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「本のことども」by聖月

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2005年 04月 30日

◎「天使たちの探偵」 原りょう ハヤカワ文庫JA 609円 1997/3

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 図書館に本書『天使たちの探偵』を予約するとき、迷った評者なのである。単行本は1990年に出ており、文庫化は1997年、どちらを借りようかな?と迷ったのである。勿論、本の鮮度は15年前の本より8年前の本のほうがいいだろうが(大した違いはなさそうだが、15年前の本の場合、相当ボロボロのこともあるのでね。これまでの中では『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹が一番ボロボロだったような)、簡単にそっちに決められないわけとして、やはり“単行本は偉い!”という固定観念が評者の裡に存在するからなのである。装丁や字の大きさまで考慮された小説の完成図そのままで、発売当初本好きが手にしたそのままの形で読むことに憧れがあるのである。でも、結局、文庫本のほうを予約した評者。字が小さいという欠点や、ポータブルであるという利点の問題とは関係なく、文庫化に伴って何か解説みたいのがついているかと思うので、少しお得かもと思ったからなのである。そういう意味で、最近しみったれたことが動機となって行動してしまい、そこには生活臭い自分があり、日々ハードボイルドな世界から乖離していく評者なのである。

 でも、お得であった。表紙カバーについている帯を見よ!文庫版書下ろしの掌篇「探偵志願の男」が収録されている。お得である。その上、その掌篇の中には探偵沢崎がどうして探偵になったのか、探偵になる前には会社組織に属していて・・・そんなことが作者の手で書いてあるので、お得というよりファン必見なのである。ということで、本書『天使たちの探偵』は昔単行本で読んだよ、って方は貴重な作品を見逃しているわけで、今すぐ書店に走って立ち読みするべしなのである。

 全部で6編の短編が収められているが、どれも中々秀逸な作品である。どれも探偵沢崎が主人公なので連作短編といえばそういうことも言えるし、テーマ連作という見方も出来る。テーマは翼をなくした天使たち。そして一番目の作品「少年の見た男」では10歳の少年が登場したりもするのだが、すべての子供が子供ではない。親子という関係の中での子供なのである。要するに親子という関係の中で、翼をなくした子供がテーマなので、その天使たちの年齢層も結構幅広いのである。だから、イタイケナ少年少女ばかりが出てくる話だと勘違いしないように(^.^)

 探偵沢崎モノを読んできた者にとって、本書の沢崎はメッチャ最高!というほどのものではないのだが、やはり沢崎!というほどには素敵なのである。未読の方は是非是非読むべし。短編としての魅力も、その結末の持って行き方よりも、冒頭での意外性にあり、そういう意味で気の利いた作品集なのである。「少年の見た男」でも、まさか沢崎が10歳の少年を依頼人として扱うはずもないのに、結局は自分が雇われてしまう、そんな展開からの物語の滑り出しに、読み手は引き込まれてしまうのである。あと、付け加えておくならば、沢崎シリーズ未読の方でも、何か面白い、小気味のいい短編集を読みたいと思っている方にもかなりのお薦めである。ハードボイルドな探偵のセリフや行動哲学に痺れたまえ、読みたまえ。(20050430)

※昭和から平成になった頃が時代背景に。そこらへんもどこか懐かしい作品群である。(書評No513)

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by kotodomo | 2005-04-30 10:12 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from たりぃの読書三昧な日々 at 2005-10-09 21:38
タイトル : 「天使たちの探偵」(原?著)
 今回は 「... more


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