2005年 03月 25日
本の話題で最近“へえ、そうなんだ”と感じたニュース。『世界の中心で、愛をさけぶ』が200万部を超えた話。いやそれ自体は不思議ではない。きっとみんな、F1レーサーの片山右京が書いたのだと勘違いして、読書好きとF1好きと片山右京モデルの自転車の所持人とかが間違って買っちゃった上、元来の片山恭一ファンが買ってしまったのだから、これ当然至極のことなのである。 “へえ”と思ったのは、過去に200万部超えた国内小説が二作品しかないということ。最初が『日本沈没』で、そしてそれを上回ったのが村上春樹の『ノルウェイの森』だという。評者は最近になっての村上春樹読みなので、そんなに売れていたとは知らなかったのである。しかし、評者も『ノルウェイの森』◎◎と評価はしたが、金字塔に相応しい作品は他にありそうな気もするのだが。まあ、よい。金字塔も、もうじき世代交代するわけだから。え?片山恭一が『ノルウェイの森』を抜くのかって?ちゃいます、ちゃいます。ほら、片山恭一の後ろを、ヒタヒタと走ってくるランナーが…そう『蹴りたい背中』綿矢りさ姫。でも、この作品も金字塔に相応しいかといえば、そうじゃないと思うのだけどさ。 ネットの色んなとこ覗くと、本書『ねじまき鳥クロニクル』もだいぶ読まれて売れたようである。今でこそ文庫になっているが、評者が読んだのは勿論図書館から借りた単行本のほうで、データ的にいうと『ねじまき鳥クロニクル第1部泥棒かささぎ編』が1600円で『ねじまき鳥クロニクル第2部予言する鳥編』が1800円で1994/4発売、そして一年少し経って『ねじまき鳥クロニクル第3部鳥刺し男編』が2100円で1995/8発売されたわけで、またまた村上春樹はもうかってしまったわけである。ああ、村上春樹になりたい。いや、綿矢りさ姫の不倫相手にもなりたい(笑)。いや、待て。村上春樹と綿矢りさ姫が結婚したりしちゃったりして…二人の印税だけで日本国が買えそうな…。 馬鹿な話はさておいて、小さい頃、評者は我が家のねじまき係であった。本当は婆ちゃんがねじまき係だったのだが、婆ちゃんからのご指名に預かり評者が「二代目ねじまき鳥」を襲名したわけである。柱時計のねじまき係。2箇所ねじ穴があって、2箇所ギリギリねじを巻いていた。それぞれのねじ穴が、どういう働きのゼンマイに連動しているのかよくわからないまま巻いていた評者なのである。ギリギリ、ギリギリ。もしかしたら、あのねじ穴の片方は、我が家のねじだったのかも知れない。我が家が止まってしまわないように、ああやってねじを巻く装置が柱時計の中に隠されていたのかもしれない。 さて、本書である。村上春樹の長編を全部読もうと決めて、少しずつ制覇してきて、最後にはこれを読むんだととっておいた大長編である。各所で評判がよい。しかし、評者には期待はずれ。村上春樹にしては、少し冗長に過ぎて、加えて脈絡が希薄過ぎるのである。ついでに希望を言わせてもらえば、村上春樹の作品の中で評者が好きなパターンは、主人公が冒険に出るパターンである。ところが、この主人公、井戸の穴の底にもぐったまま全然冒険しない。いなくなった猫が帰ってくるのだが、なぜ帰ってきたのかよくわからない。家を出て行った奥さんもよくわからんし、その他の登場人物もよくわからない。 いや、元々こういうのが村上春樹作品の特徴であり、評者の好きなところでもある。ただ、今回は全部で1000頁と長々と読ませる割には、締まるべき要所に欠けているように感じたのである。読みが浅かったのかもしれない。多分、人によっては大傑作なのかもしれない。でも、冒険のない村上作品は、評者にとっては羊のいない羊牧場のようなものなのである。(20040422) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-03-25 12:54
| 書評
|
Trackback(7)
|
Comments(0)
Tracked
from 読んだモノの感想をわりと..
at 2005-06-05 23:39
タイトル : ねじまき鳥クロニクル (村上春樹)
3部全体を俯瞰すると完成度の低さは否めませんが、非凡で強烈な力作であり、ことに創意とチャレンジ精神に溢れた第3部には並々ならぬものを感じます。 《チグハグな部分》 完成度の低さを感じさせる最たるものは第1部+第2部と第3部のチグハグさ。内容的に齟齬があるし、スタイルの面でも大きな隔たりがあります。 私見では、第1部+第2部の執筆の段階で第3部のアウトラインは固まっていたものの、いざ第3部に着手してみると大幅に変更が加わったように見えます。 たとえば第1部+第2部で活躍した加納姉妹は第3...... more
Tracked
from make myself ..
at 2005-07-06 02:06
タイトル : 村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」三部作
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」(新潮文庫) 〈第1部〉泥棒かささぎ編・〈第2部〉予言する鳥編・〈第3部〉鳥刺し男編 本は読んだ人の数だけ異なった感想がある。同じ本を読んでも相反する意見、解釈、感慨を抱くことはままあるだろうし、それらが果たして作者の意図どおりであるか、そうでないかもあまり重要ではない。読者が本を通して対峙するのは、作者ではなく読者本人である。本の中の登場人物の息遣いは、そこに投影した自己の息遣いである。 私は「ねじまき鳥クロニクル」三部作が村上春樹の長編小説の最高傑作で...... more
Tracked
from 本を読む女。改訂版
at 2005-07-06 09:04
タイトル : 「ねじまき鳥クロニクル」村上春樹
ねじまき鳥クロニクル 第1部村上 春樹〔著〕 ねじまき鳥クロニクル 第2部村上 春樹〔著〕 ねじまき鳥クロニクル 第3部村上 春樹〔著〕 1年くらい前に書いた感想ですが何書いてるのかわかりません。 村上春樹氏の本は大好きですが感想がうまく書けないというジレンマに いつも苦しみます。どう表現していいかわからないんですよねー まあそんなんでよければ続きを読んでください。 ... more
Tracked
from a fruit knif..
at 2005-11-13 20:55
タイトル : ねじまき鳥クロニクル 村上春樹
村上春樹を検索すると随分とマニアックなホームページに辿り着きますね。少し前にというか結構前に『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメがありまして、これもマニアックな、つまりは日本語にすると狂っているホームページに辿り着いたなぁ。なんてことを思い出します。まあ『エヴァ』を出すなら村上龍だろ!というツッコミは置いときまして、この作品はその某アニメに負けず劣らず謎だらけなわけで、そこの謎という文字を大きくしたいくらいなんですが、『エヴァ』ほどあからさまに解けないとわかる謎ではないにしろやっぱりどうせ解くのは...... more
Tracked
from カミノコドモタチハミナオドル
at 2005-12-13 19:00
タイトル : ねじまき鳥クロニクル
わたしたち、10分間あれば、わかりあえるわね?と彼女は言った。 僕の家から、まず猫が消えた。そして妻のクミコも姿を消した。一人きりになった僕の家に奇妙な電話がかかるたび、平... more
Tracked
from のほほんの本
at 2006-12-07 23:00
タイトル : ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編
村上春樹『ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編』(新潮社 1997) 評価:★★★☆☆ ねじまき鳥ラスト! 長かった…。 しかも1部2部とはがらりと書き方をかえてきて、時間も行き来するから慣れるまでに時間がかかり、読むのにも時間がかかり苦労しました。 ....... more
Tracked
from "やぎっちょ"のベストブ..
at 2008-04-15 15:46
タイトル : ねじまき鳥クロニクル 村上春樹
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 ■やぎっちょ読書感想文 長かった。長い旅が今終わりました。いやいや長かった。。。 なんだか最後勢いでほとんど徹夜して読んだら、...... more |
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||