2005年 06月 10日
スペインの作家の書いた小説である。物語の冒頭で、新婚旅行から帰ってきたばかりの花嫁が、親子親族との会食中、席を中座し洗面所へ入る。そこで拳銃自殺を遂げる。ミステリーとして魅力を感じる出だしである。 果たして、何故に花嫁は自らの命を絶ったのか。それも、メシ食ってるときに(って言うのはゲスな考えだろうか)。 ところが、話は花嫁の自殺の原因にはいつまでたっても辿り着かない。ただし、著者の筆が文学性豊かに踊って、小説自体のふくらみは増していくばかりで飽きさせない。最後には、自殺の真相へなんとか辿り着くのだが、その間に、読者は作者の筆で、思索、思案の世界へ誘われる。例えば、こんな話。 物語は、世界の首脳の通訳まで努める男性の一人称で語られる。結婚とは、記憶とは、なんてことを主人公と一緒になって考えてしまうのだが、この主人公の通訳のエピソードが面白い。ふたつの国の国家元首の通訳を一人で努める。ただし、誤訳があってはならないので、監督及び補佐の役割の通訳が後方につく。その語られるエピソードの際にこの役割を果たしたのが、現在の妻なのだが。主人公の男性通訳は、国家元首同士の話が面白くない話題、差し障りのない話題ばかりなので、全然違う話を通訳するのである。後に控える現在の妻は、監督役ながら止められないである。主人公の通訳は、元首のどちらもそんなこと言ってもいないのに、通訳するフリをして、勝手に話題を切り替える。"ところで、お国でのあなたの人気は今どうですか?"などと。ところが、これに対する相手の反応が面白い。"一番気にしている事柄ではありますが、どこかのお国の独裁者には到底かないませんねえ"などと答える。これは、皮肉ではない。いわゆる民主主義と独裁政治の違いを言い得ているのである。例えば、 考えてみてご覧なさい。日本の総理がいくら人気を博そうと、支持しますと答える国民は、驚異的な数字と言われたときも80%程度である。普通は50%以下、10%とかになっても不思議ではない。 ところが、アジアの半島の北の国や、湾岸米国敵国や、その他多くの独裁者の治める国にいくと、他国から眺めると悪者に見える独裁者も、"元首様、偉大なる指導者様"と、表面上はほぼ100%に近い支持を得ているのである。ここで、評者の思索は深まり、ある結論に達した。"一番いいのは独裁者による良政なのではないかな" 題名の「白い心臓」は、シェイクスピアの作品の一部からとられており、作品の引用も展開する。本書は、ミステリーの仮面を被った文学性豊かな小説なのである。残念なのは、評者がシェイクスピアをよく知らないことである。いや、古典と言われる外国作品は、ほとんど読んでこなかったに等しい。悔やまれる、若き、幼き日の過ぎし方である。たとえば「ぼくはこんな本を読んできた」立花隆(1999/3文春文庫)の中に、"僕の読書を顧みる・中学生橘隆志少年の読書記録"という箇所があるが、これが凄い。立花氏は小学、中学時代に名作文学をほとんどすべて読了している。評者も、趣味は読書とうそぶきながら中年になってしまったが、このような蓄積をしてこなかった過日が悔やまれる。悔やんでも仕方がないか。今の日々を大事に積み重ねていけば、振り返ったときにその足跡に気付くこともあろう。 話を強引に進めるが、振り返ってみたら、その足跡にわざとらしく気付いてしまった。評者、聖月、書評、100冊、おめでとう。に気付いたのである、わざとらしく。通過点ではあるが、とりあえず気にしていた到達点である。多分、104冊目が一年継続の節目になると思う。 一年前、高校時代の友人と名乗る親HP"じゃっど"の管理人さんからメールが舞い込んだ。"自分の運営しているサイトに、本のコーナーを新設したいのだが、書いてくれないか?"と。"いいよ""どのくらいの頻度にする""コーナーの名前は?""写真も送ってよ"なんて話をしながらできたのが「本のことども」である。管理人さんとは、当初書評を10冊くらい更新するまで会いもしなかったし、高校時代に話したこともなかったし、まず記憶になかった。そんな感じで始まった「本のことども」である。 好き放題、自由にやっている書評サイトの中では、管理人と評者が別々に存在しているところは少ないと思う。だから、評者はホームページクリエイトの苦労は全然知らずにここまできた。管理人は管理人で、好き勝手にデザインしてここまできた。だから、こんなヘンテコなサイトが出来てしまったのである。何がヘンテコかって?サイトに自分の顔写真を載せてるところは多いが、まさか「本のことども」みたいに狭いサイトの中で写真を計3箇所も掲示しているサイトはないだろう。あれは、評者の考えではない。管理人のデザイン感覚である。 しかし、評者も文句を言わず、そうしてしまったものは、そのまんまでも面白いかと楽しんでいる。「おかしな二人」なのである。 毎週水曜日、2冊更新は評者が自分で決めたノルマである。104冊を超えたところで、随時更新に変えようと管理人さんと話はついている。もしかしたら、毎日一冊更新するかもしれないので、頻繁に覗いてくださいな(笑)。 100冊到達にあたって、本当はいろんな人に感謝の弁を述べたかったのだが、ただ一人に対してここでお礼の弁を述べさせていただくことをお許しを。 "管理人さん、ありがとう。いろいろ我儘聞いてくれて。最初はなかった掲示板まで作ってくれて。まだまだ、頑張りましょうねえ。ところで、100冊記念のプレゼントはないのですか?評者聖月は、温泉で一杯なんてえのも好きなのですがあ。返事は掲示板にでも書いてくださいね" ※読書する時間、PCに向かう時間を許してくれた嫁さんと二人の娘にも謝意m(__)m 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-10 09:30
| 書評
|
Trackback(1)
|
Comments(0)
|
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||