2005年 07月 01日
独特の静かな箱庭設定の本書である。いしいしんじ『プラネタリウムのふたご』やアゴタ・クリストフ『悪童日記』がそうであったように、どこか無国籍、どこか不可思議な大人の童話なのである。 主人公はある島に住む若い女性。仕事は小説家。この島は不思議な島で、ある日それまで普通にあったものが、自然に存在しなくなってしまう。ある朝目覚めると、鳥という存在がなくなってしまう。勿論、鳥かごやら鳥類図鑑などは残ってしまうのだが、人々はなくなってしまったものには認識が持てなくなり、そういうものはもう燃やしたり捨てたりしてしまう。だから、鳥の存在がなくなると、それにまつわるものもなくなり、最後には認識もまったくなくなってしまう。あとから、わずかに残されたものを見ても、これは何だろうみたいな感じになってしまうのである。そういう不思議な島のお話である。ある日、写真がなくなる。そしてある日、本というものがなくなってしまう。主人公の女性は小説の仕事もできなくなってしまう。なくなって、なくなって、なくなるだけのお話。それだけで400頁。300頁くらいなくなってもよかったのかな(笑)。非常に退屈さを感じた評者なのでした。しかし・・・。 こういう現実はありまっせ。いつのまにかなくなったもの。今見ても、その使い方、存在意義さえわからなくなったもの。前にも書いたと思うけど、評者が鹿児島を離れる前まで乗っていた、安物の業務用アルト。その車に上の娘と乗ったとき"パパ、窓開けたいんだけどどうすればいいの?このなんか変なの動かすの?"これだけパワーウィンドウが普及すると、もう手動でクルクル窓を上げ下げするあの部分の使い方さえわからなくなってしまう世の中なのである。評者も呼称すら出てこない。取っ手かなあ?テレビからチャンンネルが消えて久しいし、昔の黒電話を娘たちの前に置いたら、はたしてダイヤルまわしてかけられるかな?レコードはまだその存在意義がありそうだけど、評者はLDを持っている。レーザーディスク。あのおっきい円盤。あれを娘たちに見せたら何だと思うかな?結局、世代交代で、新しいものにとって変わられている現在なのである。 本書の島では、なくなってしまったものの変わりが出現しない。だから、どこか物悲しい島のお話なのである。(20040731) ※少し、小川洋子に飽きてきました。やっぱり『博士の愛した数式』がベストなのかな。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 13:11
| 書評
|
Trackback(2)
|
Comments(0)
Tracked
from 本を読む女。改訂版
at 2006-03-04 20:41
タイトル : 「密やかな結晶」小川洋子
密やかな結晶発売元: 講談社価格: ¥ 720発売日: 1999/08売上ランキング: 29,959おすすめ度 posted with Socialtunes at 2006/03/01 すごい世界でした。静かで美しくて。その美しさに圧倒。 なんか、まじめに感想を書こうと思うと言葉が出ないので、 とりあえず余談から入ろうと思う。 先日のこと。うちの上司が、同じ日に予定が2つ重なってしまい困っていたので、 雑魚でもできる予定の方を私が引き受ける、という話をして、その日は終わった。 そ...... more
Tracked
from COCO2のバスタイム読書
at 2008-12-22 00:58
|
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||