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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 10日

◎◎「二進法の犬」 花村萬月 カッパ・ノベルス 1238円 1998/11

◎◎「二進法の犬」 花村萬月 カッパ・ノベルス 1238円 1998/11_b0037682_16133589.jpg 本との出会いは大切である。いろんな出会い方がある。評者の場合、あの著者のどの本から読めばいいですか?なんて尋ねられたとしたら、最初の頃のやつから順番に読んだほうがと、多分、一般論として答える場合が多いのであろうが。

 東野圭吾作品は、最初に「白夜行」を読んだ。その精密機械的な作風、斬新な構成に楽しく読んだ。次に「名探偵の掟」を読んだ。抱腹絶倒、オモロかった。その後、映画にもなった話題作「秘密」と、最近の作品では「片思い」を読んだ。面白くなかった、評者には。何を言いたいのかといえば、話題になったからといって「秘密」や「片思い」から先に読んでいたら、東野圭吾作品をおそらくそれ以上は読むことはなく、評者にとっての傑作である「白夜行」や「名探偵の掟」など、手に取ることはなかっただろうなということである。つまり、出会えなかっただろうなということである。

 時々書いていることであるが、評者は100円中古本は、すぐに読む予定でなくても買ってくることがある。積読。花村萬月作品も手元に四冊買ってあったのだが、読んでいなかった。後から買ってきた「笑う山崎」を読んで、ニヤリと笑い◎◎。そして、次はこれだと犬の嗅覚で買った本書「二進法の犬」を読んで圧倒され◎◎。何が言いたいのかというと、よし花村萬月作品初期の作品から読むぞ!なんてやっていたら、出会えなかったかもしれない傑作なのである。萬月作品は多いし、いきなり構えて読みだすと、いい加減飽きがきたりするかもしれないし。

 まずは本書のでだし、設定の話である。京都大学卒の主人公鷲津は、パソコン教えます、勉強教えます、の家庭教師である。そんな感じで、何とか食ってはいけてるインテリ崩れである。勿論、会社員だった時期も過去にはあったのだが。そんな主人公のもとに、女子高生、乾倫子から家庭教師の依頼が舞い込む。自分の家庭教師をしてほしい、父親のパソコンの家庭教師をしてほしいと。依頼されて訪れた倫子の家で、初めて父親が乾組組長、倫子が組長の一人娘だと知るのだが。

 などという設定など、関係ないのが萬月作品である。なるほど、家庭教師とやくざという組み合わせは面白い。読みたくなるような設定である。しかしながら、描写力、書き込んでも書き込んでも止まない筆力、背景を流れる哲学、そんなものが渾然一体となって萬月作品を作り上げていく。溢れるパワー、エネルギッシュな展開に、評者は原稿で言えば1600枚の本書を、2日間の連休で一気に読み終えた。ふう、ス・ゴ・カ・ッ・タ。

 評者は、男女の営みの描写は嫌いである、というか好きではない。それは何故かと言えば、物語の本質からかけ離れていたり、全体の大きな流れを乱す要因になったりすることが多いからである。つまり、いらない描写なのに、つい作者が品揃えで入れてしまって、興醒めしたりするからである。ところで、本書中に書き込まれる愛の交歓の描写は凄まじい。そして、交歓のあるたびに描写される。それが、ひとつも無駄な描写にならない。書き込んで、書き込んで、読ませて、読ませて、そして読者は主人公と一緒になって、愛の深さを感じていく。評者は2日間で一気に読んだと書いたが、愛、暴力、シリアス、コミカルすべてにおいて書き込んであるので、半分過ぎたあたりでは、本書の冒頭あたりに書かれていたエピソードなど、遠い昔を思い出すようなそんな気分にさせられる。それほど、書き込んであり、読ませてくれ、考えさせてくれるパワーのある作品なのである。

 哲学と書いたが、底流を流れる哲学は、本書を読んで人それぞれ理解してほしい。評者も読みながら、いろいろ考え、いろいろ哲学した。作者が倫子の口を借りて、街頭募金とういうものに触れている。評者は考えた。なるほど、街頭募金は多くの人の善意を恵まれない人のためにという建て前であり、それはそれで素晴らしい。じゃあ、恵まれない人にとっては、一人の人物による100万の寄付と、10人の善意者からの1万とどちらが為になるのか。多分、お金の価値の高い100万の方かな。じゃあ、多くの人の善意の方が価値があるという行為は偽善なのか。5人で街頭募金して、1日5万も集まらないないのなら、街頭に立っている無駄な時間で、一日1万のアルバイトをしたほうがためになるのじゃないか。そしたら募金活動という人が見てくれる目立った活動が影に隠れてしまってボランティアの実感がなくなるだろうか。お金じゃないよ、金額じゃないよと言うんだったら、街頭に立っている無駄な時間を、直接施設での奉仕の時間へ充てればいいのではないか。いやいや輪を広げるためにはアピールも必要、街頭に立つ時間も無駄ではない…と哲学した評者は結論が出ず、今でも懊悩の日々である。

 まあ、難しいことは抜きにして、家庭教師とやくざという組み合わせ、面白い設定だなあという観点から、読んでみれば如何かな。賭博の場面、面白いよ。

※古書店で600円で購入。鹿児島県立、市立図書館とも置いてある。
パワーのある本はパワーで読みたい。

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by kotodomo | 2005-06-10 07:09 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from □□_michiyapl.. at 2006-09-26 15:18
タイトル : 二進法の犬
花村萬月「二進法の犬」 どっぷりハマリました。お手上げです。感服。 絶賛するにはボクは青すぎますが、これだけ惹きつけるられた魅力は何なんだろうか。 ページ数は700ページ強。圧巻です。持ち運ぶのに苦労しました。 出演者は家庭教師と女子高生とヤクザと犬...... more


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