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「本のことども」by聖月

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2005年 07月 18日

△「半島を出よ」上下 村上龍 幻冬舎 上1890/下1995円 2005/3


 最初に断っておくが、本書は力作であり、各所での評判もよく、近未来物としても冒険物としても出色の出来である(んだろうなあ)。だから、以下に書くことは本書の書評というよりも、何故に評者はこういう作品とは相性が悪いのかというダラダラとした説明だと思ってほしい。ただし、日頃から本の感覚が合う方には、ひとつの評価になるのかな。

 例えば、評者はSFを好まないわけじゃないし、冒険物や謀略物が肌に合わない場合も多いがそれでも読書しながら本書を読むほどの退屈を感じることは少ないし、村上龍自体に好悪の感もないし、ノンフィクションに近いフィクションなんてのも嫌いではない。では、なぜ・・・多分、シュミレーション物が好きくないのだと思う。

 △『死都日本』石黒燿を読んだときも、同じような感じだった。読んでいて退屈・・・みたいな。この本は、南九州の霧島が大爆発する小説なのだが、こんな爆発したら鹿児島市なんて壊滅でっせみたいなこと言われても、ああそうですか、そうなんですかとしか言いようがないのである。普通、そうなるよなあ、みたいな。地球が爆発したらこうなりまっせみたいのと同じことで、まあ想像すりゃあ、そうなるわなあみたいな。

 本書の場合、そこまで明確にシュミレートの結果が万人一致する設定でもないのだが、まあ福岡ドームを北朝鮮の反乱軍が占拠すりゃあ大騒ぎになって、うんうん、閣僚は慌てるなあ、うんうん、及び腰になるだろうなあ、専守防衛でも正当防衛でもどんな考えでもいいけど、まあ日本の対応、うんうん、後手後手だろうなあ・・・というように、設定が提示された後は、まあこんな感じみたいなシュミレーション小説を読まされ続けるみたいな。非日常的で目から鱗のような世界(例えば評者の知らない疎いファッションの世界だとか、あるいは全然文化の違う異国の話とか)だったらいいんだけど、日常の世界の延長線上にある世界なので特に想像して、想像通りに物語が動いていってもいかなくても、ああそうですか、と、なんか退屈なのである。SFだったらまだしもなのだが。

 例えば、評者がある得意先の方と二人、酒を酌み交わすとしよう。向こうがお客様なので、話のチャンネル権は向こう。“もし、今突然、日本人が全員英語を喋れるようになったとしたら・・・”そんな話を先方が切り出したとしたら、これはもうSFの世界、想像の世界なので、こっちも興味を持って話が盛り上がるだろう。通訳さん失業しちゃいますねえとか、海外旅行バンバン行っちゃいますねえとか、輸入物エロビデオも何言ってるのかバッチシですねえとか。ところが“もし、今突然、日本が鎖国したら、あなたどうなるか知ってます・・・今の日本の食糧自給率・・・石油資源ムニャムニャ・・・情報鎖国ムニャムニャ・・・”そんなシュミレーション語られた日には、“ああ、そうですか、そうなんですか、へえ”と相槌打ちながら“ああ、退屈。はよ終われ。帰ったら糞して寝てこましたろ”な評者なのである。

 まあ、裏を返せば、評者は知ったかぶりの威張りんぼなのである。考えたこともないのに、そんなこと考えれば大体そうなることはわかるよみたいな嘯き野郎なのである。天邪鬼なのである。

 ただ、不貞腐れてばかりいるのも癪だから、本書のシュミレートにも明らかに欠けている記述があるのも指摘しておこう。当局が、及び腰になり後手後手になるのはわかる。しかし、日本人はそういうとき、それを隠さんがために人質優先として人質解放交渉を始める。でも本書では、一切そういう行動が起こらないのが不思議。どこかにそういうことが起こらないような楔の話もなし。他にもなんか変なんだなあ、全体。(20050719)

※多分、情報量としては凄い作品。でも、知りたい情報がなかった作品(書評No540)

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by kotodomo | 2005-07-18 14:13 | 書評 | Trackback(7) | Comments(0)
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タイトル : 半島を出よ  村上龍
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