2005年 06月 20日
あとがきで作者も触れているのだが、本書『坊ちゃん忍者幕末見聞録』は漱石の『坊っちゃん』を由来にしている。しかし、どこが『坊っちゃん』なんだというと、どこがそうだといういうわけでもないし、しかしながら破天荒な粗筋、作者の筆捌きの余裕から生まれる文体は、やはり漱石を愛する作者の手際だろう。『「吾輩は猫である」殺人事件』などの本を既に出している作者は、やっぱりそういうとこで少しふざけたものも好みのようだが、貼られているレッテルは芥川賞受賞作家なのでお間違いなきよう。 冒頭の2ページ以外は、あまり忍術の妙味というのは記述されない。しかし、『坊っちゃん』の書き出し同様、勢いのある描写で主人公の周りの関係事が記述される。そして、粗筋を簡単に言うと、東北の地で忍者修行をしてきた松吉が、金持ちの息子寅太郎の、江戸での生活のつきそいに指名されるところから始まる。で、江戸に向かうのかと思いきや、まず、新潟へ行く。新潟から南下するのが早いのかと思いきや、京都に寄ってから江戸へ向かうという変な旅路なのである。 実際には、京都においての主人公と寅太郎、その他友人、知人、新撰組、薩長土肥もろもろのコミカルな物語である。少し、筆の余裕がありすぎて、現代へタイムスリップしてしまうような表現もあるが、これは作者の表現力の範囲だろう。 気楽に読める時代物である。いや、滑稽物かな。(20030414) ※鹿児島県立図書館で借りる。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-20 20:32
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