2005年 07月 01日
この作者のリンカーン・ライムシリーズは、単純に面白いミステリーを読みたいって言う人には、これはもう何も考えずに薦められる。短期間に事件と解決と危機が交錯するジェットコースター的な作りも、映像としてハリウッド的な像が脳内で結ばれる明快さも、またミステリーとしても思いも寄らなかった事実の表出とそれが二転三転するような驚愕も、これはもう非の打ち所のない作りなのである。評者も『ボーン・コレクター』『コフィン・ダンサー』と2作目までは既読で、2作目は書評に取り上げなかったけれども(当時は週2冊更新と決めていたのではずしてしまった)、どちらの作品も◎の評価なのである。そして3作目の『エンプティー・チェア』は未読で、今回の『石の猿』はシリーズの4作目にあたる。なぜ、3作目を読まなかったのか?なぜ2作目が◎なのに書評で紹介しなかったのか?というと、単純に面白いので、その繰り返し的な面白さに少し飽きがきていたり、単純に面白いので、書評に取り上げるのが面倒だったりしたからなのである。加えて登場人物たちに魅力を感じないこともある。登場人物に魅力を感じる。これは大事なことである。 登場人物たちに魅力を感じるからこそ、色んなシリーズが成り立っているわけで、既知の人物たちが今回はどんな活躍をしてくれるだろうというのが、観衆の興味なのである。だから、判子を押したような代表作「水戸黄門」とか寅さんシリーズとかでも、人気が絶えないのである。由美かおるの入浴シーンは今回はどんなだろうとか(笑)ところが、リンカーン・ライムシリーズの要であるところのリンカーン・ライム。下半身不随の車椅子生活者ながらその分析力が優れた科学者とういのはいいのだが、単なる頑固爺である。評者は頑固爺は好きじゃない。一方、彼の手足となるアメリア・サックス。長身で素敵な女性ということで、映像で観ればいかしてるんだろうけど、自傷癖を持ちトラウマを持ち、なんだか幸の薄い女で、おまけに頑固爺と肉体関係まであるので好きくない。だから彼らの活躍をまた読みたいっていうよりは、シリーズ毎の大きな事件設定として興味があるかないかが評者の読書意欲の選択基準になっているのである。3作目は興味を持てず、4作目は蛇頭との対決ということで読んでみようかと感じた評者なのである。 面白さはこれまで通り。中国難民を船に乗せてアメリカに蜜入国しようとした蛇頭ゴースト。接岸直前拿捕されそうになり、乗ってきた船を難民ごと爆破、生き残った難民も殺害しながら行方をくらます。それでもまだ、わずかに生き残った難民たちもいた。ゴーストは彼らの殺害を企て、難民たちの避難場所を探す。一方、ライムとサックスは、守るべき難民たちの居所と、その殺害を企てるゴーストの居所と、ふたつの捜査を開始するのである。 面白いのだが、最初から最後までずっと首を捻りながら読んでいた評者。このゴーストって何なの?蛇頭でしょ。難民を密入国させるためにきたんでしょ。捕まりそうになったから、船を爆破したんでしょ。だったらなぜ、こんなにも執拗に生き残った難民の命を狙うの?と首をずっと捻りながら読んでいたのである。このまま、その理由にも触れずに終わっちゃうのかなあと思っていたのだが、最後にその謎の解明が!!!って、なんかどうでもいいような理由が判明して、やっぱり首を捻ってしまった評者なのである。 ミステリー、エンターテイメントとしては極上。途中で驚愕の事実の判明に、評者も慌ててそれまでの記述を頭の中で再構築したり、この作者のサービス精神とそのテクニックには脱帽。本に対するこだわりのない読書初心者には、超お薦めの一冊ではある。(20040730) ※鹿児島の図書館で一回借りたが読まずに返却。今回荒川の図書館で借りて一気読み。そのくらいには気になっていた本書なのである。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 13:08
| 書評
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