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「本のことども」by聖月

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2005年 06月 30日

◎◎「LAST」 石田衣良 講談社 1600円 2003/9


 石田衣良について言えば、2年前『池袋ウエストゲートパーク』文庫を定価で買って、未だに積んだまんまである。それだけである。で、直木賞受賞ということもあって、最近『4TEEN』読んでみたいなと思っていたら(←そんなことより、はよ『池袋ウエストゲートパーク』を読め、ボケ)、今回図書館に本書『LAST』が置いてあったので、著者借りしたというわけである。

 初石田衣良、それも短編、評価は如何に?スコブルよろしい。素晴らしい。何が素晴らしいかって、短編ひとつひとつの力強さ、完成度といものが、狭い本書の中にギシギシに詰まっているって感じなのである。短編集というと、面白かったり、何気なかったり、よくわからなかったり、という小品が一緒になって、総体として中々面白いのかな、というパターンがほとんどのような気がする。過去、そう感じなかった作品は、本書とは文体が違うが、高村薫『地を這う虫』くらいのものである。とにかく、収められた7編の短編、どれをとっても小説としての醍醐味を欠いていない(って表現は日本語的におかしいかな?まあいいや)、パワーのある、それでいて物語性のある作品群なのである。

 収められた7つの短編の題名には、すべて“LAST~”の形容詞がつく。“LAST”という言葉も、簡単なようで意外に意味が深く、過去の意味でも未来の意味でも、いろんな場面で使われる。本書の中では、もうあとがなく最後の、といったところだろうか。

 「LAST RIDE」最後に乗るわけだ。「LAST JOB」もうあとがなく選んだ職業とは?「LAST CALL」テレクラが舞台。「LAST HOME」駅のホームかと思えば、家のこと。「LAST DRAW」このドローの意味は多岐に渡る。試合のドロー。カーテンや引き出しを引くのもドロー。絵を描くのもドロー。さて、どの意味のドローかな?「LAST SHOOT」サッカーじゃないよ。画像のショット。「LAST BATTLE」勿論、あとのない戦い。

 ところで、本書で描かれる人々は、世の中の本流にいない人びとばかり。順に言うと、借金苦にあえぐ印刷会社の経営者、ゆとりローンが終わり家計のやりくりがカードにまで波及している若奥さん、営業の合間にテレクラ通いのサラリーマン、住むとこもなくしてしまうフリーター、サラ金苦男、雇われカメラマン。そして最後の「LAST BATTLE」の主人公の職業が興味深い。新橋駅前でサラ金会社の看板を持って、一日中突っ立っている仕事なのである。看板を設置すると法律がうるさい、しかし人間が持つとこれは移動可能となるので法律はうるさくない、そんな職業なのである。なんでそんな職業に?そんで、いくら貰えるの?

 もうひとつ興味深かったのが「LAST CALL」の舞台のテレクラ。評者はiモードや携帯メールの世界とは関わりがないので、出会い系サイトがどんな仕組みになっているかも知らない。それ以前のテレクラの仕組みも知らなかったので、この話を読んでやっと理解した。テレクラっていうのは、テレクラって場所があるのも知らなかった評者。逆にそういう店舗形態ということでテレクラは費用がかさみ、現在では出会い系サイトに客が流れていると…なるほどね。

 とにかく読んでみてほしい、本書『LAST』。短編集というには語弊あり。優れた作品の集積本である。石田衣良の作品を初めて読んだわけで…ずっと読んできた人には、いや、あっちのほうが面白いとか、色んな意見があると思うが…評者の意見は、読むべし。(20031213)


※あんたこそ『池袋ウエストゲートパーク』を早く読むべし、と言われそう(笑)。

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by kotodomo | 2005-06-30 15:24 | 書評 | Trackback(5) | Comments(2)
Tracked from 本を読む女。改訂版 at 2005-11-22 09:31
タイトル : 「LAST」石田衣良
LAST (ラスト)発売元: 講談社価格: ¥ 560発売日: 2005/08/12売上ランキング: 1,866おすすめ度 posted with Socialtunes at 2005/11/21 大阪の市街地に行くと、たまに看板持ちのおじさんを見かける。 風俗業界の看板を持って、ずっと立っている。 私はよく彼らの横を通り過ぎたりしてたと思うが、あまり気にしたことがない。 1回くらい、大変やなあって思ったことがあるかもしれない。 石田作品では、そういう風に社会から忘れ去られてしまっ...... more
Tracked from たりぃの読書三昧な日々 at 2005-12-10 21:15
タイトル : 「LAST(ラスト)」(石田衣良著)
今回は 「LAST(ラスト)」 石田 衣良著 です。この本はぎりぎりまで追い詰められたラストの瞬間の人々の選択を描いた、7編の短編を収録した短編集です。... more
Tracked from "やぎっちょ"のベストブ.. at 2006-10-22 18:04
タイトル : LAST 石田衣良
LAST (ラスト) ■やぎっちょ書評 石田衣良作品はこれが二冊目。前は「娼年」でしたが、こんかのこのLASTもどっちもダークサイド系ですよね? この本では追い詰めらたりして落ちていく様子が短編でまとめられています。ちょっと重かった。けど、リアルでもあり、文章のもた...... more
Tracked from のほほんの本 at 2007-06-03 19:51
タイトル : LAST (ラスト)
石田衣良『LAST (ラスト) 』(講談社 2005) 評価:★★★★☆ これは面白かったですね。 人々のラストを描いた短編集なんですが、やはり石田さんはテンポが良いし、読ませてくれますよ。 さくさく読めて、そして緊迫した展開が楽しませてくれました。 アドレナリ...... more
Tracked from π(パイ) 〜無限の可.. at 2008-01-19 11:52
タイトル : 本を読もう*。・+(*゚∀゚*)+・。*
最近、図書館によく行きます。 行くたびに6冊ずつ本を借ります。 本屋さんで立ち読みしたのも含めると、この2週間ほどで 25冊は読んでると思う。 本を読むのって、すごく楽しい☆・゚:。*ヾ(´∀`*)人(*´∀`)ノ*。:゚・☆ ... more
Commented by ヾ(=ΘΘ=)ノ at 2005-06-30 20:56 x
そうそう、これこれ。「LAST 何とか」ってのがずらりのやつ、読もうと思ってたんだった!初石田作品はこれにしましょう。再掲書評も、いいことあるねえ。
Commented by 聖月 at 2005-06-30 22:23 x
再掲書評もいいとこあるって、あなた・・・(^^ゞ
今、この作業がどういう意味を持っているのか、知らんっしょ?
世の中のブログで再掲ブーム作業が流行っているのだよ(^.^)
でも、310冊くらいまでいったんで、もうすぐ作業は終わりかな。
石田衣良、カチッと決まった一冊かと。四季さんあたりは、ダークとかホラーっぽいとか言ってたけど、自分には決まっていた短編集でしたぞ。
あと長編の貫井徳郎「追憶のかけら」これはぶひさんも好評だったが、読むべし。読みごたえあり!


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