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「本のことども」by聖月

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2005年 04月 02日

◎◎「グラスホッパー」 伊坂幸太郎 角川書店 1575円 2004/7

◎◎「グラスホッパー」 伊坂幸太郎 角川書店 1575円 2004/7_b0037682_11161653.jpg お盆休みで、鹿児島に約6日間帰省した評者なのである。空港には嫁さんと下の娘がお迎え。車に乗り込んで積もり積もった話をしていると、小学1年生の下の娘が"パパって馬耳東風じゃん♪"と突然言い出す。なんにゃ?と思っていると、嫁さんが"いや、今お姉ちゃんが四字熟語とか慣用句とか一生懸命覚えているんだけど、その横で自然と覚えちゃった言葉があるみたい。使い方、全然しらないんだけど(笑)"仕方がないので"じゃあ、まーぼーどうふー!"とか"たまごどーふー"とか、言ってみるパパ評者。わけわかんないけど"なにそれえ♪"と笑う娘。そういうおかしみ。

 家へ着くと、4年生の上の娘は勉強中。"今、四字熟語とか覚えているんだって。じゃあ、パパから問題だよ"と言って、易しい問題から、難しい問題までを適当に出してみる。答えられたり、答えられなかったり。いや、どういうレベルまで覚えさせられているのかなと思っての、親としての確認の意味で。さすがに、臥薪嘗胆とか呉越同舟とか、漢語に由来するものまでは習っていない。最後には評者もネタが尽きて"じゃあ、新しい四字熟語教えてあげよう。修学旅行!便所掃除(笑)"。娘"それって四文字の漢字ってだけでしょう。熟語としての意味はないでしょ♪""じゃあ、意味を教えてあげよう。修学旅行とは、毎年恒例だけど形骸化していて、実際の目的も本来の意味を離れて行われている行事をいい、便所掃除とは、外面的には嫌われる作業も、実際やってみると心が洗われる作業を言うのだよ""パパって、変なの♪"そういうおかしな会話が好きなので、今回の本書『グラスホッパー』に散りばめられた伊坂流伊坂節がすこぶる楽しかった評者なのである。

 だが、伊坂流伊坂節は、実は上の例と違ってもっと婉曲的なのである。例えば直截的な例をあげると、あなたが用向きがあって会社の上司の家を初めて訪問するとしよう。団地の地図を見ながら訪ねて行くと、おおこの辺だ、おお表札だ!で、上司の家を発見。そういえば上司の家庭の様子なんて今まで考えたこともなかったあなたは、その家の門から中の様子を伺う。洗濯物には、男物のYシャツもあるが、女物の衣類も。庭には三輪車。なんと!自分の上司は女装趣味があって、三輪車にまたがる幼児趣味まであるのか!!と思うあなたは、大バカ者でおかしいやつである。ところが、伊坂流伊坂節だと、こういうおバカでおかしい話も直截的には書かないから味がある。これ以上説明がつかないので読んでみるべしなのだが、会話のすれ違い(問答になっていない会話。質問に答えが返っていない会話)で表現するものだから、伊坂流伊坂節の大好きな評者にはたまらないのである。『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』では見られたこの伊坂流伊坂節が、『アヒルと鴨のコインロッカー』『チルドレン』ではなりを潜めていたので、その復活に嬉しい限りの評者なのである。

 まだある、伊坂流伊坂節。"リョコウバト"とか"喋る案山子"とか、他の作品への文中何気ない言及が、これまた伊坂ファンには嬉しい限り。

 まだまだある伊坂流伊坂節。『オーデュボンの祈り』の中で、不思議な島に失われていたものが明らかになったとき"なんだ、途中に答えが出ていたじゃん。気付かなかったけど、面白いじゃん、こんなの"と思った評者。今回もそれがある。途中である登場人物の素性に触れているようなヒントが何回も出てくるのに、最後まで気付かせない。これを読んだからと言ってもあなたも気付かない。そんな隠しプレゼントがあるのだよ。

 内容は簡単に言えば殺し屋たちの物語。ナイフ専門の殺し屋、自殺に追い込む特技のある殺し屋、押し屋と呼ばれる突き飛ばし専門の殺し屋、三者三様の殺し屋の、最初は別々の話から、中盤は巧妙に絡まっていく伊坂流伊坂節ワールド。読むべし、読むべし、べし、べし、べしの面白小説なのである。批判は承知、評者にとっては今年一押しの作品なのだ。

 グラスホッパー。読み終えて、その意味を辞書でひいてみた。ばった、きりぎりす、いなごのこと。あの後ろ足がジャンプのために発達した昆虫たちなのである。グラス(芝や草)をホップするからなんだろうけど、評者の東京事務所の女性は"あっ!グラスホッパーって知ってます。カクテルの本ですか?"そういう緑色のカクテルもあるらしい。(20040809)

※ネット書店で購入。最近ネットで購入するときは、事務所の女性のカードで決済、会社に到着のパターンが多い。なんでも彼女、それでポイントが貯まるのだそうで。本を買うのも人助けなのである。

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by kotodomo | 2005-04-02 11:17 | 書評 | Trackback(13) | Comments(8)
Tracked from 活字中毒日記! at 2005-04-04 01:40
タイトル : 第2回新刊グランプリ!グランプリ発表!
少し遅れましたが、第2回新刊グランプリの最終ランキング発表を致します。 加点前ランキングはこちら 第1位 『幸福な食卓』 瀬尾まいこ 380点(165,8,4,1) 第2位 『夜のピクニック』 恩田陸 379点(125,5,3,4) 第3位 『天国はまだ遠く』 瀬尾まいこ 343点(65,1,4,2) 第4位 『グラスホッパー』 伊坂幸太郎 264点(45,2,1,1) 第5位 『明日の記憶』 荻原浩 239点(75,4,1,1) 第6位 『犯人に告ぐ』 雫井脩介 202点(25,0...... more
Tracked from +ChiekoaLibr.. at 2005-05-29 18:36
タイトル : [伊坂幸太郎] グラスホッパー
ISBN:4048735470:detail 妻を殺された復讐をするため「非合法的」な会社に契約社員として入社した「鈴木」。相手を殺すのではなく自殺させる、自殺屋「鯨」。上司にこきつかわれ、不満たらたらの殺し屋「蝉」。そして交通事故に見せかけて人を殺す「押し屋」。まったく関係ないはずだった彼らの思惑が交錯したとき…。 正直、読み始めたときは、あれよあれよという感じですごい描写(!)が次から次へと展開されるのに翻弄され、読むのが苦しかったです。えー、なんかいつもの伊坂さんと違う…と思ったりもしてしま...... more
Tracked from アン・バランス・ダイアリー at 2005-08-04 21:49
タイトル : 『グラスホッパー』 伊坂幸太郎 角川書店
グラスホッパー 『どんな動物でも密集していけば、種類が変わっていく。黒くなり、慌ただしくなり、凶暴になる。気づけば飛びバッタ、だ』 殺し屋が主人公の話と聞いて、ちょっと敬遠していたのですが、なかなか面白かったです。ご本人もおっしゃていますが、今までの作... more
Tracked from 今日何読んだ?どうだった?? at 2005-08-07 22:40
タイトル : 「グラスホッパー」 伊坂幸太郎
グラスホッパー伊坂幸太郎著出版社 角川書店発売日 200407下旬価格  ¥ 1,575(¥ 1,500)ISBN  4048735470bk1で詳しく見る ... more
Tracked from 時計仕掛けのオレ BY .. at 2005-12-10 20:55
タイトル : グラスホッパー ~伊坂幸太郎~
雪だぁ雪だぁ大雪だよぉ今日も朝寝坊して大幅に予定が狂ってしまった目覚まし何個かければおきれるんだろうなぁそんで今日は図書館で予約してずっと待ってた作品「グラスホッパー」を読んだこれで伊坂作品は残りは新作「砂漠」のみもう購入してて読みたくて読みたくてウズウズグラスホッパー(バッタって意味)は妻の仇を討とうある会社に潜入した鈴木依頼された人を自殺においこみ殺す鯨ナイフの使い手殺し屋蝉の3人の視点で進んでいく物語殺し屋は殺し屋でも殺し方がいろいろとユニークだ鯨は人を自殺へと追い込んで殺すしなかには押し屋とい...... more
Tracked from Grave of mem.. at 2006-01-15 01:19
タイトル : 伊坂 幸太郎の「グラスホッパー」読了
グラスホッパー 伊坂 幸太郎 著 「グラスホッパー」 ★★★ 復讐。功名心。過去の清算。それぞれの思いを抱え,男たちは走る。3人の思いが交錯したとき,運命は大きく動き始める…。クールでファニーな殺し屋たちが奏でる狂想曲。書き下ろし長編。 星5つ級の大傑...... more
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2006-12-09 23:35
タイトル : グラスホッパー 伊坂幸太郎
グラスホッパー ■やぎっちょ書評 時間の合間、というかとりあえず昨日申し込みされた「ほんぶろ」登録だけは終わらせて読書。12月に入って買った本がどんどん届いて積載本は文字通り積まれ載る一方。 ということで「ほんぶろ」では「この作家さんが得意」で一番人気の伊....... more
Tracked from ミステリー倶楽部 at 2007-02-23 07:22
タイトル : グラスホッパー |伊坂 幸太郎
直前に偶然にも、村上春樹の『羊をめぐる冒険』を読んでいた。 あまり読書家ではないので、 上記の作品も、村上春樹作品も初心者だ。 ネットの書評などで、 村上春樹的だと語られているのも読んだ。 確かに、この作品を読んでみると、 「村上春樹的」だな、と思う面もある。 ... more
Tracked from 本を読もう at 2007-03-27 19:40
タイトル : グラスホッパー
私はこの小説を読んで初めて劇団と言う働き口があるんだ、と思いました。 最初はピンとこなかったですが読んでる内に面白く感じて読んだあとの興奮は収まり来ませんでした。 全ての符号と言うか常に荒がないようなストーリーテリングには脱帽しました。 きちんと大円団で終わっている小説でした。 文体の小さい文字の読みにくさが少しあります。 しかし、一旦嵌るとこの作家の本はどんどん読んで ... more
Tracked from slow match at 2008-01-11 02:24
タイトル : グラスホッパー
グラスホッパー 伊坂幸太郎著 妻を殺した男に復讐を目論む鈴木。 その復讐すべき男、寺原長男が目の前で車に轢かれる所を目撃した鈴木は、それが誰かに押されたのだと気付く。 そして『押し屋』の尾行を開皿..... more
Tracked from しんちゃんの買い物帳 at 2008-05-11 12:31
タイトル : 「グラスホッパー」伊坂幸太郎
グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)(2007/06)伊坂 幸太郎商品詳細を見る 鈴木は教師という職業を捨て、怪しげな〝令嬢〝に勤め、何らかの薬物ではないかと思いながらも、一ヶ月もの間それを女性に売り続けたのは...... more
Tracked from 自由の森学園図書館の本棚 at 2009-01-22 22:15
タイトル : 読書メモ『グラスホッパー』
今日は、伊坂幸太郎『グラスホッパー』を読みました。 面白い、と聞いていたのになかなか見つからなかったのですが、やっと読めました。 『グラスホッパー』、なかなか面白かったです。 殺し屋たちのストーリーです。 いやぁ伊坂幸太郎の文体は凄いなぁと思います。とんとんとんと進んでいく。ラストのシーンがとても印象的でした。 ただし、『アヒルと鴨のコインロッカー』のほうがもう少しひねりがあって、落ちは面白かったかもなぁ。 今日読んだ本 伊坂幸太郎『グラスホッパー』 今読んで...... more
Tracked from 笑う学生の生活 at 2011-02-06 22:22
タイトル : 軽妙な殺し屋物語
小説「グラスホッパー」を読みました。 著者は 伊坂 幸太郎 殺し屋たちの追いかけっこ 伊坂ワールドなエンタメな作品 「グラスホッパー」はマンガ版で読んだことありましたが やはり 映像的だなぁと テンポよく 進んでいて飽きませんね まさに スピーディーに こんな...... more
Commented by ザ・ワールド at 2005-12-10 20:58 x
これ読んだらいろんなこと考えてしまった
なんかちょっと最近深く考えすぎて方向まちがってるきがするなぁ
でもこの作品とてもよかったですね
ほんと伊坂節大爆発って感じっすよね
Commented by 聖月 at 2005-12-11 07:40 x
伊坂作品、あんまり色々考えないほうがいいかも(笑)
浮遊感を感じるっていいますか。
この作品も読ませましたね。
でも一番好きだったのは、お約束がちゃんとあったこと。
読み過ごしていた部分に意味があったあみたいな。
ネタバレもなんなんで、なんか蜂みたいな(笑)
こういう伊坂が好きですね。
Commented by ザ・ワールド at 2005-12-12 23:21 x
お約束ありましたねぇ。
やっぱ伊坂の一番の魅力はそこですかね!
もっと純粋に楽しもう。
いま「砂漠」に挑んでます。
Commented by 聖月(^^ゞ at 2005-12-13 09:50 x
こういうお約束、嬉しいですよね。
ちなみに私がこだわっているのは、伊坂には節がないということで・・・
私は、伊坂流伊坂節という呼び名を命名しております。
お約束も、伊坂流伊坂節?
Commented by シリウス at 2006-01-15 03:46 x
こんばんわ。
他の作品との関連がでてくるは嬉しいですよね。
やっぱり「神様のレシピ」って言葉がでてきたときは,ニヤリとしました。
でも,この本を単作として考えると,なんかダメでした…。アレレ?って感じです。
Commented by 聖月 at 2006-01-15 08:56 x
シリウスさん おはござです(^.^)
他の作品への言及があると、伊坂作品、追っててよかった、楽しい、そんな感じになりますね。
この人の作品は、一冊ずつ研究しても面白そう(^.^)
私は、単作としてもいけましたよ。
私がいけなかった作品は、チルドレンとアヒル。なんか、パワーがないよなあ、みたいな(^.^)
Commented by しんちゃん at 2008-05-11 12:34 x
こんにちは。
なんやめっちゃ派手なテンプレになっていたので、間違えたかと思いました。
こういうスタイリッシュな悪漢小説もいいですよね。
Commented by 聖月 at 2008-05-12 08:42 x
しんちゃんさん こんにちは(^.^)

はい、派手っていうより、オイシソウがコンセプトで・・・
一時的なもので、アップが快調になってきたら、戻そうと思っています。

本書・・・ハチが印象的でしたね(^.^)


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