「本のことども」by聖月

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2005年 06月 10日

◎「牛乳アンタッチャブル」 戸梶圭太 双葉社 1500円 2002/2

b0037682_8323737.jpg ぶっとんだ小説を書くことで定評のある戸梶圭太が、雪印牛乳の集団食中毒をモチーフに仕上げた作品である。確かに、「闇の楽園」で初めて接した戸梶圭太のぶっとび方は面白かったのだが、ちょっと癖が強すぎて、次の作品を期間を空けずに読もうとは思わなかったし、ましてや牛乳の集団食中毒を題材に取るというのは、いかにもという感じで新鮮味を感じさせないなあ、と、そんなことを考えていたので、取り立てて早く読みたいとは思っていなかった作品である。だが、先日図書館に行った際に、またしても図書館新刊発見次第即借シンドロームが評者に発病してしまい、さほど興味はないのだがと思いながらも、発行日の近さに誘惑され借りてしまったのである。この図書館新刊発見次第即借シンドロームという病気は、貧乏人に多く発病するもので、その原因となるのが"この本、まだ新しいじゃないか。今頃、全国のどこかの書店で買っているやつがいるのだろうな。ふふふ、俺はただで借りちゃうぞ。へへ、なんか儲けた気分"という貧乏人根性にある。ところが、意外に面白かったのである。評価◎◎にしようか◎にしようか、迷ったほどである。

 勘違いしちゃいけないのは、雪印乳業は目下再建模索中であることだ。会社解散に追い込まれたのは、子会社の雪印食品であって、原因も食中毒ではなく、BSE(狂牛病)に端を発する牛肉偽装事件である。しかしながら、当然、本体雪印乳業の経営も大変であって、2002/5/24付の日経新聞によれば、300億円を見込んでいた第三者割当増資が100億規模しか調達できておらず、二ヶ月前に発表した再建計画では金融支援は要請しないとしていたものが、今回の新再建計画では500億円の金融支援を求めているほどに、再建計画は思い通りに進んでいないのが現状である。ところで、評者は雪印が題材だと勝手に決め込んでいるが、本書の中の会社名は雲印(くもじるし)である。しかし、誰しも字面でずっと
雪印(ゆきじるし)と読み進めるのは必至である。

 本書の表紙には、おいしそうなビン入り牛乳の写真が載っている。そして題名が「牛乳アンタッチャブル」とあれば、その意味を"牛乳触るな!飲んだら危ない!"みたいに受けとめたくなるのだが、そうではない。わからないことがあれば調べるように1歳の頃から教育されている評者は、ちゃんと調べたのである。アンタッチャブルの意味を。本書を読み進めていけば、映画を多少知っている人間には、映画"アンタッチャブル"から来ているのだなあというところまではわかる。しかし、"じゃあ、アンタッチャブルの意味は?"と訊かれても、多分わからない方も多いだろう。くどいようだが、ほとんど英語ペラペラで母国語のように操り、あまりにもネイティブであるがゆえに"アンタッチャブルなんてアンタッチャブルの意味に決まっているじゃないか"と、頭の中で英語で考えてしまう評者は、いちいち日本語に訳さないとわかりませんと(^o^)丿いう皆さんのために調べてみたのであった。

 まずは、中学から愛用の研究社のユニオン辞典では"un-touch-able 形容詞:手を触れてはならない;手の届かない 名詞:不可触賤民(インド最下層階級の人々)"とある。わからないでもないが、これじゃない。ならばと「現代用語の基礎知識」では"~が原意。アメリカではギャングの買収その他に断じて応じないFBI職員"とある。そう、「牛乳アンタッチャブル」とは、広義の意味でこのことなのである。

 製造工場から出荷された牛乳により、集団食中毒が発生する。役員連中は表沙汰にならないように画策し、事態収拾は後手後手にまわる。製造担当者たちは、上からの指示通りの一点張り。社長までもが、メディアの質問攻勢に合い、"私は寝てないんですよ!"とアホな発言で取材を打ち切ろうとする。そんな社内の中で、建て直しを図ろうとする取締役のもと、「牛乳アンタッチャブル」が組織される。会社建て直しのための人材を発掘し、その人物たちだけで、会社のためにならない社員から役員までをも見つけ出し、クビ切りしていこうというチームなのである。

 ところで、既に起こった事件に題材を求めるのは、新鮮味を感じない、読む気があまり起こらないと評者は冒頭で述べたが、実は読み進めながら意外な利点に気付いたのである。多くを説明しなくても、みんなが知っている事件であれば、物語の背景をつかみやすいのである。逆に、こういった事件が起こらない中でこの小説を読んだとしたら、"こんな事件が起こるはずがない、所詮小説内だけの事件さ"と受けとめられるかも知れない。

 みんなが知っている事件、内容は詳しく説明しない。

 戸梶圭太の小説は、よくぶっとんでいると評されるが、何がぶっとんでいるのかは読んで体感してほしい。よほど、評価◎◎にしようかとも思ったが、オチが今ひとつで◎止まり。決して文学性に富んだ作品ではない。オゲレツ、ドタバタ、コメディータッチながら、ここまで楽しく表現すれば、エンターテイメントとしての完成度は高いと言わざるを得ない。冷静に考えたとき、読む人の感性により、評価が分かれるであろうことは付記しておきたい。

 最後に、雪印乳業で建て直しに頑張っている方々にエールを送りたい。"必至で頑張れ!雪印製品を愛してくれていた消費者のために頑張ってくれえ!決して、根を腐らせた会社幹部のために頑張るんじゃねえぞお!"


※鹿児島市立図書館で借りた本。表紙の牛乳が実に旨そうな本書である。

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by kotodomo | 2005-06-10 08:33 | 書評 | Trackback | Comments(2)
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Commented by ヾ(=ΘΘ=)ノ at 2005-06-10 10:51 x
図書館新刊発見次第即借シンドローム!!そっかー、症候群だったのね。私、最近これに罹ってると思います。根っこはただの貧乏人;;;
Commented by 聖月 at 2005-06-10 17:54 x
とりあえず、図書館の風景に慣れてくると、その症候群に罹ります。
なんか白石あたりをそれで借りられたようですね(^.^)
ネット予約もし始めると、もっと重篤になります。


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