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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 09日

〇「天国への階段」上下 白川道 幻冬舎 上下各1,700円 2001/2

〇「天国への階段」上下 白川道 幻冬舎 上下各1,700円 2001/2_b0037682_16502991.jpg 1999年上半期の直木賞は桐野夏生「柔らかな頬」、天童荒太「永遠の仔」他話題の候補作が並んだが、この2作品に限って言えば、売れ行き及び評判は「永遠の仔」に軍配が、そして直木賞を受賞出来たのは「柔らかな頬」のほうであった。「永遠の仔」が受賞出来なかったひとつの要因に、作品が長すぎたということがあった。選考委員の一人、渡辺淳一の評"理解しかねるほどの長い長い作品…登場人物のすべてを同じ厚さで塗り込むので、遠近法のできていない油絵を見るような単調さ…この程度のことを書くために、これだけの長さが必要であったのか"。この評に対して評者は"何を偉そうに。長さを批判するなんて、作品の本質には関係ないだろうに"と思ったものであった。

 今回、本書「天国への階段」を読了して、評者にもやっとその考えが理解できたようである。"やい、白川道。この本長過ぎ!"。上下2冊という以外に、頁が2段組だから、やたら長く感じられる。いやいや、いかに長かろうが、そのこと自体が批判の対象にはならないのだが。評者においても、同様の長さの高村薫「レディ・ジョーカー」は、飽きることなく読んだものだった。本書においては、上巻3分の2くらいのところで、読むのやめようかなと感じた。下巻半分くらいのところから面白くなり、完読してヨカッタヨカッタと思いながら、"この作品、下巻の半分までの部分を3分の1くらいに削って、1冊で出したほうがヨカッタンジャナイノ?"と感じた次第である。

 長さの話のついでに、第12回山本周五郎賞選考会記録の各委員の発言を紹介しよう。対象となっている作品は小野不由美「屍鬼」。読んでいない方でも、本屋か図書館に行って眺めてみればいい。確かに長いぞう!「屍鬼」。眺めただけでわかるぞう!では、紹介しよう。阿刀田高"小説も芸術の一つです。すべての芸術というのは何を削いでいくかということが非常に大切なことです。必要なものを提示し、不必要なものを除いて、削いで削いでつくるということが、すべての芸術の基本的な作業の一つ…"。井上ひさし"読者は…うんざりしてしまう。うまく省略するか、繰り返しが「芸」になるような工夫…"。逢坂剛"この小説が長いのは、ストーリーがあちこちへ面白く展開しているためじゃなく、単に登場人物が多いからにすぎず…"。やはり、長さは作品のひとつの評価対象になるようだ。

 本書「天国への階段」の主人公柏木圭一は、父親が経営していた北海道の牧場を乗っ取られ、打ちのめされた悲しみを胸に上京し、自分の目標に向かって邁進する。目標とは、牧場を乗っ取った相手を、自分が金と力を手に入れることで追い落とすことである。この相手は、北海道時代恋仲であった亜木子の結婚相手でもある。そう、主人公は牧場の夢と恋人という夢を奪われた憎悪をバネに生きてきたのである。果たして、主人公は自分の目標を達成できるのか。キーワードは"RPG(ロールプレイングゲーム)"である。

 主人公は、メインであるビル経営の傍ら、ソフト制作会社も傘下に収め、そちらではRPGソフトが主力の商品である。いわゆる"ドラゴンクエストシリーズ""ファイナルファンタジーシリーズ"に代表されるゲームである。主人公も同様の生き方をしてきた。北海道から上京し、町工場で働いてお金を貯め、W大学で知り合った友人に会社設立を働きかけ、といった具合に一歩ずつステップを踏んできた。本書では宿敵を打倒するために、その娘未央の見合いを妨害する必要に迫られるのだが、単なる力にまかせた直接的解決を行おうとはしない。遠回しに動いて、未央が結婚より仕事を取るよう仕向ける。すべてを紳士的に片付けながら、目標に向かって邁進する。ただし、唯一紳士的解決方法を取らなかった事柄があり、それにより事態はまた変わった方向へ展開していくのだが。

 物語の最後、またしても、感動巨編を読んだ際の儀式のように、評者の頬を涙が伝わったのだが、疑問の残る涙となった。現在の妻に対する愛、昔の恋人に対する愛、自分の子供に対する愛、一番の恋愛の対象者にしてあげたいこと、自分の子供にしてあげたいこと、そんな愛の形が、評者の持つ価値観とは、また違った形で表現されていたのであった。

 なんだかんだ言っても、「流星たちの宴」「海は涸いていた」でその力を見せつけてきた白川道の力作である。話の展開、収束は見事。ただし、はじめに述べたように、力が長さに出たような気がする。しかし、これも評者の主観である。上巻を読みながら、早く下巻に入りたいとウーウーうめきながら読んでいた知人もいた。

※鹿児島県立図書館で借りた。古書店では、最近出回るようになってきたが、まだ高値をつけている。人により本の価値観及び感じ方は違うが、あせって定価で買うこともないように思う。2001年上半期、馬鹿売れした本である。今に古書店でも、ダブツイテくると思うのだが。

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by kotodomo | 2005-06-09 20:24 | 書評 | Trackback(3) | Comments(0)
Tracked from たりぃの読書三昧な日々 at 2006-03-10 20:10
タイトル : 「天国への階段」(白川道著)
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Tracked from 読書ブログ at 2006-07-30 00:05
タイトル : 天国への階段
白川 道 著『天国への階段』を読みました。 まずストーリーですが、なかなか面白かったです。かなり丹念にプロットが練りこまれていて説得力がありますし、すごく泣かされた場面もありました。読み終えたあとは物語を振り返ってしばらく気分に浸ってしまったほどです...... more


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