2005年 06月 09日
毎年12月になると、そわそわしてくる。雑誌「このミステリーがすごい」の最新版がいつ出るのだろうかと考え始めるのである。そわそわこそすれ、調べるほど中毒でもないので時々書店を覗くこととなる。「このミステリーがすごい!2002年版」は、先日東京へ出向いた帰りの、羽田空港内の書店で発見、購入した。帰りのフライトまで相当時間があったので、空港待ちあいロビーで一通り目を通すこととなった。空港での読後感想を一言"ここまでとは"。何がここまで?いや、評者は最新作を読むことを目標にしていなく、二番煎じ的でいいから面白い本を読むことを目標にしている。言い換えれば、新刊本ラッシュの荒野を自分で切り拓いていく新刊本読みは他人にまかせて、いくら遅れてもいいから、他人が開拓した道を歩くことになっても構わないから、面白い本を厳選して読みたいと思っているのである。しかし"ここまでとは"。"ここまで今年の面白本に選択されるような本を読んでいなかったとは"というのが一番の感想である。 国内作品、海外作品それぞれ、ベスト20位に入るであろう新刊本を読んではいないということに、変な自信は持っていた。しかし、ランクイン以外の作品もある得点以上のものは、国内、海外ともその作品名が掲載されているのだが、それすら1冊も読んでいない。1冊もだ。救いは「頭蓋骨のマントラ」エリオット・パティスンと「R.P.G」宮部みゆきは、100円で売っていたので、買っていたということぐらいであろうか。 しかし、それでいいのだ。それでいいのだ、自分。それでいいのだ、聖月。それでいいのだ、評者。と、己を納得させる。というのも、新刊ばかりにこだわっていたら、幅広く楽しい作品に巡り合える機会が少なくなり、本書「犬博物館の外で」を読むこともなかったであろうし。 本書の主人公"おれ"ハリー・ラドクリフは、本人も天才建築家だというのであるが、他人も認める天才建築家である。本人が自分で天才を名乗るのは、そういう高飛車で威張った、のっぴきならない野郎だからである。美人の彼女は二人もいるし、能力、金銭を考えても、そして才能を考えても恵まれているのである。そんな彼の元に、中東の偉いスルタンから、犬の博物館を建てて欲しいという依頼が来る。最初は断っていたが、結果的に着手すると、歴史を超えた壮大な使命が浮かびあがってくるのである。 どう、面白そうでしょう。面白いのであるが、本書は多少、読み手を選ぶ部分も併せ持つ。欧米文学にあるように、説明不足のまま話が進んでいく嫌いがある。特に最近の日本の小説などでは、いろいろなことに説明が充分で、麻薬犯罪を扱ったミステリーなら麻薬に、銃器犯罪を扱った小説なら銃器に、読み手の知識が長じること間違いない傾向にある。そういったことに慣らされた読み手には、とっつきにくい部分もあるかもしれない。中東の偉いスルタンって言うけど、スルタンって何?老シャーマンが出てくるけど、解かるのは老、つまり老いているのは解かるけど、シャーマンって?そんなことが説明されないまま話が進んでいく。物語全体からすれば、感覚的にわかってくることなのではあるが。 本書は、英国幻想文学大賞の年間最優秀長編受賞作である。長編といっても、最近の大作と比べれば、たかだか400ページ。ちょうど、ほどよい長さの長編である。いわゆるダークファンタジーに分類される作品である、と評者は自分で書いておきながら、ダークファンタジーって何?て考える。そうそう、ファンタジーコーナーを作って、ハリーポッターシリーズを中心に据え、この本を傍らに置いて、"ダークファンタジーが好きな方にお薦め"なんてポップを付けると、そこそこ売れるということかな。 ※新書店で購入。今年一年の「本のことども」のご愛顧ありがとうございました。来年も頑張りますので、宜しくお願いいたします。よい、お年をお迎えください。年末年始に本の1冊もお読みください。 2001年12月__〆(・・ ) 聖月 いとおかし 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-09 20:18
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