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「本のことども」by聖月

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2005年 05月 04日

◎「越境者たち」上下 森巣博 集英社文庫 上660円/下650円 2002/9

◎「越境者たち」上下 森巣博 集英社文庫 上660円/下650円 2002/9_b0037682_1714240.jpg◎「越境者たち」上下 森巣博 集英社文庫 上660円/下650円 2002/9_b0037682_1713125.jpg いやー、面白かった。痛快だった。読書という行為を楽しめた本書である。

 石原慎太郎東京都知事は、これまで新しいことに手を出そうとしなかった首長たちと違い、例えば銀行の外形標準課税の導入など、アイディアを前面に押し出しながら政治を押し進めている。そのアイディアのひとつとして、日本で初めての公認カシノ(本書ではカジノではなくカシノと表記されている)を、お台場に建設する計画があるという。また、最近日本全体においても特区構想なるものが盛んに論議されており、自治体によっては"カジノ特区"で地場景気を盛り上げようという意見がある。

 一方、良識をたてにとっての反対論者は当然存在する。「そんなのできたら、子供たちに悪い影響が出るわ」「暴力団の資金源になるんじゃないのか」「まともでない風体の輩が町に増えたら怖いわ」「のめりこむやつが出てきて、今より破産者が増えるかも」等々。果たして、日本にカシノは実現するのか。著者は、まず実現しないだろうと言う。それは、列記した良識のせいではない。それは、政治と官僚の癒着と利権に根差したものらしい。もう既に利権の縄張り(しま)割りが官庁ごとに確定しているという。

 競馬は農林水産省、競輪は経済産業省、競艇は国土交通省、宝くじは財務省および総務省といったように、管轄官庁が決まっており、その周りにはお金がゴロゴロころがっている。そして、そこの理事には各官庁のOBが天下る構図ができている。パチンコも然り。今のパチンコは、カードを買って玉を買う仕組みになっているが、そのカードの会社には警察OBが天下る仕組みになっている。そんなおいしい構図を、利権に絡む官僚や政治家がみすみす捨てるはずはないと言う。現状を脅かすカシノなど、認めるはずがないと言う。評者が思うに、まあ認められることがあるとすれば、新たな利権の構図をカシノ周辺にめぐらす方策が立ってからだであろう。

 実際、著者が暮らすオーストラリアでのカシノの控除率(店側、運営者の取り分)は2%前後である。当然、控除率25%の競馬などのレース系、53.9%の宝くじ、控除率店まかせのパチンコなどは太刀打ちできないのである。カシノの控除率2%の低さに驚かれる方もいるかもしれない。勿論、カシノでは店側のイカサマは一切ない。スロットマシンなどの機械系を除いては、基本的にテーブル系で客同士が勝負する際に動くお金の手数料がお店の取り分となる。ゆえに、いかさまなどして客が離れ、当局にライセンスを没収されるような自殺行為などは考えられず、お客様に気持ちよく賭けさせ、儲けさせ、負けさせ、その膨大な掛け金の膨大な手数料で成り立っていくのである。要するに回転資金量の勝負なのである。その点、銀行にも似ていると言えよう。

 と、ここまで書いたのが、前半約10頁分の要約でしかないのである。面白そうでしょう。著者森巣博は、オーストラリアで実際に賭博で生計を立てている。その著者が、自分の経験や、出会った人々の生き様をフィクション、ノンフィクションごちゃ混ぜにして著したのが本書『越境者たち』である。日本からの越境者である著者に加え、ニュージーランドから越境してきたウルフ、そしてベトナムから越境してきたマイキーの生き様を中心にして物語は進んでいくのだが、途中の寄り道、賭博の薀蓄、薬物の薀蓄、その他人種、国家、民族といった多岐に渡る考察が、わかりやすく面白い。特にベトナム難民としてオーストラリアに流れてきたマイキーの過去から現在に至るそれは、そこらの小説よりも興味深い話なのである。

 本書は『週刊SPA!』に連載されていたものを単行本化したものなのだが、政治家や警察官僚の実名入りでかなりヤバイとこまで書いてある。ヤバイというのは、「え、そこまで書いていいの?そんなこと書いて大丈夫?」と読む者に思わせる、そういったヤバサである。文体も、かなり自分勝手な表現をつかいながらも、読者をぐいぐい引っ張る勢いがある。この著者の筆力ならば、多分どんな話を書いても面白いだろうと思い、前から気になってはいた『無境界の人』や『ジゴクラク』などなど、過去の著作も是非読んでみたいと感じた評者である。

 主婦A「パチンコすらしたことない私が読んでも、面白いかしら?」評者「でも、あなた宝くじくらい買ってるでしょう。だったら面白いはずですよ」青年B「宝くじも買ったことがない俺が読んでも、面白くないだろう?」評者「でも、あなたゲンくらいかつぐでしょう。だったら面白いはずですよ」女子高校生C「世の中を知らない私でも面白いかしら?」評者「占いや運勢といった言葉では表せない数奇なものが信じれるあなたなら、面白いはずですよ」などと勝手な問答で締めくくる評者だが、上下巻あわせて2700円ほどの(単行本化されまして、2冊で1300円ほどと、もっとお買い得になりました)本書はお買い得である。評者を信じなさい。(20030203)


※自由闊達な文体、評者のお気に入りの文体である。多分、面白いかどうかお迷いの方は、著者のどの本でもいいから試してみてはいかがかな。

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by kotodomo | 2005-05-04 17:13 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from ViVa! カジノ!! at 2005-05-05 12:22
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