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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 01日

◎◎「ダークライン」 ジョー・R・ランズデール 早川書房 1800円 2003/3


 いやあ、いい本を読まさせていただきました、というのが読後の素直な感想である。素敵な少年小説、素敵な家族小説、素敵な時代、そして根底にはミステリーのタペストリー。1950年代のアメリカ南部の少年主人公物語。ゴシックミステリーではマキャモンの『少年時代』、普通小説としてはグレシャムの『ペインテッド・ハウス』という傑作が思い浮かぶが、読む者の頁を繰る手を止めないという意味では本書『ダークライン』のほうが遥かに上。でも、直接的に『少年時代』のような硬球の直球作品とは比べられない、また違った位置にある物語でもある。本書は、そう子供たちがワンバウンド竹箒野球で使う、テニス用の軟式ボールというところか。エッ?球種?球種はだからワンバウンド。それだけ、誰でも親しめ、遊びの部分も多い、エンターテイメントな物語である。

 13歳の少年主人公の父親は、家族にも相談せず、勝手に強引に売りに出たドライブ・イン・シアターを買って運営に乗り出す、強引で強い南部の父親。でも、今のアメリカの女性が強くなったように、この頃から母親も強くなりだす時代。だから少年の母親もしっかりした意見を持っているし、父親を立てながら家族の柱でもある。主人公には姉がいる。美人で人気者で社交的。その姉の部屋のゴミ箱で、父親がゴム風船を見つけるところから、家族の描写が深まって行く。あとの家族はナブという犬と、肌の黒い使用人が二人。

 ミステリー的には、森の中で発見した古い手紙から、その昔、同じ夜に別の場所で二人の死者が出た事件を知ることとなった主人公。まずは姉さんと一緒に探偵開始。でも、途中から姉さんが飽きてきて、映写技士で雇っている肌の黒い使用人が相談相手に。実は、本書で触れられているのがランズデールお得意の人種差別なのだが、ちょうどこの頃から、白人の間でも黒人差別に対するこれまでとは違った気運が見え始めてくる。これから、女性も物が言えるようになる時代、これから黒人の差別が見直されるようになる時代、そんな素敵な時代の素敵な登場人物たちの物語なのである。

 評者は、今ボチボチと、2003年話題になった海外物の本で、自分にとって面白そうな本を拾い読みしている際中だが、多分、本書は2003年長篇海外部門の評者的第1位の座から、滑り落ちることはないだろう。マキャモン『魔女は夜ささやく』やパタースン『サイレント・ゲーム』より、評者的には上の作品である。勿論短編海外部門はワイルドの『探偵術教えます』である。

 全国の聖月ファンの皆様。このサイトは、どういうジャンルが主体なの?ミステリーは避けているの?なんてよくお問い合わせいただくが、評者はこういう本が好きなのである。物語的にも、ミステリー的にも。こういう本を読むと、こういうことを言いたくなるのである。読むべし、読むべし、べし、べし、べし。少しハートウォーミングなランズデールを堪能あれ。(20040313)


※朝、8時から読み始め、夕方4時に読み終わる。一気の読書、至福の時間である。

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by kotodomo | 2005-07-01 10:27 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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