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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 01日

〇「沈黙博物館」 小川洋子 筑摩書房 1800円 2000/9


なんか、とても良い作品のような気もしたけど、傑作『博士の愛した数式』を読んだ直後じゃ仕方がない。評価は〇。それと、ある作家を評するために他の作家の作風を引き合いに出すと、引き合いに出された作家の作風を知らない人が読んだとき、全然参考にならない結果となるのでなるべくなら避けたかったのだが、本書『沈黙博物館』の筆致を読み続けながらずっと頭から離れなかったので、そのことをあえて言おう。本書を読みながらの感じ、読後感含め、本書の筆致は、セックス話、ユーモア饒舌会話を抜いた村上春樹っていう感じかな。もっと具体的に言うと村上春樹の傑作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のハードボイルド・ワンダーランドの部分をなくしてしまって、世界の終りの部分だけで書き上げてしまったような、『海辺のカフカ』のナカタさんの部分を抜いてしまって少年カフカの部分だけで書き上げてしまったような筆致の小説である。悪く言えばワサビ抜きの村上春樹。よく言えば村上春樹的静謐な筆致の物語なのである。

主人公の僕は、ある村へ赴く。簡単な身の回り品と顕微鏡と『博物館学』と『アンネの日記』が僕の僅かな持ち物。老婆と清楚な少女が住むお屋敷で、僕は奇妙な博物館を作る作業を始める。どこか無国籍なこの村では、卵細工が工芸品。街角には沈黙の伝道師の姿が。僕は博物館作りの作業の合間に、兄に手紙を書いてみたり、顕微鏡で色んなものを覗いてみたり。

『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞した小川洋子。冒頭で言及した大傑作『博士の愛した数式』もそういった文芸的な傾向の作品。ところが本書『沈黙博物館』はこのミス2001年版の巻末リストにも載っているし、ミステリチャンネルが選ぶ闘うベストテンでは『動機』横山秀夫より上位の第5位。ただし、純粋なミステリーではなく、そういう要素も持った、やはり文芸寄りの作品なのかな。いしいしんじ+(村上春樹-セックスライフ-コミカルハードボイルド風味)=『沈黙博物館』(って、また他の作家の作風を引き合いに出してしまった(笑)いしいしんじ未読の方、意味がわからずにゴメンナサイ)(20040129)


※とりあえず、もう1冊くらいは読んでおこうかなあ、小川洋子。

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by kotodomo | 2005-07-01 09:18 | 書評 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from デコ親父はいつも減量中 at 2006-06-07 23:44
タイトル : 沈黙博物館<小川洋子>−(本:今年53冊目)−
筑摩書房 (2000/09) ASIN: 4480803556 評価:86点(100点満点) (ネタバレあります) 「博士の愛した数式」についで、著者の本を読むのはこれが2冊目。 まったくの小川洋子ビギナーだったが、この本を読み終わるころには彼女の世界観にどっぷりと浸かっていた。 ....... more


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