2005年 07月 01日
大学を4年で卒業できなかった評者は、5年目を友人のマンションで一年過ごしたことがあるのだが、その一年間に対して今となって感謝していることがある。二人で住むといっても、こちらは転がり込んだ立場だから、色んな局面で遠慮するわけで、音楽を聴くという行為もそう。友人はステレオでガンガン聴くのだが、評者はステレオなど持っておらず、唯一の音楽再生装置ラジカセにヘッドホンを繋げて聴くのである。友人は洋楽専門、評者は邦楽専門(大学の学科は法学専門←シャレのつもり。笑え)、全然聴く音楽が違ったのである。でも、ヘッドホンばかりしていると何だか疲れてきて、結局は友人のかけるレコード(当時はまだレコード)を一緒になって聴くこととなる。お陰で、レッド・ツェッペリンだとか、ポリスだとか、ジェフ・ベックだとか、自分一人だったら知ることもなかったような音曲を憶えてしまったのである。 だから、本書のようにツェッペリンだとか、ロバート・プラントだとかをモチーフにもってこられても、知らないわけじゃないので、そこらへんが友人との一年間のホモ共同生活に感謝している部分である。本当はホモじゃないが、男二人の共同生活はやはりどっかホモチックである。肉体的には友人の臭かろう口にも、汚いケツの穴にも興味ないが、お互いしっかりと生活をする暮らしが身についていたので、生活様式においてホモチックにならざるをえないのである。自炊し、洗濯もする。そうすると友人が評者の口に入るであろう料理を作るわけである。友人が履いていたパンツを、評者が自分のパンツと一緒に洗い干すわけである。なんか、ホモである。 話がそれた。これまでの大崎善生の作品といったら、透明感のある沁みる文体が特徴であったが、今回のこの作品『ロックンロール』では、軽妙洒脱でユーモラスな上、どこか牧歌的な文体で通している。音楽を下地に置きながら(そうそう、洋楽知らないって方も想像しながら読めば問題なし。音楽知らないから面白くないということはないのでご安心を。ただ、知っていればより楽しめるということ)、まるで作者の生き写しみたいな主人公を描写してく。 主人公は作家(大崎善生も作家。以下主人公と大崎善生が重なる部分は大崎と付記しておこう)、札幌出身(大崎)、現在は西荻窪に住む(大崎)。大学を中退(大崎)した後、雑誌の編集(大崎)に携わるようになり、熱帯魚をモチーフにした小説(大崎)で著名な賞を受賞(大崎)し、現在小説の第二弾を担当編集者と一緒になって捻り出そうとしている真っ最中なのである。編集者が、早くとりかかってくださいと懇願する。パリに行ったら書けるかもと主人公。そして本当にパリに行く、面白い小説の始まり、始まり~。 パリに行ったら小説を書けるという主人公、女にだらしない編集者、青臭いようでちょっと才気も感じられる女性編集者、それぞれに特徴ある人物が描かれているが、なんといっても一番魅力的なのは、主人公が滞在するホテルの部屋に決まった時間に押し入ってくる、巨体黒人掃除婦コーニーだろう。まあ、実際に読んで、その意味を理解してみてチョ。 いい意味で、村上春樹のユーモア文体小説の模倣的作品。大崎善生自身が、村上春樹の本をボロボロになるまで繰り返し読んだと公言しているので、そういう言い方をしても構わないだろう。そのユーモラスな文体が、前半部分テンポよくて楽しく読めたのだが、後半少し哲学的に重くなり失速。少し残念な気がした評者なのである。 評者も是非パリで書評を書いてみたいものである。いや、贅沢は言うまい。軽井沢あたりでどうだ?って、誰に言ってんの?俺は、私は、聖月さんは?(20040408) ※評者は、読書も半ばくらいに、よく表紙をつくづくと眺めてみたりする。この本の表紙には小石が使われている。作中使われるモチーフでもある。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 11:11
| 書評
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