2005年 07月 01日
結婚して10年経ってしまった評者なのである。結婚式は確か平成6年の1月。やっぱ、もう10年も経ってしまったんだなあ。平成5年の秋にはもう結婚を決めていて、だから子宝が宿ってもいいような交際をしていたら、早々と恵みをいただいて、それならと春頃と思っていた結婚式を早め、12月24日には生まれ来る子供の母子手帳のために先んじて入籍して、1月に結婚式を行ったのは、あれはもう10年前の話なのね。二人の娘の成長に、そんな期間の長さも短さも感じずに過ごした10年間でした。嫁さんへ。いつもありがとう。 で、1月の結婚式が終わって2,3日経ったある日、嫁さんが少し真顔でこう言うのである。"ねえ、もう一回結婚式してもいいかなあ。お金は私がだすから"って。嫁さんは、結婚直前まで養護学校の教師である。ボタンをはめるのに15分かかっても自力でやるよう面倒みたり、下の世話を焼いたり、給食を自分が食べる時間を惜しんでも、子供たちに一生懸命口へ運ぶ指導したり、そういう泣き笑いのある、胸を張れる職業についていたのである。"ねえ、教えた子供たちを呼んで、みんなの前でちゃんとした結婚式をあげたいの。あの子たち、大抵の子は一生ちゃんとした結婚式に縁がないから、せめて私の結婚式には出させてあげたいの。ねえ、お願い!"などと言われても、別に嫌な気持ちはないわけで、なんで"お願い!"なんて言われなきゃならんのかと思ったが、やっぱり嫁さんは嫁さんで、やりたいんだけど新しい旦那様が"いやだ。結婚式なんて一度のもんだ。それに俺は忙しいんだ"なんてやつだったら、そのときはあきらめなきゃと思っていたようである。嫌じゃないし、なんだか楽しそうだし、結婚式は相手が同一人物であれば何度やってもいいもんだし、それに忙しくなかった評者は"ん?いいよ。やろうやろう"。嫁さんは涙を流して喜びましたとさ。 結婚式は、衣装替えあり、キャンドルサービスありの、ちゃんとしたもの。子供たち、意味がわからないかも知れなかったけど、養護教育のお偉い方の祝辞などもちゃんとね。ただし、普通じゃないのは、50人くらいの生徒に会費制(お祝い金だと気を遣う父兄が何万も持たすといけないので、確か5千円くらい)で声かけたんだけど、結局出席者は150人くらいになったこと。いや、前もってわかっていたの、増えるだろうくらいのことは。一人じゃ外出もできないような子が多いので、親が付き添いでくるはずだから。でも子供たちの親御さん、ご両親できたとこ多かったから、3倍になりました。うちの子供が結婚式に呼ばれました。結婚式に出席する我が子の姿を見たいです。いいことです。とにかく、楽しい賑やかな結婚式でした。雰囲気が和んでくると、知的障害を持つ子供たちは高砂に寄ってきて、なれないお酌を新郎新婦に注いでくれたりしてね。子供たちの思い出になったのかどうか、その子たちの知的レベルで違うのだけど、ご両親もそうだし、自分たちにとっても宝のような思い出ができた素晴らしい結婚式でした。 本書『あの瞬間(ルビは"とき")、ぼくらは宇宙に一番近かった』は、知的障害者たちのチャレンジの話。ラストのほうで著者が書いている"うちの生徒たちには縁のなかった・・"ことにチャレンジするお話である。嫁さんが"結婚式に縁がない"と言っていたように、普通のことでも縁のない彼らが、普通の生徒たちでもチャレンジできないようなことに成功を成し遂げたお話なのである。NASAのスペースキャンプ。知能の高い生徒たちが集う競技的なキャンプに、著者が生徒たちを参加させてみたいと考えたところから物語は始まる。プログラム教育の遂行しか頭にない校長の反対、資金の問題、そして一番肝心なのは生徒たちの問題。そういったことを解決しながら、スペースキャンプへの参加に挑むお話なのである。 物語的評価は低くなった。〇である。実はこの本、どちからというと小説に近い物語だと思うのだが、実際には無駄の多いノンフィクションとして仕上がっているからである。ちょっとしたエピソードも拾い上げて書いているのだが、それが物語としては意味をなさない事象であったりする。だから、物語的な完成度が低いのである。障害児をスペースキャンプに挑戦させたある立派な志の教師の手記として読めばいいだろう。 そういう意味で、物語として薦めはしない。完成度は低いが、良書のノンフィクションとしてお薦めする。多分こういう結末だろうと予測しながら読んだ評者なのだが、最後はやっぱり涙した。いい涙。(20040806) ※図書館から借りたが、こういう良書を読むために図書館の存在意義があるのではないかな。 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-07-01 13:17
| 書評
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