2005年 09月 15日
四十日と四十夜のメルヘン 青木 淳悟 / 新潮社 スコア選択: 奇才で鬼才な書き手であることことに間違いない。ジャンルは純文学。結構難解な作品を読むことを厭わない評者なのであるが、それでも消化不良を感じた二つの中編が収められた本書である。しかし・・・2003年に早稲田大学文学部在学中に、表題作「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞をとったというのは素晴らしい。何が素晴らしいかというと、20歳そこらの若者が書いた小説が、40歳を過ぎたオジサンにも消化できない進取の小説技法と有り余る知性を内包しているからである。阿部和重と古川日出男に共同執筆させたような文体、すべてを吸収できなくとも、その凄さを感じることはできる・・・よくう、わかんなかったんだけどお、なんかあ、面白いしい、みたいな・・・そんな感じの本書である。 ついでに新潮新人賞なるものを調べてみると、選考委員が浅田彰、阿部和重、小川洋子、町田康、ついでに福田和也。福田君はどうでもいいのだが、浅田君と阿部君と小川君と町田君がいいと言うのだからいいのである。特に阿部君や町田君なら、こういう新しい小説作法の作品を好むだろうなあという感じである。 まずは、表題作「四十日と四十夜のメルヘン」。ここでも調べ癖のある評者は調べたぞい。“メルヘン”とはなんぞと。読み終えて、果たして、こはメルヘンなるものか?と思った評者は調べたのであった。調べると簡単な言葉であった。まず、ドイツ語であることがわかった。なるほどミュンヘンに似ている、関係ないけど。“おとぎばなし。昔話。童話。妖精・小人・魔法使いなどが活躍する空想的な物語”・・・昔話でも童話でもないし、妖精や小人や魔法使いは出てこないが、うんうん、空想的な物語ではあるのでメルヘンかもしれない。いや、ミュンヘンくらいか。空想とも奇想とも言える物語である。 チラシの配布をバイトにしている主人公。その主人公はチラシの裏に日記を綴る。七月四日から七日までの四日間。そして日記を書き直す。またもや七月四日から七日までの四日間。そして日記を書き直し・・・全部足せば計四十日になるのか評者は数えなかったが、その日記と、現実世界における奇想と、文筆活動も目指す主人公の作中作とが織り成すタペストリーと言えば綺麗な常套句で、本質はカオスと言ったほうが良いのではないかな。それぞれの文章は平易。平易ながら、この作者の小説技法の上では難解さを帯びてくる。超難解みたいな。俺は長男かい?みたいな。キミは次男かいみたいな。ケツの痛いのは痔なんかい?みたいな。 もうひとつの「クレーターのほとりで」。こちらは傑作である。大傑作である。であることはわかるのだが、またしても糞に食べたものがそのまま出てくるような消化不良。上の口から作者の言葉を飲み込んで、よく消化できればいいのだけど、なんかそのまま出てきてしまいました、下の口から。モヤシじゃん!トウモロコシの粒じゃん!みたいにさ。それでもそれでも、消化不良とか言いながら、こうやって書評に吐き出している自分は偉いのかもの評者。とにかくですね、紡がれる物語の奔放さに脱帽なのですよ。いや、何が書いてあるのかと問われても、粗筋なんてあったもんじゃないんですけどね。 小林秀雄の評論や、大江健三郎の作品のように、何度も何度も読んで、わかったけどわからないけど面白いみたいな読書に自信のある読書人よ、是非挑戦してみるべし。少なくとも評者は次作が出たら、また挑戦しよう(^O^)/の読後感なのである。そのままの形で出てこようが、やはりモヤシもトウモロコシも旨くて美味いのだ。この作者も上手いことだけはわかる評者なのである。(20050915) ※読み終えて、俯瞰できたとこで、再度細かく読みたくなるような、そんな作品である。(書評No564) 書評一覧 ↑↑↑「本のことども」by聖月書評一覧はこちら
by kotodomo
| 2005-09-15 22:22
| 書評
|
Trackback(1)
|
Comments(6)
Tracked
from 雑食レビュー
at 2005-09-16 13:36
タイトル : 四十日と四十夜のメルヘン
四十日と四十夜のメルヘン青木 淳悟 / 新潮社(2005/02/26)Amazonランキング:6,160位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見る 私はふつう、感想の書き出しには必ずあらすじめいたものを書くことにしているのだが……この作品に関してはあらすじを書くことなど不可能。というよりも無意味。読み終わった今も、この作品がまったく見えないのである。 ... more
Commented
by
xyz
at 2005-09-15 22:51
x
揚げ足とるようですみませんが、これが受賞した時は選考員が違って阿部君はいませんし、町田君は逆に否定的で×をつけていたようです。
0
マイドです♪
この本読まれたんですね~(^^ とうもろこしの粒、って感想、なんかすっごく納得できます(^^ 個人的にはそのワカラナサがとても響きました♪ 今後が楽しみですね~ 「週刊ブックレビュー」に出演していたのを見ましたが、フツーの青年でした。
xyzさん 自分でももっと調べるべきと思った記述箇所。
ご指摘ありがとうございます。そうか、そうなんですね。 でも、感覚的に書き捨てていますので、まあ間違いも間違ったままにしときます。 君付けに賛同いただきどうもなのです。
いっちゃんさん 毎度です。
いや読み終えたときは、こりゃあ何感想書くべ?と思ったのですが、何しろ私天才なんで、勝手に言葉が吐き出てきて、ケツからスウィートコーンがプリリンて感じで(^^ゞ 本当に今後が楽しみな、本当に若手の作家のようで。いま少し読者に迎合した作品が出てくれば・・・『シンセミア』阿部ちゃんのような(^.^)
でも、こんなわけわかんない本で、おおきさんもマイレコ投稿していたじゃないですか(笑)
デビュー作の表題作より、2編目のほうが完成度高く思える私には、やはり今後が楽しみなのです。 |
アバウト
カテゴリ
ことどもカテゴリ
意外と書評が揃っているかもしれない「作家のことども」
ポール・アルテのことども アゴタ・クリストフのことども ジェフリー・ディーヴァーのことども ロバート・B・パーカーのことども アントニイ・バークリーのことども レジナルド・ヒルのことども ジョー・R・ランズデールのことども デニス・レヘインのことども パーシヴァル・ワイルドのことども 阿部和重のことども 荒山徹のことども 飯嶋和一のことども 五十嵐貴久のことども 伊坂幸太郎のことども 伊集院静『海峡』三部作のことども 絲山秋子のことども 稲見一良のことども 逢坂剛のことども 大崎善生のことども 小川洋子のことども 荻原浩のことども 奥泉光のことども 奥田英朗のことども 香納諒一のことども 北森鴻:冬狐堂シリーズのことども 京極夏彦のことども 桐野夏生のことども 久坂部羊のことども 黒川博行・疫病神シリーズのことども 古処誠二(大戦末期物)のことども 朔立木のことども さくら剛のことども 佐藤正午のことども 沢井鯨のことども 柴田よしきのことども 島田荘司のことども 清水義範のことども 殊能将之のことども 翔田寛のことども 白石一文のことども 真保裕一のことども 瀬尾まいこのことども 高村薫のことども 嶽本野ばらのことども 恒川光太郎のことども 長嶋有のことども 西加奈子のことども 野沢尚:龍時のことども ハセベバクシンオー様のことども 初野晴のことども 花村萬月のことども 原りょうのことども 東野圭吾のことども 樋口有介のことども 深町秋生のことども 『深町秋生の新人日記』リンク 藤谷治のことども 藤原伊織のことども 古川日出男のことども 舞城王太郎のことども 町田康のことども 道田泰司大先生のクリシンなことども 三羽省吾のことども 村上春樹のことども 室積光のことども 森絵都:DIVEのことなど 森巣博のことども 森雅裕のことども 横山秀夫のことども 米村圭伍のことども 綿矢りさ姫のことども このミス大賞のことども ノンフィクションのことども その他全書評一覧 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||