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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 30日

◎「山ん中の獅見朋成雄」 舞城王太郎 講談社 1500円 2003/9


 題名が多分読めないと思うのだが、獅見朋成雄(しみともなるお)は中学生主人公の名前である。本書は、舞城が書いた文芸寄りの作品であり、舞城版「千と千尋の神隠し」もしくは『霧のむこうのふしぎな町』といった風情で、獅見朋成雄少年が山ん中の、別の山ん中にまぎれこんでいく、そんなお話なのである。

 文芸寄りと書いたが、今回の舞城、ひとつひとつの描写を大事に書いている。音とか味とか植物とか、そういった物を優れた感覚で大事に表現している。特に音、もしくは擬音。「しゅりんこき しゅりんこき しゅりんこき」これは何の音だろう。主人公の少年が、書をしようと墨を磨る。書道と縁のなかった評者も、小学校の必修で墨を磨ったものだった。"なんで墨汁があるのに、墨磨らないといかんのかなあ?"なんて思いながら。主人公の少年は、山の湧き水を使い、心を正して墨を磨る。そして、慣れてくると、墨はこういう音を立て始めるのである。しゅりんこき しゅりんこき しゅりんこき

 これまでの舞城作品といえば、エログロが必須であった。評者が"エログロを自重すればもっといい作品が書けるはず"と思っていた願いが届いたのかどうか知らないが(ウソ、届くわけがない)、今回はそれがない。ある題材が、一見少しグロテスクに思えるかもしれないが、それはグロというよりはアンチ・モラルもしくはタブーの象徴かと感じる。 そうそう、今回は音の描写などもそうなのだが、自問自答の表現方法が新鮮に感じられたぞ。終わり。えっ?もう終わり。そう、終わり。短いじゃん。短いよ。舞城なのに?舞城でも。好きなんでしょ?そう、好きだよ舞城。いい作品なんでしょう?いい作品だよ、これ。で、もう終わり?うん、終わり。そう、終わり。短いけれど、これで終わり。◎◎つけなかったけど、新鮮な作品である。読むべし。(20031102)


※鹿児島市立図書館で借りる。

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by kotodomo | 2005-06-30 07:34 | 書評 | Trackback(2) | Comments(0)
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-07-14 09:12
タイトル : 「山ん中の獅見朋成雄」舞城王太郎
山ん中の獅見朋成雄舞城 王太郎 / 講談社(2003/10)Amazonランキング:67,617位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog どうでもいいことなんだけど、図書館からいきなり舞城王太郎作品が消えましてね。 今までは全部揃ってずらっと並んでいて選び放題借り放題だったので、 私専用の舞城スペース、いつだって借りれるわ〜、と逆に油断して 借りてなかったのが、ある日突然1冊残らず消えてしまった。 もしや、有害図書を置かないで...... more
Tracked from たこの感想文 at 2005-12-01 16:12
タイトル : (書評)山ん中の獅見朋成雄
著者:舞城王太郎 先祖代々、背中に立派な鬣が生える家系に生まれた中学生・成雄。彼... more


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