2005年 05月 14日
本書は1983年5月に出版された村上春樹初の短編集である。評者の手元にある本も、実は文庫本ではなく、古書店で100円にて購入して積んであったやつである。ここにきて、〇『蛍・納屋を焼く・その他の短編』と本書を読んだのは、例えば最近『象の消滅-短篇選集1980-1991-』村上春樹が出版されたからということではなく、ただ何となくだったのだが、一応『象の消滅』に収録されている作品群を調べてみたら、当たり前だが幾らかの作品が重なっていることに気付いた評者なのである。 『象の消滅』収録作品は、ねじまき鳥と火曜日の女たち、パン屋再襲撃 カンガルー通信、四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて、眠り、ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界、レーダーホーゼン、納屋を焼く、緑色の獣、 ファミリー・アフェア、窓、TVピープル、中国行きのスロウ・ボート、踊る小人、午後の最後の芝生、沈黙、象の消滅、の作品群である。ライム色の作品が『蛍・納屋を焼く・その他の短編』にも収録、スカイブルーが本書『中国行きのスロウ・ボート』にも収録されている。だから、なんだとは言わない。そういうことだってこと。 そして、本書には上で紹介した短編以外のものも含め、全部で7つの短編が収められているのだが、最初の4つが〇『1973年のピンボール』の直後に書かれ、あとの3つが◎◎『羊をめぐる冒険』のあとに書かれているというのも少し興味深い。最後の作品などは、羊男が依頼人になる私立探偵が主人公のコミカル小説なんであり、えっ!村上春樹がこういうのを書いていたの?って発見もあるしね。 評者が一番気に入ったのは、表題作「中国行きのスロウ・ボート」かな。短編らしく非常にまとまりがあり、それでいてどこか沁みるようなそんな作品である。あとは「午後の最後の芝生」も良かったかな。何気なく村上春樹みたいな作品でね。まあ、短編たちの、それぞれの粗筋書くのは不粋なので読んでみるべしなんだけど。 しかし、この作者の短編は、◎『神の子どもたちはみな踊る』を読んだときもそうだったのだけど、色んなことを考えながら読んでしまう。評者が高校三年生のとき、ラジオから聴こえてきた佐野元春「アンジェリーナ」。今でも手元に持っているけど、この曲は色褪せない。なのに、もう25年前になるんだねえ。音楽シーンは、変化はしているけど、この25年はそこまで大きく変化していないような。だって、小学生の頃は歌謡曲もしくはGSばかりで、その横でフォークってのが出てきて、シンガーソングライターってのは歌手が自分で曲や詩を作るんだって、凄いねみたいな、今では誰でも作るしみたいな、その後ニューミュージックなんて言葉も出てきて、ユーミンなんかがそれで、要するに歌謡曲でもフォークでもないよ印みたいなジャンルで、そういう色んな変化があったのだけど、この四半世紀は結構安定していたのかな。今でも新しい大滝詠一みたいな。 長編ほどには話題にされない村上春樹の短編作品群だが、彼の文体が好きな方は、やはり細々と読み重ねて、回帰するのも良いのではないかな(^.^)(20050513) ※さて、これで古川日出男の『中国行きのスロウ・ボートRMX』にやっと入れる(^^)v(書評No519) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-05-14 00:10
| 書評
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