2005年 07月 01日
前作『葉桜の季節に君を想うということ』を“騙されました”と言いながらも多くの読者が支持していたが、評者としては騙されたとかそんなのどうでもいいから、なんで話がこうくるの?無理があり過ぎるんじゃないの?前半の物語の面白味が半減じゃん!と、馴染めなかった歌野晶午。次回作が全然楽しみじゃなかった評者なのに、図書館で見かけてしまって、本書『ジェシカが駆け抜けた七年間について』を借りてしまって、やっぱりしまったと思ってしまってしまってしまって。 歌野晶午、健在である。前作同様、叙述ミステリーである。最後に叙述におけるネタをばらして、ええっ!そうだったのか!!!と読者に驚いてもらうためだけに書いた物語である。前作同様、最後の最後で、自分の叙述について、ああだこうだと、言い訳かましているのも健在である。そして、前作同様、ネタを知った評者は、だからなんなんだ、と呟いたのも健在である。 題材は女子長距離ランナー。最初で作者は問いをかける“もし、自分が二人いたら?”そうすれば、自分が衆人監視の中走っている間に、もう一人の自分が殺人起こしてもアリバイが…などと、実につまらん命題を読者に提示し、実際にはそういった類いの事件が起こって読者は首を捻り、最後に種明かし、そうだったのか、めでたしめでたしというお話なのである。 のっけから、叙述がひっかかる。主人公のジェシカが、時計を確認しながら起床したり、就寝したりするのだが、その時刻が変なのである。なんじゃ?と思っていると、作者の解説が入る。自分の出身国の時刻に時計を合わせているのだと。もうひとつひっかかった叙述が気温。作者は、気温を華氏で表現して読者を混乱させ、そこですぐ摂氏に置き換えて表現しなおす。なんじゃ?と思っていると、最後まで読み通したとき、この二つのひっかかりが、物語のトリックの扉を開けるキーであったのが理解される…のだが。 いくら、これがキーですと置いてあっても、そのキーの使い方を知らなきゃ扉は開かない。扉にキーを差し込んで、押しても引いても、もしやと思って横にスライドさせても扉は開かない。困ってしまってしまってしまってワンワンワワンの評者に、作者が語りかけてくる“いや、その扉はですね、キーを差し込んだら、上にスライドして開けるのですよ、シャッターみたいに”評者は答える“で、あなたはなんのためにこの珍妙な扉を作ったのでせうか?” 正直言って、叙述トリックの辻褄合わせは完璧である。だから、まだまだ世の中にはこういうトリックがあるのか、なんていうことに興味のある読者には面白いのかもしれない。評者としてはミステリーでもトリックより物語性に重点を置いているので、そういう意味では本書より前作『葉桜の季節に君を想うということ』のほうが面白いと思う。でも、評者にとってはどっちもどっちで、評価記号が前作は×、今回は△だが、大きな意味合いはなく気分だと思っていただいて結構である。(20040318) ※たいした分量ではないので、一気読みをお薦めする。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 10:56
| 書評
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