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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 21日

◎◎「終戦のローレライ」上下 福井晴敏 講談社 上巻1700円 下巻1900円 2002/12

◎◎「終戦のローレライ」上下 福井晴敏 講談社 上巻1700円 下巻1900円 2002/12_b0037682_054658.jpg
 毎年、年末になると、このミスや文春をはじめ、その年に出た本の人気ランキングが出る。その年のランキングとはいっても、12月初旬には発表するので、たとえばこのミスなどは、前年の11月からその年の10月までに発売された本を、ランキング投票の対象にしている。出版社側も、そのへんを大いに意識して、なるべく新たな印象を刷り込むために、たとえ8月に出版可能な本でも10月にずらして出版してくる。おかげで読者はたまったものじゃない。10月中に出た本をせっせと読んで、とっとと投票する結果となる。

 本書『終戦のローレライ』は昨年2002年の12月の出版。今年2003年のランキング対象になるのだが、この本が昨年の10月に間に合って出版されていたら、昨年のランキングは大いに様変わりしていたことだろう。えっ?横山秀夫『半落ち』と1位、2位を争うくらいの話じゃないのかって?いや、影響はそれだけにはとどまらない。通常、投票者は10月に出版された話題の本を慌てて数冊読むのだが、本書を手に取ると、多分他の本を読む暇がなくなるのである。結果、読者に読まれずに、高い得点をあげることの出来なかった本が増えたはずである。要するに、本書はそれだけ長い小説なのである。本腰入れて読んでもなかなか読み終えることのできない長編なのである。

 評者は本書を図書館で借りたが、図書館に行ってビックリ。本書が上巻しかなかったり、下巻しかなかったりする。普通評者の場合、どんなに長い小説でも、上下巻、もしくは上中下巻まとめて借りてくる。そうでないと気持ちも悪いし、最悪の場合、上巻は読んだけど下巻が借りれないという悲しい場面も想定されるからである。ところが本書の場合、上巻だけ、下巻だけ借りる人のなんと多いことよ。おかげで、評者は最初上巻だけ借りるはめになり、幸いにも下巻を借りていた人が期限内に返してくれたようで、下巻も間を置くことなく借りることができ、先に読み終えた上巻を返し、さあ下巻を堪能という時期に仕事がメチャ多忙となり、下巻を半分読んだところで、もはや返却期限となり、再度借りれない場合には、書店で下巻のみ買おうという変な購買の決意をし、しかしながら幸運にも再度借りることができ、ついでに上巻だけ棚に並んでいると、見た人が気持ちが悪かろうと、既に読んだ上巻まで再度借りてきたのである。という流れの中で、今評者の手元には、図書館から借りてきた本書上下巻が揃っているのだ、ワッハッハッハ。

 で、なんの話かというと、そう、本書が長い長い小説であるという話である。評者の場合、通常1時間に60頁の速さで本を読む。晩酌さえしなければ、会社から帰ってきても4時間くらいは読書に費やすので、500頁くらいの本であれば大体二日あれば足りる。1時間に60頁のスピードも、頁二段組の小説になると1時間40頁くらいのペースに落ちる。ところが、本書も二段組なのだが、その緻密な書き込みのため1時間に30頁くらいしか消化できない。加えて上巻450頁、下巻600頁(なんとアンバランスな上下巻だろう(笑)という約1050頁の分量。単純に計算して1050割る30はいくらだ?35だ。割り切れて気持ちがいい。そう、35時間もかけなきゃ読み終わらないのだよ。会社から帰って、毎日晩酌せず3時間半の読書を続けて10日もかかるのである。いやあ、ご苦労なことであった、自分。

 さて、本題。本書の題材は、題名通り終戦、いわゆる第二次世界大戦の日本の末期にある。内容については、是非自分で読んで欲しいので細かくは書かないが、本書を読みながら評者がつらつらと考えたことを、ダラダラと書いていこう。自分が兵隊にとられたらと考えたことは、幼き時分より何度もある。召集令状が来る前に逃げられないかな?戦場に行くはめになっても、特攻はいやだな等々。本書を読むと、潜水艦乗りにもなりたくない。長い潜航を余儀なくされ、節電のため空調を入れず室内気温は30度。おまけに二酸化炭素が空気中を段々と支配してくる。トイレの排水に支障が出れば、アンモニアほか雑多な気体の密室から抜け出すことはできない。当たり前だが窓などない。敵を感知するのもレーダーだし、敵から発射された魚雷も目に見えずレーダー感知という世界は、6畳くらいの真っ暗な密室で包丁を手にした二人の人間の殺し合いみたいで好きくない。回天などという名前の人間魚雷に入って、外から密閉され敵艦に突っ込んで行くのは想像もしたくない。9.11のテロやパレスチナの自爆テロのニュースを聴いて、なんとも恐ろしい、想像したくないと普通の人は考えるだろうが、あのやり方を発明して実行したのは大日本帝国なのだよ。クレイジーだったのだよ。狂っていたのだよ。みんなの憧れ戦艦大和も乗りたくない。当時においても時代遅れ。だって、どんなに凄い装備にしても空母にはかなわない。空母にとっては、大和の主砲の射程距離以上のところまで近づいて、あとは母艦から複数の飛行機を飛ばせば、重厚装備の戦艦大和もすぐお陀仏にできるのだから。

 原爆も考えよう。ポツダム宣言をすぐに受諾したら、あの二発の原爆は免れていたのだろうか。なかなか降伏しない日本に、最終兵器一発をお見舞いしても、受諾の返事がない。ならばと二発目。もし、それでも受諾しなければ三発目、四発目もあったのだろうか。大戦末期になって日本への宣戦布告をしたソ連。どうせ負ける日本。最終的には俺たちアメリカが降伏させたのだという、ソ連に見せるための兵器にしか過ぎなかったのか二発の原爆。原爆投下候補地は、広島、長崎、小倉、新潟。どれも重要な軍港、造船設備のあった都市。南の島を飛び立ったB29の航行高度は高く、日本の大戦末期の制空権のはるか上空を飛行。自由に爆心地上空に入り、トラブルなく帰還したエノラゲイ。でも、現代においてはなるべく近づいてから発射したほうがリスクが少ないので、潜水艦にも核兵器を装備させ、非核三原則が問題になる日米関係。などということを、つらつらと考えた評者なのである。

 物語のニュアンスをもう少し伝えるべく例をあげるとすれば映画『天空の城ラピュタ』か。不思議な力、飛空石を操れる少女。その力を利用しようとする大人たち。少女を守る少年バズーの物語は、本書にも重なるところがある。手塚治虫の『火の鳥』の壮大なスケール、松本零二の戦場シリーズに描かれる男たちの矜持。そんなところも思い出される。そう、今挙げた例からも推察できよう。本書は真っ正面に終戦を捉えた、SF要素の入った物語なのである。人により、絶賛派、肯定派、否定派いろいろわかれるであろう本書は、たとえどういうふうに感じようが、2003年度に確実に読んでおきたい一冊(いや二冊)である。今年の年末の話題についていきたい人は必読。

 ところで、今年のランキングで本書がどのように取り扱われるのかが注目されるところである。上位ランクインは間違いないだろう。あえて人間心理を読んで評者は予言しよう。多分、1位なる。宮部みゆきや横山秀夫やその他もろもろ気になるが、福井晴敏『終戦のローレライ』が1位になる、多分。このミスの場合、6作品を自分で優先順位をつけて投票できるのだが、多分本書を読んだ人は1位として投票しなくとも、6作品の中に選出するだろう。なぜか。本書が長い長い小説だからである。読み終えたという達成感で投票したくなるからである。ちゃんと読んだよと、他人に知らしめたくなるからである。6作品のリストに挙げないと、読んでないように思われるのがイヤだからである。でも本当は秀逸な作品、比類なき作品だからなのである。(20030504)


※書店に行ったなら、本書を是非手に取って、本の背中の作りを見てほしい。厚さに負けないように頑丈に作ってある。丸みを帯びず直角な背表紙の造本が珍しい。

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by kotodomo | 2005-06-21 00:54 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from a fruit knif.. at 2005-07-05 01:51
タイトル : 終戦のローレライ  福井晴敏
 まず浅倉良橘という男について。凄い天才肌。この男最初はまるでシャア=アズナブルのよう。最後は意外とかっこ悪いけど。作者はガンダムに絡んでる人だし映画の監督もエヴァとかに絡んでる人だ。折笠征人はアムロ=レイ。絹見はブライト、清永はリュウ。パウラはセイラさんでフリッツはキャスバル?人の心が読めるというローレライシステムもニュータイプみたいだしセッティングがアニメだよ。  でもそれはそれでストーリーはとてもよかったです。アニメも好きだし。戦争を否定しつつそれでもそこに生きる人たちを否定しない書き方は多くの...... more


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