2005年 06月 08日

◎◎「夫婦茶碗」 町田康 新潮社 1,400円 1998/1


 いやー、愉快愉快。面白かった。あまりにも面白すぎたので、本読み仲間のゆうさんに「面白いのなんの」って伝えたら「ご機嫌ですね」と言われてしまった。そう、評者はご機嫌なのである。

 評者は、普段はいたってクールな読書人である。本を読みながら、しかめつらもしないし、手に汗も握らないし、にやにやもしないし、屁もしない。しかし、今回、この「夫婦茶碗」を読みながら、笑うこと笑うこと、恥ずかしいくらいに。評者の可笑しみ、面白みの琴線を、実に見事に奏でてくれるのである、本書が、町田康が。

 著者町田康は、パンクバンドで世に出、「爆裂都市」で映画デビューした俳優でもあり、詩集「壊色(えじき)」小説「くっすん大黒」のあたりから作家として名を知られるようになったが、昨年2000年に、とうとう「きれぎれ」で芥川賞を受賞した若手作家である。若手といっても、評者と同い年にあたるのだが、若手である。色男で若手、評者と一緒である。

 この小説。話の筋は支離滅裂、言葉の遣いは魔術的である。筋が支離滅裂といっても、一応意味が通るので紹介しよう。

 主人公は、妻に、家にはもうお金がないのですよと言われ、それなら茶碗を洗ってお金を貰う仕事をしようと考えるのだが、実現するわけもなく、友人の塗装の仕事を手伝ってお金が入ってくるようになったのはいいが、単純な仕事に頭がふやけてきて寝込み、それならメルヘン作家になろうと思うのだが、そのためには家庭にうるおいが必要と思い、妻に駄洒落を強要し、その妻も、ある日「永井荷風」と言い残したまま家を出てしまう。

 と、途中まで紹介したが、あらすじだけ書いても、やはり支離滅裂には変わりはないようだ。この小説は終始主人公一人称の形式で進んでいくのだが、その主人公の奇想が面白く、先述の支離滅裂さをうまく回転させている。茶碗洗いを思い立つくだりでも、茶碗は家でも洗っているのだが、金を貰えないのは、その労働により生じる価値を享受するのは自分たちであり、自分で自分にお金を払うわけにはいかないから、それじゃ、よそ様の茶碗を洗えば、そこの横着な主婦は千円、いや三千円はくれるだろうなんていう発想なのである。

 言葉遣いのほうは、手垢のつかない前衛的、実験的な方法によるものなのであるが、これについては、とにかく読んで感じてほしい。只、はっきりと言えるのは著者の語彙(ボキャブラリー)の豊富さ、その使用における感覚の鋭さである。著者のインタビュー記事を読んだことがあるが、パンクロッカー時代といえども、本を傍らに置いて過ごしてきている。過去における読書の積み重ねが、本書に吐き出されているといっても過言ではない。

 評者は大笑いしたが、琴線、ツボというものは人によって違うものなので、大笑いは保証しない。ただ、芥川賞作家の力量は感じ取ってもらえるだろう。ダメ男を主人公に据えて、ダメさ加減をデフォルメ(主観による部分的強調)して小説に厚みをつけていく手法。本書には、もう一篇「人間の屑」が収録されているのだが、やはり同様のダメ男のデフォルメ話であり、いずれにしても自分もダメ男になってもいいかなと思わせるあたり、町田康、只者ではない。

 鹿児島県立図書館で借りたが、本年2001年4月めでたく文庫化。

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by kotodomo | 2005-06-08 22:02 | 書評 | Trackback(7) | Comments(2)
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Commented by やぎっちょ at 2008-05-19 00:29 x
聖月さんこんばんは♪
ご紹介いただきまして、いや実はその前から以前ほんぶろに記事を書いてくださっていたのを覚えていたのですが、やっと読みました。ありがとうございました。
一種独特の書き方が「告白」と同じだったのでびっくりしました。「告白」だけオリジナルワールドだとばかり思っていましたので。そういうスタイルの作家さんなのですね。
やぎっちょは爆笑はできませんでしたが、なんだか普段は感じることのない感覚を使ったような気がします。
連続で読むのはちょっとしんどいですが、たまに忘れた頃に、ああそろそろなんだか違うテイストのものを読みたいなと思ったときに読みたくなる作家さんでした。
ご紹介くださってありがとうございました♪♪
Commented by 聖月 at 2008-05-19 09:01 x
やぎっちょさん こんにちは(^.^)

やはり、人によって感じ方が違うのですね。
私は“オモロイ”と思って嫁さんに読ませたのですが、嫁さんは“馬鹿な主人公だね”で終わりでした、ははは。

友人も同じ反応だったなあ・・・人それぞれ。

そういう意味で、同じテイストの『きれぎれ』が芥川賞を獲ったのは、感覚派の私にとっては、画期的なことでした。

読んでいただいて、嬉しいですねえ。


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