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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 19日

◎「砂の狩人」上下 大沢在昌 幻冬舎 上下各1667円 2002/9

◎「砂の狩人」上下 大沢在昌 幻冬舎 上下各1667円 2002/9_b0037682_1645840.jpg 大沢在昌の『闇先案内人』を手に取って読み始めたのが、昨年2002年11月のことである。夜逃げや稼業というよりもっとスケールがでかく、例えば経済事件(横領とか背任とか)を起こして、もう日本には居れなくなった(法の裁き、ヤクザ者の裁きから逃れる等)人物を、国外へ逃亡させることを生業とする男の物語である。つかみも面白く、なによりその設定が魅力的なため読み進めていたのだが、中盤に差し掛かってその国際情勢を背景とした設定を読み解くのが面倒になり、更に3日間晩酌をはさんで読むのを中断したために、その先に興味を失せて読むのをやめてしまったのである。この断読、最近よくある。中盤を一気に読ませる力がなく、後半の展開だけで読ませようとする作品(結構多い。普段は評者も我慢しながら、最後までお付き合いして、後半がいいと評価もよかったりするのだが)を、最近ではトシのせいかチョットしたタイミングで放り投げてしまうことに少し抵抗がなくなってきているようなのである。

 しかし、多くの人が支持する大沢在昌を、こんなことで、もう読まない作家の一群に加えるわけにはいかない。そこで。。。恥ずかしくもなんともないのだが、お恥ずかしい話をしよう。実は、以前より、あまり本を読まなかった時期があると述懐している評者なのだが、大沢在昌のブレイク作品『新宿鮫』がヒットした時期はまさにその時期で、『新宿鮫』シリーズはおろかその後の大沢作品も一冊も読んでいなかった評者なのである。たとえば、高村薫などはブレイクする前から読んでいたので、ブレイク後も“俺は昔からこの作家読んでたんだぜ”と得意な気持ちになって新刊を読み進めているのだが、ブレイクした作家の本を読む時期を逸すると、なかなか手に取れなくなるものである。

 文体が気に入らない場合、一冊読んでもう読まないと判断してもいいとは思うのだが、『闇先案内人』の文体は嫌いではなかった。原点に戻って古書店で100円で『新宿鮫』を買ってきて読み始めた評者。2002年12月のことである。発行は1990年である。面白かった(^o^)/温故知新とかいって書評にあげようかとも思ったのだが、単純に面白かっただけなので、ダラダラと今さら語ることもないかと思って書かなかった評者なのである。一応、評価は◎◎。“なにか面白い本はないかなあ”と言いながら、まだ『新宿鮫』を読んでいない方(評者以外にいるのか?)、どうぞお読みください。単純に面白いですぞ。

 で、2002年話題になった本書『砂の狩人』へワープ。完読だけ考えたとき、一冊目が1990年の作品で、二冊目が12年後の2002年の作品というのは、まさしくワープじゃなかろうか。この作品、評者にとっては長短あわせもった作品のような気がした。まず、つかみはOK。主人公の男が、房総の海でタコを手づかみで捕まえるシーンから始まる。岸へ戻ると、男女が二人待ち受けている。主人公が既にやめた組織、警察からの使者。ある事件解決の依頼。うーん、いいじゃないか。事情があって警察を辞めた男が、房総の海で食い扶持だけを捕獲するその日暮らし。そこへ、かつての組織がなぜ、どういう立場で男に依頼を持ち込もうというのか。いいじゃないか、このつかみ。ところがである。中盤『闇先案内人』のときのような、読みだるさを感じてしまった。主人公が警察を辞めてしまった事件に美学を感じない。何か、納得できない。また、主人公を指示する立場にある女警視正の一歩引けた態度が、現実味に欠けるのである。しかし、我慢、我慢。我慢して上巻をやり過ごし、下巻に入ったら、ああ、こりゃ面白いわ。なるほどね。評判になったわけだわ、という面白さ。えっ?どういう面白さかって?抜群に単純に面白いのじゃ。単純に面白い話の場合、それ以上書きたくないのじゃ。まあ、読んでみなされ。

 正直言って、単純に面白いのだが、こんな本ばかり読みつづけていると、広い意味での読書の楽しみに接することができないような気がする。人生の機微、家族愛、憎悪、感傷、感慨、機知、ユーモア、知識、啓発、啓蒙、心の洗濯、想像力、擬似体験その他モロモロ。本に何を求めるか人それぞれ違うのだろうが、本書を読んでもっと深味のある本を読みたくなった評者でもある。勿論、本書を否定はしない。いや、抜群に面白い。(20030320)


※もう読まない作家の一群って誰かって?ヒ・ミ・ツ。でも、はなから読まない作家の一群だったら数え切れないなあ。ああ、決して読まない作品群てのもあるなあ。チーズ本とか、地図の読めない女本とか。

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by kotodomo | 2005-06-19 23:11 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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