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「本のことども」by聖月

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2005年 04月 12日

◎◎『不自由な心』 白石一文 角川文庫 660円 2004/4

◎◎『不自由な心』 白石一文 角川文庫 660円 2004/4_b0037682_7381384.jpg 「天気雨」「卵の夢」「夢の空」「水の年輪」「不自由な心」と大体60頁前後の小品が収められている本書である。ひとつひとつがしっかりした骨格を持った短編集であり、最近傾向がわからなくなってきている白石一文の作風に戸惑いを覚える向きには、この小説を読んで、この作家の力量を胸に刻んでほしい。傑作!と思うようなそれぞれの作品ではない。しかしながら、ここまで身の詰まった話を5編も出されると、結果的に読むべしというしかない。フランス料理を出され、オードブル=結構おいしいねえ、魚料理=意外にいけるじゃん、肉料理=やっぱソースがいいねえ、デザート=甘さがしつこくなくていいねえ、接客=そういえばさりげなくていいウェイターだったね、などとなれば、友人知人にあそこのお店よかったよと吹聴したくなるわけで、じゃあどういう風によかったの?と問われても、いや全体的にと答えるのが一番相応しく思えるのと同様な、この本よかったよとお薦めしたくなる本書『不自由な心』なのである(長い形容ですみませぬ)。

 結局、この作家が実力を発揮した作品を読むたびに評者は哲学してしまう。「夢の空」の設定では、主人公の乗った飛行機が10分後に胴体着陸するという。主人公の行動はそれとしても、それじゃあ自分が同じ立場に置かれたらどうするのか?そういうことを自問自答してしまう。もしかすると自分の命はあと10分。その間にできることは?評者の答え=燃えてなくなっちゃうかも知れないが、二人の娘に手紙を書く。手帳かなんかに書き留める。“たいしたことない人生だったような気がするけど、キミたちに出会えて幸せでした。”

 「水の年輪」皆さんは、ガソリンより水が高いって気付いてました。レギュラーガソリンがリッター100円といったら、高いと思うかな?安いと思うかな?でも、自動販売機でミネラルウォーターの500mlを150円で買うことには抵抗ないんじゃないかな。そういう水事業を手がけ、成功させてきた主人公が癌に冒され、普通の生活ができるのはあと4ヶ月程度と友人の医師に教えられる。ここでも、自分だったらどうするかと哲学する評者なのである。この答えは、今のとこ出ないような気がする。物語の主人公は、冷静に受け止め、冷めてしまった家族との関係を打ち切り、自分一人のしっかりとした生活を始めるのだが。

 収められた作品の中には、哲学しようにも設定自体が評者にそぐわず、主人公に向かって、やれやれ、と小さな声で言ってしまいたくなるようなものもある。手堅いサラリーマン生活。東京本社勤務から、仙台の支店長への栄転の話が。妻は子供の進学があるし、とりあえず単身で行ってと意外な返事。主人公は浮気相手の女性に一緒に行こうと強く言う。やれやれ、である。なんでそこで関係を複雑な方向に持っていくんだ、である。評者の実生活には浮気のウの字もないし(でも小遣いを毎月100万円くれるという女性が現れれば考えてみてもいい)、加えてそれにのめり込むのは気が知れん、という、やれやれ、である。

 この作家は、男女の関係を通して文学を呈示してくれる。一度、親子の関係を通した文学を書いてほしいものである。それを読みながら哲学してみたい評者なのである。(20040421)


※最近、白石一文が静かなブームのようで、読み落としていた作品ということで図書館から借りてきた。あとは途中で断読した『すぐそばの彼方』を再読して最後まで読めば、とりあえずの完全制覇だじょ。

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by kotodomo | 2005-04-12 07:38 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2008-03-23 02:13
タイトル : 不自由な心 白石一文
不自由な心 ■やぎっちょ書評 今日は小説の感想以外のことから書こうかな、という気分です。 おもしろいのは「数字って顕著だな」ってこと。この白石一文さんって、ブロガーさんで読んでいる人ってあまりいない気がします。それから実用書を読んだときもそうなんだけど、....... more
Commented by やぎっちょ at 2008-03-23 02:13 x
聖月さんこんばんは♪
白石さん読んでいるブロガーさんっていないよねーーーとか思ってあきらめていたら聖月さんぜんぜん読んでらっしゃいました。
「最近、白石一文が静かなブーム」と書かれているので「おおお。やぎっちょも最近は・・・」と思い日付を見たら時差がありました・・・(笑)
Commented by 聖月 at 2008-03-23 08:38 x
やぎっちょさん こんにちは(^.^)

はい、白石一文は、コンプリに近いです。『すぐそばの彼方』は積読中ですが(^^ゞ

彼の本は、短編は別にして、フィロソフィー(哲学)が内包されていますね。特に『僕のなかの壊れていない部分』が顕著で、『草にすわる』なんて、爽快な哲学があって好きな作家なのですよ。

はい、白石歴、8~9年くらいです。デビューした瞬間に読みました(^^)v


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