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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 12日

▲「被告の女性に関しては」 フランシス・アイルズ 晶文社 2000円 2002/6


 そうか、そうだったのか。あ、なるほどね。というのが、説明なしの評者の感想、感嘆である。えっ!説明しろって?はいはい、説明します。

 まず、本書を読もうと思ったきっかけは、新聞書評にある。書評というより、面白本の紹介コラムのようなものであったが。それによると、文学青年が寄宿先、療養先の医者の妻に好意を抱く。青年は20歳くらい。妻は35歳くらい(思い出しながらイメージで書いているので悪しからず)。そして、男女の関係が成就するかどうかはよくわからないが、愛や恋のもつれの結果、青年だったか、妻だったかが、医者であり夫である人物を殺してしまい、いや、犯人がわからないまま死体が発見され、どちらが殺したかわからないまま、二人は逃避行をし、いや、違った、片方が逃げるのか?全然、それによってないじゃない!バラバラでアバウトな記憶の羅列じゃないかって?まあ、それは置いといてっと。で、本書の題名「被告の女性に関しては」から察して、裁判の話になって、医者の妻が被告として登場するシーンがあるのかと、勝手に評者は想像していたのである。全然、違いました。予想、おおハズレ。約350ページの本書で、死体が出てくるのが300ページのあたり。ここから話が展開して、法廷シーンに行き着くわけがない。冒頭の、そうか、そうだったのかとの感嘆は、本格推理ものもしくはミステリーだと勘違いしていた本書、実は恋愛サスペンス、心理サスペンスだったのである。

 それと、新聞での紹介を読みながら、初めて見る作家名だと思い、新人かなと思っていたのである。全然、違いました。予想、おおハズレ。アントニイ・バークリー(・コックス)の別名義なのだそうだ、フランシス・アイルズは。イギリスの作家バークリーは、1893年生、1971年没。最近、国書刊行会から出た「第二の銃声」や「ジャンピング・ジェニイ」などで人気を集め、各種ランキングでも評価され、注目を集めている。評者も、代表作「毒入りチョコレート事件」創元推理文庫を古書店で100円で購入済み、積読中であったので、バークリー作品はきっと「毒入りチョコレート事件」から読むのだろうと何気なく思っていた。シュリンガムが登場する探偵物をバークリー名義で、心理物をアイルズ名義で書いているようで、冒頭、あ、なるほどね、と思ったのは、巻末の解説を読んで、ミステリーらしくない本書の位置付けがわかったからである。だって、結局320ページ過ぎるまで、不可解なことは何もおこらないのだから。

 実は、本書「被告の女性に関しては」はバークリーにとっても、アイルズとしても、最後の作品なのである。バークリーの没年をあらためて確認した評者は、"ああ、自分が生まれてからも10年くらい生きていた作家だったのだな。そう、昔の作家でもなかったのだな。"と思ったのであるが、最後の作品である本書は、1939年の作品である。やはり、作家としての位置付けは、昔の作家なのである。

 しかし本書、舞台が海辺の町ということもあるのかもしれないが、まったく古くないといおうか、現代を舞台にしていると言っても全然違和感がない。ただ、不倫が珍しくない現代と違い、姦通という概念や、妻としての不貞の概念が、今とは少し違うところがあるが。文体もユーモア溢れ、軽妙である。サラリと読める一冊である。(20020915)


※鹿児島市立図書館で借りる。表紙もポリゴンを施したファイナル・ファンタジーシリーズのキャラみたいで今っぽい。ポリゴン的なキャラなので、気持ち悪いと言えば気持ち悪いが。それにしても晶文社のマーク。よくみても、サイなのかカバなのか、はたまた横を向いた野生牛なのかわからない。誰か教えてくれ~!夜も眠れそうにないぞ~!気になって。まさか、騙し絵じゃないだろうな(笑)あ、やっぱサイだ。

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by kotodomo | 2005-06-12 07:55 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from くろにゃんこの読書日記 at 2005-07-03 11:22
タイトル : 被告の女性に関しては フランシス・アイルズ
アイルズの作品は、ミステリーではあるけれども、起こった事件を探偵役の登場人物が解決するような、そんなお決まりなものではない。そう、絶対に無い。 事件はいかにして起こるのか、その犯人の性格や心理とは、 というのがアイルズの示すところなのだ。 「レディに捧げる殺人物語」では、被害者となる女性の愛しすぎる性格をとことん追求していて、アイルズは本当に男性なのかと思ってしまうほどでした。 読者が女性であれば、わかるわかるわぁと思う方と、リナっておバカじゃないのと憤慨する方と二分したことでしょう。 ちなみに私は...... more
Commented by くろにゃんこ at 2005-07-03 11:06 x
早いっす。
ちょっと洗濯物を干している隙にTBされちゃいました(笑)

本書はアイルズとしてもバークリーとしても絶筆の書になるんですよね。
それを思うと感慨深いです。
こんなに面白い作品を書く作家がその後不遇の人生を歩んだのかと。
アラン3部作の続きが読みたかったなぁ。
気を取り直して、次は「殺意」にいってみよう!

晶文社のマーク、サイでしょ。多分。
かばには見えないけど。
でも何でサイなんだろう?
謎は深まるばかり・・・
Commented by 聖月 at 2005-07-03 12:19 x
はい、サイです。このときはこんなこと書いてますけど、後で確認しました。
私、ちゃんと調べるのです。覚えていたら。でも理由は興味なかったので(^^ゞ
洗濯ですか?私も今朝布団カバーを洗濯。
夕方には、普通の衣類洗濯予定(^O^)/単身赴任の身、週の頭がスケジュール混んでいますので、今日だ!と。感心な自分です(^.^)

私は今、積読中の『毒入りチョコレート事件』図書館本の合間にいつ読めるか、そこらへんを画策しております。はい。


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