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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 28日

▲「繋がれた明日」 真保裕一 朝日新聞社 1700円 2003/5


 殺人の罪を犯した人物が服役して罪を償った後、あなたの地域、あなたの職場等に現れたら、あなたは普通の人として受けとめることができるだろうか。いや、罪を償ったわけだから、普通の人として受けとめますよ、なんて即答はやめて、以下の馬鹿話から始まる現実の問題として考えてから答えてもらいたい。

 全国の聖月ファンの女子高生から寄せられるお便りに一番多いのが"聖月っちの職業って何なの?アタシ、聖月っちのことならなんでも知りたいの♪オ・シ・エ・テ"という内容のものである。イチイチ同じ答えを返すのも面倒なので、ここで明らかにしておこう、全国の女子高生ファンよ。評者聖月は鹿児島の公共工事請負業の建設会社勤務でありながら生コン会社と測量設計会社の面倒まで見て、総務所属の名刺に加えISO室などというわけのわからん所属の名刺まで持ち歩き、八面六臂な活躍をするスーパーサラリーマンなのである。要するに八つの顔を持ち、六つの臂(ひじ)を持ち合わせるスーパー歌舞伎八変化早変わり的サラリーマンなのである。そりゃ、さぞかしお忙しいでしょう、夜も遅いでしょうとか言われそうだが、夕方5時半には帰って、6時には自宅に着いている(←威張るなよ(笑)。それならそれで、会社の中で一心不乱にお仕事なさっているわけでしょうとか言われそうだが、まだまだ余裕がある。なんせ、会社のみオンラインの生活なので(※自宅にPC買った。ヤフーBBがOKとの話だったので申し込んだがダメだった。NTTが工事に来て、ダメで、また元に戻す工事して、結局光ファイバーのほうしか対応できないらしい。その後どうするかは嫁さんに任せたきりである)、数個のサイトをチェックするくらいの余裕はあるのである、エヘン(←だから威張るなよ)。

 おまけに公職なんてのまであるスーパー歌舞伎サラリーマンである。評者は鹿児島西署の警察署協議会の委員である。何それ?って知らない人も多いだろうが、2001年4月、開かれた警察を作ろうと法律が定められ、全国的に一警察署、一協議会が設けられたのである。当時、結構ニュースでも取り沙汰された話で、不良少女から弁護士に転身した『だから、あなたも生きぬいて』の著者大平光代女史も、どこかの協議会の委員に選ばれたなんてニュースも見た記憶がある。年4回、警察署長と協議会委員の会合が持たれる。署長から最近の情勢が語られ、委員からはそれに対する質問や、その他質問などが寄せられる。この会議は誰でも傍聴可能(でも誰も来ないけど)、議事録も希望者には公開と開かれたものなので、ここにそこでの内容を書いたとしても、なんら問題ないのである。メンバーは多種多様。評者はここ8年くらい安全運転管理協議会の青年部会長というのをやってきたので、とりあえず署が声をかけやすかったサラリーマン代表である。しかし、この委員の肩書きは個人に属するものなので、そういう意味では、会社員代表、子を持つ親の代表、自分の住む地区の代表でもある。それ以外には、弁護士、先生、医師、会社社長、おばさん(どうやら民生委員らしい)、駅長などなどの肩書きのお歴々。先生は生活指導、駅長は駅周辺の治安などで、元々警察と繋がりがあるのは明白。じゃあ医師は?なんていうと、検死医もやる方のようである。

 その中に一人、シロアリ屋のおやじがいる。別の肩書きが何かあるんだろうと思ってはいたが、先日その人の発言で正体がわかった。やはり、シロアリ屋だから呼ばれているわけじゃなかったのだ。"私、地区で保護司の仕事をやっておるんですが、例えば強姦とか痴漢とか女性の敵みたいな人物が刑を終えて帰ってくるわけで、それを帰ってきた地区の住民が知る手立てっていうのがないわけなんです。まあ、噂としては流れますが、なんかこう人権ばっかりでねえ。警察としては何か対応できないのでしょうか"署長"昔は刑務所から人が出てその地区に帰ってくるなんて話だと、警察も知っていましたが、今は警察も直接知らされることはありません。法務省の管轄だというのもありますが、人権がうるさい。罪を犯しても服役して罪を償い、刑期を終えた時点で、普通の人に戻るわけです。普通の人がその地区に帰ってくるわけですから、例え知っていたとしても、警戒しろ、とかそんなことは言えないわけなんですね。実際には、法務省の管轄で犯罪被害者等通知制度というのがあって、被害者などには犯人がいつ刑期を終えるというのは知らされます。これは人権を離れて、最近のストーカー被害とか暴力団のお礼参りとか、そういう加えての被害を防止するためですね。ですから、被害者がその地区にいる場合は自然とその地区に噂が流れるかもしれませんが、そうじゃない場合は例え常習的病的強姦魔や殺人者が刑を終えたのち、どこに住むとか、そこの住民に警報をとか、そういう対応が取れないのが人権なんですね。どんな悪い癖を持っていて誰が見てもまた何かやりそうだ、というような人間でも刑を終えた時点で普通の人なんですからね、いや常識的には変なのですがねえ。"そうシロアリ屋のおやじの正体は保護司さんなのであった。本書『繋がれた明日』にも出てくるが、仮出所した人物には保護司がつき、仮釈放中の面倒を見る反面、法に背くことのないようお目付けの役目もおこなう大切な仕事である。

 ところで、上記の会話を読んで、冒頭の問いにあなたはどう答えるだろう。我々は映画やテレビを見すぎていて、出所してきた高倉健(映画:幸福の黄色いハンカチ)が思い浮かび、思わず人を殺めただけで、罪は償ったんだ、ほんとはいいやつなんだと頭では思ってしまう。でも、本当に悪いやつはいるのだ。数々の強姦、そして最後には強姦殺人で捕まった犯人が刑を終えてあなたの隣の家へ戻ってくる。もう刑期を終えたわけで、そういう意味で犯人ではないのだが、あなたの頭では「あの犯人が帰ってくる」という事実で浮かびあがるだろう。自分や家族は被害者ではなかったとしても、はたしてあなたは普通の人してお付き合いする気があるかな?

 本書『繋がれた明日』は、出版前に著者自身が語っているが、殺人とかはよく題材にされるのに、刑を終えたあとのことは、中々語られない、自分はそれを書きたかった、ということである。結局、読んでいて今ひとつだった原因が、そこにある。この小説は、刑を終えた後の人生の描写の物語であり、それ以上でもそれ以下でもないというところにある。

 当然、主人公は普通の人間としてやり直そうとする。そしてそこに世間の悪意や家族の苦悩が厳然として現れる。加えて主人公がちょっとした弾みで人を殺めた人物かというと、どうも評者自身や一般の人とは違う、殺すべくして殺したタイプに思えて共感が持てないのである。

 真保裕一=取材の人、の構図は、新しい本を重ねるごとに薄れてきているような気がする。もっともっと、いろんなこと調べましたっていうやつを、読者としては期待しているのである。仮釈放の薀蓄以外は、人間模様だけで読ませようとしても、題材自体がが暗いので気は重くなるばかりである。加えて今回の題材、犯罪者とその家族という観点からしてみれば、東野圭吾『手紙』と出版時期が重なったという意味でも新鮮味はないし、自身の『発火点』も類似の題材であったことに気付いていないのではないだろうか。高野和明の『13階段』もそうだし、手垢だらけの題材だと思うのだが。(20031008)


※鹿児島県立図書館で借りる。5月出版の真保裕一の新作が棚に並んでいると、面白くなさそうと思っても、つい借りてしまう。これが同じく面白くなさそうと思っている『黄金の島』だと、目についても全然借りる気がしないのだから不思議な現象である。まあ、時期的な押さえ本として読んじゃうんだろうなあ。

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by kotodomo | 2005-06-28 21:40 | 書評 | Trackback(1) | Comments(2)
Tracked from たこの感想文 at 2006-08-14 10:50
タイトル : (書評)繋がれた明日
著者:真保裕一 繋がれた明日価格:¥ 760(税込)発売日:2006-02-07... more
Commented by 真保裕一 ファン at 2006-05-13 14:45 x
「繋がれた明日」読みました。発火点と似ているとは確かに思いましたが、発火点のときよりもできがとてもよかったと思います。真保作品はいままで緻密な取材に基づくリアリティのある作品が好きだったのですが、この「繋がれた明日」のように心情描写が的確にできるなら、こういう系統の作品でもよいなぁと思いました。
真保作品の感想や投票がこちらにあるので、よろしければ見に来てくださいね。
http://www.shimpo-fan.com/
Commented by 聖月 at 2006-05-13 15:20 x
真保裕一、実はまだ・・・『ホワイトアウト』未読中、積読中。
真保裕一ファンにはなりきれず・・・『ストロボ』ファンなのです(^.^)

でも、最新作は読みたいので・・・ファンなのかなあ。


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