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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 01日

〇「銀弾の森 禿鷹Ⅲ」 逢坂剛 文藝春秋 1524円 2003/11


 悪徳刑事禿鷹シリーズ第3弾。禿鷹Ⅱが面白かったので、それと比べるとやや単調。しかし、シリーズをⅡまで読み進めてきた読者にはそこそこ面白いし、必読かと。逆にⅠもⅡも読んでいない読者がいきなりこの作品から読んだとしたら、禿鷹の人物描写とかに説明不足を感じてイマイチ消化不良じゃないのかな。

 シリーズを知らない方のために説明すると、舞台は渋谷。二つの日本の暴力組織に、南米系の暴力組織がぶつかる構図。この三つの組織のパワーの綱引きに、神宮署の一匹狼刑事:通称ハゲタカが絡んでの、闇世界、裏世界、暴力世界をサラリとマッタリと書いた物語なのである。この禿鷹という刑事が悪い。悪の世界を仕切っている輩を、それを上回る悪で仕切る。心底悪いやつなのだが、服装のセンスはいいし、セリフは的を射ていて頭のキレを伺わせるし、とにかく強くてしょうがないし、なんか凄い悪い心を持ったゴルゴ13が刑事をやっているようで、嫌なやつなんだけど主人公でもまあいいか、といった具合である。

 今回の物語は、よくよく考えてみると可笑しい。読後、よく設定を考えてみると可笑しい。シリーズⅠやⅡでは、暴力組織の抗争や利権があり、そこに乗じて悪を働いた禿鷹の活躍?の物語であった。ところが本書では、暴力組織の人々は、平和に平和に過ごしている。裏の世界の金を吸い上げるようなシノギの構図は変わらないが、組織どうしが抗争を起こすとかいう動きもなく、オトナシクオトナシク過ごしている。火の気もなく煙も立たないような平和の中に、禿鷹が勝手に火の粉を撒き散らし、まるで暴力の放火魔となった禿鷹のせいで、渋谷の街には疑心暗鬼の薄闇がかかる。そう、今回は禿鷹が一人で事件を起こして、一人で悪を支配し、一人で活躍するので可笑しいのである。暴力組織の人々はオトナシクしているのに、悪徳刑事が一人でハシャイデいるのが、なんか可笑しいのである。

 これまでと違い、暴力組織どうしの難しい利権とか、海外からの殺し屋参上とか、そういう特別な設定は本書には一切ない。ただ、禿鷹が一人でハシャイデ終わる物語なのである。興味のある方は、どうぞご笑覧あれかし。(20040217)


※シリーズ中、Ⅱは必見。ただし、やはりⅠがあってのⅡなので、読んでみたいかたは二冊セットで読まれればいいかも知れない。Ⅲはその延長線上で。

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by kotodomo | 2005-07-01 09:43 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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