2005年 06月 30日
このミス1994年版の第10位の作品にして(←これの持つ意味は評者にはわかる)、CWA賞のシルヴァー・ダガー獲得作品である(←これの持つ意味を実感できる日本人は多いのか?評者は、ようわからん)。 何回も過去のこのミスを(トイレで)読み返している評者は、ランクイン作品の概要は大体知っている。この作品で知ったいたことは、主人公が女子プロレスラーで悪役でブスだということである。想像していたことは、そんな外見とは裏腹に、誠実で心優しい乙女探偵の物語だと思っていたのだが…違った。 主人公エヴァは、どこか心優しいところもあるのだが、路上駐車の車はドンドン拝借するし、ストアに入ると万引きしようか買おうか迷うし、汚い言葉はいくらでも出てくるし、とてもとても愛らしいとは言えない女性である。しかしながら、物語自体がエヴァの視点で一人称のユーモアハードボイルド文体として語られるので、読むほうは次第にエヴァの応援団となり、エヴァと一緒に数々の困難を乗り越えていくこととなるのである。 もうひとつ勘違いしていたことに、悪役女子プロレスラーが事件を解決する物語だと思い込んでいたことがある。本書には、あまりミステリー性はない。結局、主人公が事件を解決する物語ではなく、主人公が自分の目の前の問題を解決する物語なのである。当然、どうやって乗り越えることができるのか、というようなトラブルに主人公は巻き込まれていくのだが。 本書の興味深いところは、当然、普段知らないプロレスの世界の描写にある。読んでいて、評者も懐かしい記憶を喚起させられた。今は観ないのだが、子供の頃はオヤジの影響で、結構テレビでプロレスを観たものである。悪役レスラーが凶器(栓抜きとか)で、日本人レスラーの頭を突く。レフリーは見ていない。観客が騒ぎ、レフリーが見ようとすると、凶器をパンツの中に隠し、悪役は手を出して、“ノー、ノー”。で、レフリーが目を離すと、また凶器を取り出し…今、考えるとショーアップの出し物なのだが、当時は“レフリー、しっかり見ろ。凶器を持っているぞ!なんで、ちゃんと見ないんだ。このレフリー駄目だ!”なんて、本気で思ってイライラハラハラしていたものである。評者も純粋だったのね。 しかし、なんといっても本書の最大の魅力は、主人公視点で語られるハードボイルド文体にあるだろう。ユーモア、皮肉、自問、そういうのが合わさった軽妙な文体である。一人称の軽妙洒脱なハードボイルドというものが、よくわからんという方には、夕べ交わされた下の娘(幼稚園年長さん)と嫁さん(自称:32歳)の会話を紹介しよう。 「ママ、どうして私の好きなイクラさんは、赤い卵なの?」 「ええとね、イクラさんは鮭の卵なの。ほら鮭も身が赤いでしょ。だからかな?」 「ママ~、私、鮭ってよく知らないの。っていうか、まだ6歳だし、この地球のことはまだわからい ことばっかりなの~♪」 評者解説:評者はこのとき納豆を食っていたが、下の娘の好物ということで、お婆ちゃんが買ってくれたイクラが下の娘にだけ出されていた。評者もイクラは好きである。嫁さんが言うには、お婆ちゃんが下の娘に買ってあげたイクラだからということである。まあ、そんなことはどうでもよいとして、卵=玉子の色という概念から一歩踏み出した、娘の素朴な疑問が発生。それに、いい加減な返事をしている我が嫁さん。なにが身が赤ければ、卵は赤いだよ。卵が赤いから鮭は赤いんだよ!ってなあウソで、なんか他に理由があるのかどうか評者も知らん。保護色とかさ。で、最後の娘のハードボイルドな発言。娘は、私知らないこといっぱいあるの、と言いたかったらしい。世の中のこと=地球のことの言い換えが100%可能だと思っての、ああいう生意気ハードボイルド会話の出現になったのだと思うのだが…。もしかしたら、彼女は自分が宇宙人だということを、育ての親に暗に匂わせたかったのか?多分、彼女は嫁さんから生まれた地球人で、どっかで入れ替わった可能性はないと思うのだが…。(20031211) ※鹿児島県立図書館で借りたが、普通のハヤカワ文庫にもなっている。値段は740円。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-06-30 15:21
| 書評
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