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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 09日

▲「古本綺譚」 出久根達郎 中公文庫 540円 1990/3

 評者が、本のことどもを、本の世界を、少し勉強、研究してみようかなと思ったのは、約1年前である。それまでは、何か面白い本はないかな程度の感覚で、店頭で本を購入していた。これでは、なかなか面白い本に遭遇する可能性が高くはならない。しかし、勉強、研究しようとは思っても、いきなり「本の雑誌」なんか購入したくないし、、、そうだ!パン!(←手を叩いた音)と思いつき、インターネットで本の書評サイトなどを探してみた。そのようなサイトは腐る程あったが、己の趣味嗜好に合ったサイトがだんだんわかってきて、3箇所くらいのお気に入りのサイトを定期的に見るようになり、全国の読書の達人がどんな本を読んでいるのかわかってきた。

 毎週、日曜は鹿児島市内の古書店をまわり始めた。購読紙日経新聞と地元の南日本新聞の日曜の読書欄は欠かさず見るようになった。南日本新聞水曜日の夕刊の北上次郎氏の書評欄も楽しみになってきた。「このミステリーがすごい」のバックナンバーを10年分揃えて、過去10年の評判になったエンターテイメントな本をおさらいした。勿論、昔から買っていて手許に残してある、ダカーポの本の特集号の記事も再読おさらいした。そうすることで、自分なりの、自分に合った読書の世界観が構築された。とにかく、自分にとっての面白本の世界とは何かを追求し続けた。

 1年経って何が変わったか。古書店に行った際に、百円コーナーでしか本を買わなくなった。百円コーナーに並んでいる本のどれが面白くお買い得なのかわかってきた。1年前は百円コーナーに並んでいる本を眺めても、そこに並んでいる本に対しての知識がなく、買うことができなかった。お勉強の成果である。今、評者の書斎には、そうやって買った積読本が約170冊ある。馬鹿なのか俺は?今、月に5~8冊のペースで本を読んでいる俺。6冊平均で読んでいっても2年かかっても、読み終えないじゃないか。その上、今机の横には図書館から借りてきた本が8冊も載っているじゃないか。馬鹿なのか俺は?

 本書「古本綺譚」は、実際の古書店主であり「佃島ふたり書房」で直木賞を受賞した作者のデビュー作である。古書の世界にまつわる茶飲み話が満載である。評者のように百円本ばかり買う男の話も出てくる。評者の馬鹿さ加減以上の百円本男である。店頭のワゴンに置いてある百円本を、内容の如何にかかわらず総て買い上げていく男。しばらくしたら、また現れ、また総て買い上げていく男。馬鹿みたいだが、豪快である。但し、評者のような目利きであれば、こんな買い方は決してしないのだが。

 古書にまつわる短編集であり、気軽に読める内容である。古書の世界に興味ないと言う方も是非ご覧あれ。評者も、古本・中古本には興味があるが、古書の世界のことは知らない。しかし、古書の世界は幅広いのである。古書蒐集家には、例えば古い紙くずなら、何でも集める趣味の人がいるらしい。古い手紙、古いレストランのお品書、古いチラシ、兎に角何でも集めるのである。そこから見えてくる世界もある。昔の物の値段、昔の暮らし向き等々。

 1985年に新泉社から単行本で出たものが、5年後に文庫化されたものである。文庫化に際し、著者が面白いことをあとがきで述べている。古書店主を営む著者が、初めて本を書いたのはいいが、出版されてしばらくすると、お客が店主と知ってか知らずか、著者の古本を買ってくれと持ち込んだのである。安く買いたたくのも嫌だし、自分の本を相場より高くで買っても馬鹿みたいだし。もとより、本好きは馬鹿なのである。

※本書には、中編「狂聖・芦原将軍探索行」が収められている。本書を古書店で100円で買って、他の作品は読まずにこの中編だけ読んでも200円の値打ちがある。全部読んでも200円の値打ちがある。うん?

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by kotodomo | 2005-06-09 21:00 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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