2006年 03月 18日
おまけに、短編集である本書に収められている5つの短篇の題名たちは『日曜日のエレベーター』『日曜日の被害者』『日曜日の新郎たち』『日曜日の運勢』ときて、最後に『日曜日たち』と括るような題名がきているので、何故かワクワク度が増した評者なのである。 『日曜日のエレベーター』毎週日曜日に集合住宅のエレベーターに乗って、ゴミを出しに階下まで降りる若い男。そういえば、こうやって毎週日曜にゴミを出す習慣は、あの彼女と付き合いだしてから始まった習慣だなあと思いを馳せる。短編集の初っ端を飾る作品としてはなかなかの出来映え、というより相当に秀逸。文学としての感性も、物語としての面白さも、評者の内面に溶け込んでいく。 『日曜日の被害者』二作目の作品に触れて初めてわかる、ああこれって主人公も違うし設定も違うし連作短編集ではないんだな、と。多分、日曜日というモチーフだけで繋がっている作品の短編集なんだな、と。 『日曜日の新郎たち』そうそう、日曜日と言えば結婚式。当然新郎なんて材料もマッチしてるよなあ、なんて思って読み始めて、途中で気付く、アレレ。アレレのレ。三作目でやっと気付いた評者。これって連作短編集なんだ!!!一見、なんの関連性もないように見えた先の2編が一気に深味を増すこの手法を見よ!そして四作目、五作目へと興味を抱かせる、こんな材料の扱いに瞠目せよ!ってな感じ。なぜ、三作目で連作短編だと気付くのか、なぜ途中まで気付かなかったのか、その趣向については読んでのお楽しみ。是非、読んでみるべし。そして、気付いてみるべし。評者と感性が違って、これはやっぱり連作じゃないと感じた方にはゴメン。 『日曜日の運勢』この話の完成度は高い。っていうか、この話めっちゃ面白い。つきあっている女に引きずられやすいタイプの男の物語。小説の中で情けない男が、情けない女に"一緒に逃げて"と言われて逃避行する話を、あなたは"馬鹿だなあ"と一笑に付することが出来るだろうか。若き日々のことを、よく思い出してみてほしい。なんとなく付き合っていて、肉体関係はあって、そんな彼女に"結婚"のことを何気に訊かれ、本当はそんなことあまり考えていなかったのに、もしくは全然考えていなかったのに、単に今の関係を壊さないためだけに、俺、言っちゃうんだろうなあ、でも言ったらあとでマズイよなあ、なんて心の葛藤を胸に仕舞いこみ、"うん、少しは真面目に考えているぜ"と前向きな発言をしたことが、あなたにはございませんでしょうか?は?どうだい?直接そういう設定ではなくても、なんか似たような経験をお持ちなんじゃないのかな? そして『日曜日たち』で、連作の幕が降ろされる。パチパチパチ。 吉田修一は芥川受賞作品の『パークライフ』や『パレード』を借りてきたことがあるのだけれど、実際に読んだのは本書が初めて。風評から察すると、今あげた二作は多分芥川賞的な文芸よりの作風だと思うのだが、本書はどちらかというと直木賞よりの作風。短編であることは別としても、その物語性というものは多くの読者の頁を繰る手を止めさせないことだろう。趣向的な興味の部分も含め、あなたの初吉田修一に本書『日曜日たち』をお薦めする。 いいなあ、複数形。「本のこと」っていうサイト名より、やっぱ「本のことども」だよなあ。複数形はワクワクするなあ(^o^)。(国語辞典によれば:~ども①多数であることをあらわす、相手に敬意をあらわさない表現「野郎ども、やっちまえ」②一人称代名詞に付いて、へりくだった気持ちをあらわす「手前どもでは」) (20031130) 2006/3 文庫化470円 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2006-03-18 11:10
| 書評
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Comments(5)
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from ヾ(=ΘΘ=)ノ日記
at 2005-04-17 09:41
タイトル : [本]吉田修一『日曜日たち』
ISBN:4062120046:image 複数形のタイトルがすてきな『日曜日たち』、洒落たスタイルの連作短編集。角田光代を読んだ直後なので、男が書く女と女が書く女の違いというものに目がいきがちで、初めのうちはそこらへんのギャップに戸惑い。 <日曜日のエレベーター><日曜日の被害者たち>までは、ひきずっていて入り込めず。でも<日曜日の新郎たち>あたりから、この話に漂う空気みたいなものに視点が移っていけた。九州からやってきた父親と次男との、ぎこちないけど温かいやりとりにちょいとホロリ。<日曜日の運勢>を...... more
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from 書庫 〜30代、女の本棚〜
at 2005-06-23 01:28
タイトル : 日曜日たち / 吉田修一
芥川賞、山本周五郎賞を受賞し、最近では原作とは全く違う内容になってしまったがドラマ化された『東京湾景』の作者の〞日曜日〟をテーマにした短編集である。 東京で暮らす人間の様々な〞日曜日〟が5つ収録されている。 表題作の『日曜日たち』は、親に反対されながらも上京した乃里子が主人公だ。 仕事を転々としながら15年東京に居る乃里子の引越から物語りははじまる。 10年余り住んだそのアパートを去るには、理由があった。 それは、昨今珍しがられなくなったDVである。 普通に出逢って恋をして、...... more
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from 作家志望の日々
at 2005-06-25 09:16
タイトル : 日曜日たち 吉田修一(講談社)
東京で暮らす何人かの人々が主人公になった短編集。 いくつかの短編に共通するのが、兄弟の存在というのが意外な設定だった。 兄と弟は母親の住所を頼りに九州から東京に上京する。主人公たちはその子たちにタコ焼きをかってやったり、新幹線の中で出会ったりする人たちで、決して幸福とはいえない暮らしを送っている。 やっぱり吉田さんは物語の作りがうまくて、飽きない。この短編集はドラマチックな展開がなく、現実にありそうな話を淡々と書いている。 一番好きなのはと訊かれると返事ができないし、どの主人公も共感で...... more
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from 活字中毒日記!
at 2005-06-30 23:53
タイトル : 『日曜日たち』 吉田修一 (講談社)
日曜日たちposted with 簡単リンクくん at 2005. 6.28吉田 修一講談社 (2003.8)通常2〜3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る 【TB用にアップしました。読了日2003年10月19日】 吉田修一の小説に東京はよく似合う。 彼の描写は意外と鋭い。ちょっと引用しますね。 読み終わりだった小説は、四十代の男性作家が書いた恋愛小説で、面白いというよりも、どうして主人公の女性がこんな自意識過剰な男に惚れるのかが気になって、ついつい読み続けていた...... more
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from とんとん・にっき
at 2006-05-08 19:48
タイトル : 吉田修一の「日曜日たち」を読む!
以下は、先日「パレード」を読んだときに書いた記事の書き出しの部分です。久しぶりに吉田修一の作品を読みました。第15回山本周五郎賞を受賞した「パレード」という初期の作品です。彼の作品は今までに、第127回芥川賞を受賞した「パーク・ライフ」や、「東京湾景」、「ラン... more
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from ぶっき Library...
at 2006-10-15 13:47
タイトル : 日曜日たち (吉田修一)
この人の本を読むのは、『パークライフ』『東京湾景』に続いて3冊目。 どれも、繊細な演出と簡潔で乾いた語り口が共通していて、似た空気を放っているけど、作者のスタンスが少しずつ違う。 芥川賞受賞作『パークライフ』は... more
吉田修一の「日曜日たち」を読む!
いい作品だと思いました。 トラックバックさせていただきます。 よろしくお願いします。
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吉田修一の「日曜日たち」を読む!いい作品でした。トラックバックさせていただきます。よろしくお願いします。
tonton3さん こんばんは(^.^)
2発コメントありがとうございます。 しかし、この作品の吉田修一まとまっています。 素敵なまとまり方だと思います。 あまりにも素敵だったので、非常に真面目に書評書いたのは昨日の日曜のように(^.^)
わたしは3冊しか読んでないから、なんとも言えませんが、たしかに吉田修一入門としては良さそうですね。
乃太郎さん こんにちは(^_^)
この書評は、私が珍しく書評を意識して書いた書評なのです。 まあ、単に気分でそうしたのですが。 『長崎乱楽坂』は好きな作品でしたよ。こんなのも書くんだみたいなクラシカル小説。 |
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