2005年 04月 08日

◎◎「パンク侍、斬られて候」 町田康 マガジンハウス 1680円 2004/3

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 多分、本書『パンク侍、斬られて候』は、町田康の集大成作品と呼んでもおかしくないだろう。過去、『夫婦茶碗』や『耳そぎ饅頭』といった、評者がいたく痛快に読した傑作たちを他人にお薦めしたところ、共感者が半分、何が面白いのって感性の輩が半分だったのだが、この本なら間違いなし。万人向け、超面白娯楽作の誕生である。

 内容は、なんじゃこりゃ!である。評者は本書の紹介を新聞の記事で知ることとなったが、粗筋が書いてあるのみで、その面白さは伝わってこなかった。大体で言うと“江戸時代、腹ふり党という奇妙な集団が出現。この集団、この世は本来の世界でなく、今あるこの世は条虫の腹の中に存在すると主張する。この条虫の外に本当の世界があって、そこに行くためには条虫が嫌がる腹ふりの踊りを歌舞し、糞となって排出されることなり、と考えているのである”みたいな設定の話だったか。そんなのどうでもよい。題名の『パンク侍、斬られて候』なんかも、“パンク侍ってどんなだかなあ?”なんて考える必要ない。ほとんど、本書が持っている魅力とは関係ない。ただ、“日本語の操り師、町田康の書いたナンジャコリャ時代劇、町田節炸裂!!”な話だと思って読み始めればそれで足りる。意味はわからんかもしれんが、とにかく読むべし、読むべし、べし、べし、べし、なのである。

 正直言って、粗筋的な全体構成としては、後半の部分が少し形而上に過ぎるので、5段階評価でいえば4ってとこか。しかしながら、文章の持つパワー、これは昨今の舞城王太郎や古川日出男や戸梶圭太の斬新な日本語の操りを遥かに凌駕しているといっても過言ではない。隅々まで舐めるように読むべし。そういう意味で、パワーは5段階評価の8。しかして4に8足して、2で割ったら6。5が◎なので6なら◎◎なのである。って、いつもこんな難しい方程式に照らし合わせて評価しているわけじゃないが(笑)。

 粗筋は書かない。自分で読むべし。しかし、雰囲気だけはちょっとお伝えしようか。冒頭で、老人と目の見えない娘が茶屋の前で休息をとっている。そこに近づく浪人風情。饅頭でも差し出すのかと思いきや、老人をズバッと斬る。超人的剣客!何ゆえに斬りつけたのか尋ねると、どうも要領を得ない問答が延々と続く。この問答がおかしくて、初町田康の読者も、もう先へ先へと頁を繰る手が止まらなくなる。中盤、二人の男が会話をしている。お互いの腹を探りながらの会話が2頁に及ぶ。2頁に及んだところで、会話が終了し、その後に“という会話を二人はしなかった”と著者が書くのだから、なんじゃこりゃと可笑しく感じた評者までもが、“腹ふり♪腹ふり♪”と踊りだす始末なのである。

 町田康の日本語の操りの妙。多分、日頃、日本語をあまり読んでこなかった人には、言葉遊びにしかうつらないだろう。いや意味がわからんというかな。評者のような日本語耽美派から言わせてもらえば、町田康の本作『パンク侍、斬られて候』の奇想と語学の限界への挑戦は、これはもう藝術なのである。

 評者も、どちらかといえば口語体でネットの文章は書いているが、正直言って町田康の影響大なのである。町田康が使ったテクニック、町田康なら使いそうなテクニック、そうしたワザに日々挑んでいるダラダラ聖月節な評者なのである。評者にとって、町田康は(勝手に)師匠なのである。(20040521)

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by kotodomo | 2005-04-08 16:52 | 書評 | Trackback(8) | Comments(12)
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Tracked from f丸の生態・デイリー at 2005-04-10 13:55
タイトル : 「パンク侍、斬られて候」町田康
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Tracked from 読んだモノの感想をわりと.. at 2005-04-27 10:25
タイトル : パンク侍、斬られて候 (町田康)
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Tracked from 雑食レビュー at 2005-11-07 22:08
タイトル : パンク侍、斬られて候
パンク侍、斬られて候/町田康発売元: マガジンハウス価格: ¥ 1,680発売日: 2004/03/18売上ランキング: 18,772posted with Socialtunes at 2005/11/05 晴天のある日、街道沿いの茶店で茶を飲んでいた牢人が、突然巡礼の父娘に歩み寄り、その父のほうをずばっと斬り殺すところから物語は始まる。凄腕の剣士でありながら今は諸国を放浪中の牢人掛十之進が、ある藩に悪徳宗教がはびこるのを抑えるという名目で取り入って……という筋書き。恐ろしく饒舌でシュールな世界が...... more
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タイトル : パンク侍、斬られて候
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Commented by bibliophage at 2005-04-09 08:32
はじめまして聖月さん、bibliophage と申します。最近、読書日記ブログを始めましたが、質・量ともに圧倒的なこのサイトをみて感嘆!しています。さて、町田康の作品は「夫婦茶碗」でがっくり挫折しましたが、en-taxiの詩「急流すべり」にはいたく感銘しました。この記事をみると「パンク侍…」は期待できそうなので、読んでみようと思いました。今後もよろしくお願いします。
Commented by 聖月 at 2005-04-09 09:40 x
bibliophageさん こんにちは
昨年10月にブログ始めたときには、しょぼかったのですが(笑)、旧サイトから書き溜めてきた4年分の記事を、最近うまく一体化したものと表現できるようになり、見た目の量も嵩上げしたかなあと(笑)。
これはツボの問題なのですが、私のほうは『夫婦茶碗』すっごく琴線に触れた作品でした。馬鹿馬鹿しさに嬉しくなったような。
明日は図書館、新作『告白』を取りにいきます。楽しみなのです。
『パンク侍』いいですよ。
Commented by 深町 at 2005-04-09 16:29 x
どうもです。町田康は私の永遠の師匠です。どちらかというと町田町蔵時代のインパクトもすごかったのですが、「くっすん大黒」でデビューしたときの衝撃といったら! この「パンク侍・・・」はまだ未読でした。そっこうゲットしなきゃ。
Commented by 聖月 at 2005-04-09 17:29 x
深町さん こんにちは
あ!同じ人が師匠!弟子同士ですねえ。この人の日本語の操り方は凄いものがありますよね。尽きず、新たな感覚を生み出すみたいな。
本書は町田作品の中でも、日常を離れたフィクションで、結構万人向けのエンタメに仕上がっていますよ。
影響受けて、早2作目でパロディ『ピンク侍、果てしなく渇いて早漏』なんていかがですか(笑)。
Commented by 深町 at 2005-04-09 22:14 x
がははは。
Commented by 聖月 at 2005-04-09 23:24 x
で、そんなのダメ!って出版社の人に言われたら、「じゃあ、町田康と対談したい。対談しなきゃ本気で書かない!」とかなんとか言って、対談できるかもしれない今の立場は、やはり俺ってプロ!みたいな感じで、そんときは同席させてください。兄弟弟子の同席もなんて子供みたいなこと言ってですね(笑)
Commented by f丸 at 2005-04-10 13:54 x
f丸がじゅん文学に書いた「辛いプリン」は同じような作風と言われて、お顔もよく似ているといわれるのに、f丸、町田康先生の御本はやや苦手なのです。しくしく。

でも「告白」は期待しています。けっこう悲しい話なんですよね。
Commented by 聖月 at 2005-04-10 14:03 x
えっ!顔が似ている!!!今イケる顔じゃないですか、ふんふん、ふりふり。
『告白』今読み始めましたあ(^O^)/ なんか凄く真剣に物語った作品ですね。町田節も今のとこは適度。
どうなっていくんだろう、熊太郎は・・・
Commented by notaro_hinemojira at 2005-04-27 10:28
面白かったです。おっしゃるとおりの万人向け超面白娯楽作ですね。
性分なのでちょっとケチつけましたけど(笑)
Commented by 聖月 at 2005-04-27 10:33 x
この人はですねえ、私の日本語の師匠なのです。
奇想の取り入れ方も師匠なのです。
だから、たまに私の文章が自由になって飛び跳ねることがあるのです。

この本で印象に残ったのは、複数ページに渡って誰かの思索を長々と書きながら“~ということを考えなかった”みたいなのが、ぎゃふんでうくくでした(^.^)
Commented by notaro_hinemojira at 2005-04-27 23:09
う~ん、そういう意味で意識してる作家はいませんねぇ。いつの間にかいろんな作家の影響を受けているとは思うのですか・・・
Commented by 聖月 at 2005-04-28 00:04 x
町田、舞城の日本語の操り方に真似したくなっちゃったり、影響受けたりですね。最後は自分の感性なのですが。


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