2005年 06月 10日
評者は、ジョン・レノンやビートルズのことをあまり知らない。確か評者の中学時代、既に解散していたビートルズ人気が級友の中で再燃していた。ビートルズがダントツの人気で、マイナーなところでサイモン&ガーファンクルのほうがいいと言う友人もいた。評者はもっとマイナーで、井上陽水のファンであった。外国の音楽には、英語の歌詞には興味なかった。ただ、2歳上の姉貴が好んで聞いていたクイーンは素敵だなと感じていた。夜は、大石吾郎もしくはカルメンの"コッキーポップ"を聞きながら眠りについた。中島みゆきが時代を歌い、2段ベッドの上でその歌詞を反芻しながら、なんていい歌なんだろうと思いながら眠りについていた、シンガーソングじゃなきゃ音楽じゃないと理屈のない主張を持った青二才だったのである。 話が懐古的になったが、興味ないと言いながらも級友の間で盛り上がっていたので、当時エアチェックしたビートルズのテープは今でも残っている。ポールのソロアルバムのテープも2本ある。ジョンのイマジンのベストCDも持っているし、ジョージのベストCDも持っている。知識として、ポールとジョンが人気を二分していたが、ジョージが二番目に好きなメンバー投票をしたら自分が一番だろうと嘯いていたのも知っているし、ジョンが前衛芸術家ヨーコと知り合ってからの音楽性の変遷、それに対する賛否両論も知っている。音楽シーンでは、ビートルズ以前と以後とでは、音楽のポップ性、メロディーラインが全然違ったものであるのも知っているし、ビートルズに多大な影響を受けたミュージシャンの話もたくさん知っている。 でも、知らないのである。多分、ビートルズの歌の半分以上は聴けば知っている曲だと思うはずなのだが、題名を知っている曲が少ない。ビートルズを聴いてショックを受けた覚えもない。つまり、評者にとってのビートルズは、イージーリスニング以上のものではないのである。ファンの方には申し訳ないが、ジョン・レノンの射殺も、マービン・ゲイの射殺も、尾崎豊の死も、フレディ・マーキュリーがエイズで死んだのも、全部同じレベルの記憶である。 何で長々とこんな話をしたかといえば、本書を読みながら、ジョン・レノンファンが読んだらどういう風に感じるのだろうと思ったからである。巻末に"本書はフィクションであり、実在の、、、"と書かれてはいるが、参考文献のリストにジョン・レノン関連本が名を連ねているし、表紙の長髪で丸眼鏡をかけた男の影は、明らかにジョン・レノンである。そう、本書はジョン・レノンを軽井沢に置いた不思議な物語なのである。 主人公ジョンは、若い頃はかなりの不良少年であったのだが、長じてからは、バンドのメンバーと一緒になって音楽の世界で地球全土を席巻した。4年前に引退し、現在は主夫。毎年夏になると、前衛芸術家兼作家の妻と、幼いジュニアと一緒に軽井沢で過ごす。今年のジョンは調子が悪い。体調が悪い。原因不明でお腹が痛くなり、若い頃殴り倒してしまってもしかしたら殺しちまった水夫の夢でうなされ、息ができない苦しさに悩み、ついには重度の便秘に陥り、お盆の間でも開けてくれている病院へ通う。主人公ジョンの性格は、昔は荒れていたのであろうが、今では暢気な軽口野郎であり、穏やかな主夫であり、優しいパパである。そういう軽めの設定のお陰で、物語の序盤、評者の心は〇と▲の評価を揺れ動き、一体どういう風に話が展開していくのか訝(いぶか)った。そして、後半の話の急展開に◎◎。結果的に評価は〇。ツボに嵌まる人には、大いに感動する書であろう。病院に通う帰り道の森で、ジョンは不思議な体験をするのである。大人のファンタジイを体験するのである。えっ、意味がわからないって?ヒント:ウランバーナと盂蘭盆会(←勉強!勉強!読み方、意味は自分で調べたまえ)。エエイ、もっと大ヒント:「異人たちとの夏」片岡鶴太郎がよかったねえ。秋吉久美子もよかったねえ。わからない人は、わからないままでよろしい。 著者、奥田英朗は最近では「最悪」「邪魔」などで、転落的クライムノベルの旗手としてその名を知られているが、本書はその著者のデビュー作。趣も、大いに異なる作品である。 ※鹿児島県立図書館で借りた本。本の扉に、書評家北上次郎氏絶賛ということが書いてある。氏が絶賛する場合、多分に人情話的ところで、ホロリとくるような作品が多い。講談社文庫で既文庫化571円也でお買い得。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-10 08:06
| 書評
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from AOCHAN-Blog
at 2005-11-26 00:33
タイトル : 「ウランバーナの森」奥田英朗
タイトル:ウランバーナの森著者 :奥田英朗出版社 :講談社文庫読書期間:2005/11/09 - 2005/11/11お勧め度:★★★[ Amazon | bk1 | 楽天ブックス ]その夏、世紀のポップスター・ジョンは軽井沢で過ごした。家族との素敵な避暑が、ひどい便秘でぶち壊し。あまりの苦しさに病院通いをはじめたジョンの元へ、過去からの亡霊が次々と訪れ始めた…。大ベストセラー小説『最悪』の著者が贈る、ウイットとユーモア、そして温かい思いに溢れた喪失と再生の物語。直木賞作家・奥田英朗さんデビュー作品...... more |
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