2005年 07月 01日
東京に来て、久々に買った3冊の本のうちの1冊。鹿児島では図書館本が主体の評者だったので、帯がついたままの本ていうのは新鮮である。実はこの本、帯が2枚重ねてついている。元々の下のほうの帯には普通に「夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた」と書いてある。そしてその上に新しい帯が、、、「祝!本屋大賞『博士の愛した数式』で本屋大賞、読売文学賞をW受賞した小川洋子最新作」とのコピー。なるほどね、2匹目のドジョウはいるか?なのねえ。ブラフマンてドジョウなのねえ。うんうん、ドジョウは2匹はいなかったわけだ、ふんふん。 話はいたって簡単。夏のはじめのある日、僕の元にやってきたブラフマンとの日々を書いた物語で、最初の帯のコピーがすべてをあらわしているわけであり、それ以上でもそれ以下でもない。もっと簡単にいうと、それだけの話なのであり、もっと感情的に言うと、たったそれだけの話でここまで長々と書くか?という物語なのである。 確かに、これまで読んだ小川洋子作品『沈黙博物館』も『博士の愛した数式』もワンアイディア作品ではあった。多くの人に読まれた『博士の愛した数式』を引き合いに出すなら、記憶が80分しか持たない初老の数学者という、それだけの設定であった。しかしながら、そこから派生する人との関わりや、実際に博士が愛している数式というものを通して、人の愛とか思いとか色んなものを内包した語り継がれるべき珠玉の作品に仕上がっていた。ところが本書『ブラフマンの埋葬』は、ある日ブラフマンがやってきただけの設定で、それだけの設定のまま終わってしまうのだから『博士の愛した数式』の奥深さとはまた別なのである。(ブラフマンが一体どういう動物なのかは本書のミソでもあるので明かさないが)。 そういいながらも、さすがは女村上春樹と評者が勝手に呼んでいる小川洋子だけあって、その筆致、その世界観は独特のものがある。無国籍な独特の、それでいて現実感のある世界を構築して、その枠組みで小説を築いていくのはさすがなのである。読んだ人は村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の世界を想像してみてほしい。読んだ人はいしいしんじ『プラネタリウムのふたご』の世界を想像してみてほしい。それも読んでいない人は『天空の城ラピュタ』だとか『風の谷のナウシカ』なんかの世界を想像してみてほしい。それも観たことないという人は・・・知らん、勝手にしてほしい(笑)。 今回のこの評価ではあるが、その独特の世界観、女村上春樹的な筆致は、これまでの彼女の作品群の中の埋もれた傑作を発掘したいと思わせるものがあり、『博士を愛した数式』が現時点での彼女の最高傑作であるという、小川洋子フリークの話を聞いたとしても、その心は変わらない心地よい雰囲気を持っていることには間違いないのである。(20040523) ※『博士の愛した数式』に感動したからといって、慌てて本書を買う必要はなし。評者のように慌てて買った人物から借りるのがベター(笑) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 12:20
| 書評
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from 歯医者さんを探せ!
at 2005-08-21 20:20
タイトル : 『ブラフマンの埋葬』
● 表紙の印象 繊細なタッチ。それに私ってほんと微妙な色あわせに目が無い。葉のモチーフから浮かぶBRAHMANの文字。読書を始めて11ページ目、おお、そういうことだったかと納得。ということは、地の色は石の色なのだなぁ。ところで、吉...... more
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from slow match
at 2008-02-10 03:01
タイトル : ブラフマンの埋葬
ブラフマンの埋葬 小川洋子著 鉄道が通る他は殆ど切り取られてしまったような村にある〈創作者の家〉で働く『僕』の元に、ある朝ブラフマンがやってきた。 ひとえにブラフマンが可愛くてその様子に癒されるぎ..... more
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by
bamse
at 2005-08-21 20:18
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blogをはじめる前は男性作家の作品を読むことが多かったのですが、最近女性の書く文章のやわらかさがとってもしっくりきています。小川洋子さん『博士の愛した数式』とこの本しか読んでなくて、他のも読みたいです。
ところで、 >ブラフマンが一体どういう動物なのかは本書のミソでもあるので明かさないが ではでは(あせってます)、私の「読後の余韻」はまずいでしょうか?(滝汗)
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bamseの影響で、いや触媒か、そんなこんなで「小川洋子のことども」作っちゃったし。TBしますね。いや迷惑がらずに(^^ゞ
いえ、今考えると全然ミソじゃないし(笑) 一体どういう動物でもないとこがミソ? それより、そちらの考察のほうが奥が深い(^.^) |
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