2005年 06月 08日
本書の書かれた背景は、実に透明度の高い世界である。著者は純粋に、ソニーという世界レベルの企業を、表も裏もくまなく、好悪の感情も抜きにして赤裸々に本にすることを望んだ。ソニーは、その本の中にどのような事が書かれようとも、一切口を挟まないことを約束し、著者が会いたいと希望した全員についてインタビューをアレンジした。そして出来たのが本書である。 ご存知のように、ソニーという企業は、先んじた技術開発のもとに商品を開発し、世界的な企業として、また"技術のソニー"として広く知れ渡っている。井深大、盛田昭夫が創業し、大賀、出井へと、夢見る少年の発想はバトンタッチされてきた。次の2つのエピソードが興味深い。 ひとつは、井深や盛田は海外へ出かけると、ショッピングバッグいっぱいに詰まった機械仕掛けの玩具を土産に買って帰ってくる。井深の息子亮は、そのおもちゃに複雑な思いを感じる。土産は、社長室で一度ばらばらにされ、再度組み立てられてからしか彼に渡されない。ときには、組み立て途中のまま渡されるのである。 ふたつめは、ウォークマンの誕生の話であるが、井深が海外に行くときに、携帯用のステレオプレイヤーを持っていきたいという発想のもと4日で完成されたのは、これも広く知られている話である。著者は、このウォークマンを、手品で出てきたと表現する。それまでのソニーの製品は、最先端の技術で商品化されてきた。しかし、ウォークマンは、当時他のライバル会社にも持ちえた既存の技術で作られたのである。技術で商品化されたのではなく、発想という手品で商品として生み出されたのである。もし、あの時ウォークマンが出現しなければ、後のCD、MDも携帯用にまで発展したかは確信を持てない。 企業が書かせたものでなく、企業を賞賛もしなければ、批判もしない。ただただソニーを書いたノンフィクションである。しかし、客観的な事実を並べただけと言っても、やはり素晴らしい企業であるから、読む者はソニーという企業に対して感服せざるをえないだろう。ソニーに関しての本を読むなら、これで決まりの本書である。 ※インターネットで購入。多分、ネット購入が一番手っ取り早いだろう。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-08 21:01
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