2005年 06月 10日
小説の中には、展開部分を中盤まで押さえ込み、物語のベースを詳細に書き込んだ上で、中盤から一気に読ませていくという手法が存在する。古川日出男「13」も同様の手法であるし、マキャモンの「少年時代」もミステリアスな部分を持ち合わせながら、中盤までは田舎町の少年の生活というものを丹念に書き込んで、後半から動きの多い展開へと持ちこむ、読む者をワクワクさせる物語であった。本書「この闇と光」も、小説全体の半分を越えるところまで、主人公の日々の生活を描写していくことに終始する。 この物語は、一人称の主人公レイアの幼児期の生活から始まる。レイアは、国王の娘である。自分のことを"光の娘"レイアと呼んでくれる父親である国王と一緒に、別荘で暮らしている。 実は、レイアが3歳の頃に国を揺るがすような事態が起こり、その時に母親を亡くし、自分は視力を失い、国王である父親と一緒に、"別荘"と自分達が呼んでいる場所に幽閉されているのである。食事とか身の回りの世話は、敵側の一員であるダフネというレイアにとって大嫌いな女がしてくれている。別荘での行動範囲は限られているが、限られた空間の中では自由な生活を送っている。父親は大概そばに居てくれるが、国内で暴動とかが起こると、元国王としての顔見せとして、暴動の民に鎮静を呼びかけるために外出することもある。 外出した際はよく、レイアのためにお土産を買って帰ってくる。レイアが好きな物は、音楽や物語である。目の見えないレイアにとって、音楽は素直に染み込んでくるし、物語は父親の読み聞かせ、もしくは特殊な筆記具で書かれた文章を手でなぞることによって自分の中に入っていく。レイアが大きくなってくると、父親は物語の朗読テープも買ってきてくれ、長い物語などはそれをカセットで聞くことによって、レイアの心の中に入っていく。えっ!テープにカセット?時代はいつなんだ? 国王が外出した際は、ダフネが面倒を見てくれるが、レイアは自分を毛嫌いしているこの女が大嫌いである。一度などはダフネも不在で、敵の兵士がレイアのところへ食事を運んできた。自分の知らない外国の言葉を話す兵士であった。それを父親に話すと、父親は敵の国の言葉をレイアに教えてくれた。エイ、ビイ、シー、ディー、、、。英語?場所はどこなんだ? 物語の全体の雰囲気が醸し出すのは、中世のヨーロッパ、小国の囚われの身の国王と娘の物語である。しかし、小道具として、カセットテープ、英語などが出てくる。評者は考えた。この小説は、読む者を誤った方向へ導こうとしているのか?実は場所はアフリカあたりで、レイアの肌は黒く、アメリカの支配下で統治されているのだろうか?などと。事の真相は、どうぞこの物語を読んでいただきたい。レイアが初潮を迎える頃まで、二人の幽閉生活の描写は続く。その後の話は急展開。読む者を、最後までグイグイ引っ張っていく。 実は、事の真相はこの小説の妙味ではない。事の真相と、後半の展開を結びつけていく見えない事柄が、中盤以降の読者の興味となる。 中盤まで、王の娘レイアの生活の描写が続くが、文学的芸術的好奇心に溢れるレイアの心と、どこか牧歌的な別荘生活は、小刻みな描写で読む者を飽きさせない、というより幻想的な世界へ導いてくれる。 著者服部まゆみの紡ぎ出すワールドを、どうぞ堪能あれ。 ※鹿児島市立図書館で単行本1998/11の方を借りる。鹿児島県立図書館にもあり。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-10 07:27
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