうかな。そして、本書『水晶のピラミッド』には、読む前からそういう紡ぎ話にエライ期待していた評者なのである。大昔のエジプトを舞台にした物語と、タイタニックの船上を舞台にした物語と、そして現代を舞台にした殺人事件の物語が語られ、その三つの話が見事に収斂するという前知識で、メッチャ期待していたのである。別に大風呂敷が見事に収斂しなくても構わない。紡がれる話を、楽しみたいと思って読み始めたのだが…。

 また密室である。密室は嫌いである。評者は想像力がないので、密室の構造を考えたくないのである。『斜め屋敷の犯罪』のときにも似たような注文をつけた評者であるが、ピラミッドを模した建造物を建てる行為だけでもう殺人教唆の罪に問われるべきだし、ましてや密室の扉がゴムのパッキンで水が漏れないようにできていること自体が、すでに殺人準備罪の罪に問われるべきで、まったくもって設定自体がいけないのである。

 加えて、紡がれる話。大昔のエジプトの話と、あのタイタニックでの出来事が、いかにして現代の事件に収斂していくのかと関心を寄せながら読んでいくと…ほとんど収斂していかない。あまり関係がありませんでしたで終わってしまう。なんじゃ、こりゃ。

 説明に冗長で、途中10頁を2分くらいで読み飛ばしたりして、なんとか最後まで辿り着いた評者なのであった。仕方がないので付録をつけてお茶を濁そう。(20030924)


※付録随筆「冥利を感ずるときのことども」by聖月

最初に断っておくが、僕は自分の書いているものを書評と称している。本のことどもについて書いているわけなのだが、最終的に評価記号をつけているので書評だと思っている。それではそういう自分の存在自体はどういう立場かというと、書評家ではない。これで食ってるわけでもないし、管理人さんも原稿料を一銭もくれない。まあ、親サイト「じゃっど」の一執筆人としての立場が本来の姿ではあるので、自分では自分の立場を書評子と評している。あくまでも黒子としての書評コラム。そう、僕は書評子なのである。

最近、二つの出来事があって、書評子冥利に尽きますねえと、僕は他人に言われてしまう。ひとつはブックジャングルという実在の本屋さんに、「本のことども」コーナーというものが出来たことについて。僕にとっては滅茶苦茶嬉しいことなのだけど、書評子冥利という言葉はピンとこない。評価、評判の帰結ではないから。冊数を積み重ねた自分の努力の結果ではあるのだが、書店から評判を聞きつけてきたわけではなく、管理人さんという自分の分身がこちらからアイディア出した結果だから。電脳空間に書評サイトを持っている人が近くの本屋に働きかければ、1%以上の確率で実現するような、高い確率の話だと思っている。

もうひとつの出来事は、『都立水商!』『ドスコイ警備保障』の室積光氏と飲食をともに出来たこと。管理人さんと室積氏の3人でモツ鍋つついて、本の話、小説の話、劇の話、ドラマの話、映画の話、スポーツの話etc。その後2次会では、室積光氏の別の面:本名=芸名福田勝洋氏率いる劇団「東京地下鉄劇場」の若き団員の方々に紹介されて、洒落たバーで歓談。これはね、これは書評子冥利に尽きるのである。『都立水商!』が発売された当時、僕が書いた書評に著者の室積光氏が感ずるものがあってメールを寄越してくれたことから築いてきた関係の帰結なのである。僕は、毎回面倒だなあなんて思いながらも、書評を書いている。誰が見るのか知らないけど、自分で決めたこと、管理人さんが喜んでくれればと、書き出す。書き出すと、適当にノッテくるので、まあ書いている途中は頭を働かせている。そういった自分の脳みその汗が書評というかたちになる。まあ、適当に書いていることも多いのだけど。でも、でも、そうやって書いたものが著者の目にとまり、紹介してくれてありがとう、今度会いましょう、飲みましょうっていうことになるのは、これは本当に書評子冥利なのである。電脳空間に書評サイトを持っている人が、いくら頑張って書評を紹介しても、まず一生かかってもそんなことは起こらないような、非常にゼロに近い低い確率の話だと思っている。

そうそう、室積氏は飲まない人だった。僕がいい気になってガンガン飲む前で、ニコニコしながら表情豊かに喋っていた。そうそう、劇団の方たちは、見た感じ二十歳そこそこの若人。まだ、これから大きくなるために、努力と運の世界を生き抜いていく若人。彼らの将来に幸あれかしと思う僕もそれなりにトシ食ったのかな。

楽しんで、堪能して家へ帰りつく。妻がテレビをつけっぱなしで茶の間で寝入っている。わざわざ起きなくてもいいのに、"お帰り"の一言を言うために目を開けようととする妻。"おかえり、作家の人とは無事会えた?""うん、会えたよ""楽しかった?""うん、楽しかったよ""よかったね♪おやすみ"と言って眠りの世界へ再び潜り込んでいった妻を置いたまま2階の自分の部屋に向かいながら、"こういう会話って、人生の冥利なのかもね"と思った僕のカレンダーは2003年9月25日。

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by kotodomo | 2005-03-20 21:02 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from 月のブログ at 2007-10-08 09:05
タイトル : 『水晶のピラミッド』
水晶のピラミッド (講談社文庫) ネタバレアリ。 島田荘司。 レオナも登場。 御手洗が調子悪いながらも解決に乗り出す。 前半は読者を惑わすための物語。 古代エジプトで考えられていた冥府の使者アヌビスをちら... more


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