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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 01日

◎◎「パラレル」 長嶋有 文藝春秋 1500円 2004/6


 芥川賞受賞作『猛スピードで母は』をいたく気に入って、その後『タンノイのエジンバラ』『ジャージの二人』とその作品を追いかけている評者なのである。ところがである。どうも2作目、3作目を読んでも、評者の求めている長嶋有の作品とは違っており、もしかすると1作目だけやったんかいなと思っていたら、やってくれました。著者初の長編『パラレル』、すこぶるいい、非常にいい、長嶋有の淡々とした文章が好きな方、読むべし、読むべし、べし、べし、べし。相変わらず題名も素敵だが、内容はもっと素敵な物語なのである。

 と言っても、大した内容ではない(笑)。『猛スピードで母は』の中編2本では、家族もしくは母と自分の関係を淡々と描き、『ジャージの二人』では、父親と自分とついでに母親の関係を淡々と描いた著者のやり方は、今回も大きく変わってはいない。

 パラレルの意味を考えたとき(これは文中での言及はないのだが)、平行とか平衡の意味である。本作で描かれているのは、主人公と別れた妻のつかず離れずの奇妙な関係と、深い友情があるのかないのかわからない友人との、その距離感にあるのではないだろうか。そういうことを考えると、やはりここで描かれる世界はパ・ラ・レ・ル。

 先日、評者は年下の友人と銀座2軒行って、友人が全部で12万払ったのだが、考えてみたと き、評者とこの友人の関係もパラレルなのである。知り合ったのが24歳と21歳の頃。あれから18年。長いときは、3年も会わなかったし、今回東京に来てからは3回会っているが、年下の彼がいきなり連絡してきて"どっか行きましょか?"でデートするパターンである。いっつも彼が金を出す。前回は巣鴨の「笑笑」で二人で6000円だったので、値段も場所もどうでもいいような関係なのである。3年とか、1年とか、1ヶ月とかのインターバルで、彼が評者とどっかで飲も、そう思っただけで会う、つかず離れずの気の置けない関係なのである。お互いに結婚はしているが、お互いにいつの間にか結婚していたことに気付く、パラレルな関係なのである。

 主人公と元妻は、今でも同じ美容院に通い、今でも毎日のように元妻から"元気い~"などと、他愛もない携帯メールが届く仲。やり直したいわけでもないし、別れたから会わないという通常の関係でもない。お互いに恋愛も自由。小説にはありがちな設定ながら、長嶋有の淡々とした描写にかかると、これが味があって唸ってしまう。う~ん、上手いなあと。つきなみな小説の傑作、ここに誕生なのである。(20040815)

※ちなみにパラレルの解釈は、評者の勝手な理解なので、他の解釈を感じる方はその読み方でよろしいかと。

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by kotodomo | 2005-07-01 13:27 | 書評 | Trackback | Comments(0)


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