2005年 06月 05日
韓流である。元々、今の韓流ブームの前から朝鮮半島と日本を舞台にした娯楽時代小説、もしくは奇想時代小説を書き続けてきた著者ではあるが、本書『サラン』は同じく朝鮮半島と日本を舞台にとった時代小説でありながら、中身は愛と哀しみと切なさの韓流小説である。それも骨太の。だから、ゆめゆめ評者の甘言に誘われて、安易な気持ちで本書を手に取ることなかれ。見慣れない漢字や朝鮮名だけじゃなく、仮名雑じり漢文も読むことになるからね。心して読みなされ。 「耳塚賦」「何処か是れ他郷」「巾車録」「故郷忘じたく候」「匠の風、翔ける」そして表題作「サラン 哀しみを越えて」と、6つの短編が収められている本書。そのどれもに共通するのが、故郷との別れ、家族との別れ、そんな切なき想いである。ただ「匠の風、翔ける」のみが、読後に希望や明るさをにじませる異色の作風ではあるのだが。 「匠の風、翔ける」その昔朝鮮半島から、陶工が日本へ渡り住んだのにはわけがある。勿論、秀吉の出兵による影響もあるが、朝鮮半島では陶工たちは卑賤な者として扱われていた。ところが日本では匠と称され遇されるという。そんな時代に生まれた一人の陶工が、聖月様の故郷の祖、朝鮮出兵中の薩摩の島津義弘に出逢うというお話。 「サラン 哀しみを越えて」猿秀吉の号令のもと、朝鮮半島の村人たちは混乱に陥る。幸いにも倭国の蛮人たちは村をかすめて平壌へ向かっていったのだが・・・後続の集団が村へと。意外にも道案内を請う武将。その武将との数奇な運命を辿ることになる、10歳の娘おたえ。 本書を読んでいると、色んな想像が評者の胸に脳みそに帰来する。昔の日本の農民たちも年貢その他で苦しめられていたのだが、朝鮮半島の人民たちも色んな形で虐げられていたのである。まつりごとは口先だけの文民が押さえ、武民ですら軽んじられ、ましてや手に職を持つ人々は下の下のそのまた下の下層の者。そんなところに生まれていれば、家族のために出立を思うかもしれないパパ評者。そういう風に意思を持って離れ離れはまだしも、いきなり家族と引き裂かれて過ごしたら気狂いしそうな自分を押し殺し、いつかの望郷を願うパパ評者、そんな切ないシチュエーションを幾度と考えてしまったのだなあ。 人は今より簡単に死んでしまう時代。人は今より簡単に離れ離れになってしまう時代。そういう時代に生まれなかった自分にも、きっと誇れるほどではないのだけど、家族に対してあるのだろう、サラン・・・愛が。(20050605) ※荒山徹未読の方に、いきなり本書をお薦めするよりは、◎◎『魔風海峡』あたりがお薦めかな(書評No526) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-05 15:26
| 書評
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Comments(4)
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from 日々のちょろいも
at 2005-07-14 13:45
タイトル : 『サラン 哀しみを越えて』読了。
荒山徹『サラン 哀しみを越えて』の感想をこちらに。これももう1ヶ月以上前に読んだ本だよ…。でも少しずつでも消化して行かねば。ねばねば。 戦国時代の日本と朝鮮の狭間で生きた人々を描いた短編集。この時代で、日本と朝鮮を描いた作品なんてわたしにとっては初.... more
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from AOCHAN-Blog
at 2007-02-21 17:34
タイトル : 「サラン 哀しみを越えて」荒山徹
タイトル:サラン 哀しみを越えて 著者 :荒山徹 出版社 :文芸春秋 読書期間:2007/01/24 - 2007/01/26 お勧め度:★★★ [ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ] 秀吉の半島出兵による戦乱の中、両親をなくした朝鮮の少女「たあ」。しかしその後「たあ」の心の支えとなったのは日本の武将・三木輝景だった。輝景へのサラン(=愛)を抱きながら、「たあ」がたどる数奇な運命は―。愛と憎しみ、そして捨てられぬ「意地」を描いた荒山徹待望の作品集。 「耳塚賦」「何処か是...... more
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M
at 2005-08-07 00:51
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『サラン 哀しみを越えて』の本当の面白さは山田風太郎のある作品を読まないとわかりませんよ。
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M
at 2005-08-12 09:23
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山田風太郎はいつか・・・と思っております。
とりあえずは破天荒な忍法ものあたりがいいかなと思っています。 荒山徹が好きなものですから、なんかそういう感じの山風から入りたいなと。 そんなことしていったら、例の作品にいつか出会えるかもしれませんね。 |
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