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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 30日

〇「陰摩羅鬼の瑕」 京極夏彦 講談社ノベルス 1500円 2003/8


 多くの人に人気の京極堂シリーズは『姑獲鳥の夏』『魍魎の函』『狂骨の夢』と3作目までは読んだのだが、京極堂がダラダラと展開する薀蓄に少し辟易して、その後読んでこなかった評者なのである。作品ごとに展開される薀蓄は、客観的にはなかなかの雑学で、1作目を読んだとき"よし、次作は薀蓄を舐めるように読んで作品を堪能するぞ!"と反省した猿みたいな評者なのだが、2作目でも面倒になって流し読み、"よし、3作目は今度こそ薀蓄を堪能じゃ!"と再度奮起するも、やはり流し読みしてしまう学習能力のない猿みたいな評者なのである。

 その評者が何ゆえにシリーズ途中を読まないまま本書『陰摩羅鬼(おんもらき)の瑕』を手に取ったかというと、図書館に"借りてください、この私"みたいな感じで、出版後この時期に借りれるとは思わなかった人気本が、ポツネンと置いてあったからにほかならない。ノベルスで2段組750頁、価格1500円、今年の年末総括において、ある程度話題になるはずだから、こりゃタダとくれば、読むのに時間がかかりそうだけど、貧乏根性な猿評者は借りないわけにはいかないのである。

 今回の舞台は、長野は白樺湖畔、鳥の剥製がワンサカ飾られている俗称鳥の城でのお話である。で、この白樺湖、評者は以前ホテルマンとして長野に君臨していたと書評内でも何度か触れているが、よく知っている湖なのである。評者が君臨していたのは蓼科湖畔。そこから30分程車を走らせると白樺湖なのだが、山の上での30分はこれ近所ってな感覚であり、よく行ったものである。昼飯食いに行ったり、夜は飲み屋になっている観光食堂に行ってみたり、氷結した湖を観に行ったりである。

 ところで、実は当時ビックリした話がある。この白樺湖が人工の湖だというのである。そう小さくもなく、冬場にはワカサギ釣りとかでも賑わう湖が人工湖?なんて驚いた評者なのだが、本書『陰摩羅鬼の瑕』の舞台は戦後のことであり、そこらへんの事情、なにゆえに人工湖が出来たのかが書いてあって、今更にナルホドな納得をした評者なのである。長野君臨当時、ほんとに人工なのかな?と疑問に思っていた評者に"今、白樺湖に行ってみな。驚くよ"と人が言う。早速、車を走らせてドライブに興じる評者の目の前に現れた白樺湖は、な、なんと!水が抜かれておった!なんでも定期的に、そういう作業があるらしい。その間、湖に棲息する生物をどういう扱いをするのかまでは確認できなかった評者なのであるが、やはりこういう作業を目撃すると、ああ人工なのだなと得心した評者なのである。

 で、本題。その白樺湖畔の鳥の城で、伯爵の結婚式が催される。実は、この伯爵5回目の結婚になるのだが、過去の4回ともに花嫁は結婚式の翌朝には変死を遂げているという。今回こそは花嫁を守るべく、探偵榎木津が呼ばれるのだが、なぜか榎木津は一時的な失明中で移動が困難。付き添いで、毎回愚鈍で読者をイライラさせる売文作家関口巽ものっけから登場である。

 しかし、今回の関口巽、意外にイライラさせないというか、自分の行動や言動に対しての心中描写があって、そこが結構面白いのである。例えば評者がビジネスで人と行動を共にする。一人はよく知った自分の上司、もう一人は初めてお会いした取引先のお偉いさん。一緒にある所を訪問する途中、信号待ちのところで上司が言う。"ちょっと用をたしてきますので、お二人、ここでお待ちを"とどこぞにいなくなる。"ウンコか…"と思う評者。しかしそれより、横に立つお偉いさんとの場持ち、束の間の会話をいかんせん?"どうやらウンコに行ったみたいですね"とも切り出せないし。と、目の前に凄く変わった感じの、贅を尽くしたような改造キャンピングカーが信号待ちで停まる。お偉いさんのほうから語りだしてくれる。ラッキー。"ほお、なんだか珍しい感じの車ですなあ"おお、うまい受け答えをしなくちゃと評者の心中。気のきいた会話をしなくちゃ、ええと、ええと…"すごい、高いんでしょうねえ、こんな車"お前は馬鹿か、自分!俺の馬鹿!コンコンチキ!!それじゃあ"高いんでしょうなあ"と相手が答えて会話はお終いだし、会話のレベルが低いなと相手に思われるだけじゃねえか、アホ…、というように、関口巽の愚鈍さが心中吐露で実況中継されるので、このパート面白いのである。

 一方、読者の大好きな探偵榎木津はというと、最初から登場して、場面場面でその奇異な能力、奇行、奇言で楽しませてくれる。本シリーズでの一番の楽しみのパートなのだが、もう少し活躍してほしかったし、最後の憑物落しの部分では、そこにいるはずなのに存在感に欠けたのが残念無念。

 そして京極堂。あんた、五月蝿い。あんた、お喋り。あんた、薀蓄がしつこい。あんた、結論が最初でわかっているなら、最初で言え、最初で。勿体ぶるな!薀蓄でべらべら喋るのに、真相の話になって口を噤むな!あんたさん!京極堂さん!

 結局、今回も薀蓄部分を飛ばし読みした評者なのであった。そうそう、今回の謎は、京極堂が説明しなくとも、多くの読者は途中で結果をある程度予想出来たんじゃないかな?そういう意味で、京極堂、あんた登場しなくてよかったんじゃないかな?細部を繋ぎ合わせる理由や背景を説明するための役割のようだが、なんせその部分読み飛ばしちゃったもんね、ワシ。ハハハ。(20031119)


※ああ、これか、と思った評者。手持ちのシリーズ3作目まではとっていなかった作文手法。噂には聞いていたが、ああ、これか、と思った評者。2段組なのだが、上段の終わりにはちゃんと句点がついて文章が終わる。下段の終わり、要するに頁の終わりにも、ちゃんと句点がついて文章が終わる。750頁を通してである。読者が読みやすいようにの配慮と聞いているが、たいしたことじゃない。改行を多用しているだけだ。でも、やっぱ、凄いのかな、これって?

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by kotodomo | 2005-06-30 14:18 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from 日記風雑読書きなぐり at 2005-06-30 15:18
タイトル : ミステリーにおける饒舌の効用と瑕について
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